第18話

夕方6時ジャストに迎えの車がやって来た。


玄関を開けると、そこに立っていたのは

「徹ちゃん!」

真柴建設の営業部社員の『徹ちゃん』こと長瀬徹哉だった。

相変わらず金髪にピアスという、おおよそ社会人とは思えない

いで立ちだった。


「ご無沙汰してます。姐さん」

ぺこりと頭を下げた。

冴子さんに見送られ、徹ちゃんがドアを開けてくれた

ベンツに乗り込んだ。


車が静かに走り出す。


「本当に、久しぶりね。いずみさん元気?」

「はい。姐さんに会いたがってましたよ」

いずみさんというのは、徹ちゃんの彼女で元キャトル・レザンの社員。

あたしと徹ちゃんは、3ヶ月前突然失踪したいずみさんの行方を

一緒に追ったのだ。


―――――結局、解決したのは真柴だったけど…―――――


いずみさんは、実家の静岡に帰り病気療養中のお父様と暮らしている筈。


「遠恋じゃ、淋しいでしょ?」

あたしが聞くと

「まぁ、でも週1で東京に来てくれるんスよ」

と照れながら答えた。


車は渋滞にはまることもなく順調に進み、前回の事件の思い出話で

盛り上がっているうちに、六本木シエスタの前に到着した。


エスコートしてくれた徹ちゃんに別れを告げ、エレベーターに乗り込んだ。



最上階でエレベータを降りると、目の前には赤い絨毯を敷きつめた

ロビーが広がっていた。

天井からさげられたシャンデリアが煌びやかな輝きを放ち

大理石のテーブルの上に置かれた、大きなクリスタルの花瓶に生けられた

カサブランカが甘い香りを漂わせている。


気後れしてしまう程の華やかさ。


あたしは緩くカールさせた長い髪を後ろに払うと、シャンと背筋を伸ばした。


受付で真柴の名前を告げると、すぐに中に通された。

全面ガラス張りのフロアーからは、都会の夜が一望できる。


真柴は、窓際の席に座っていた。

長い足を組み、片肘をついた姿勢で物憂げに外を見ている。


あたしに気づくと、軽く手をあげた。


艶やかな黒いタキシードを着て、いつもはおろしている前髪を

後ろに流している。

普段とは違う雰囲気に、思わずどきっとしてしまう。


あたしの視線に気づいたのか、「ああ」という顔をして言った。


「さっきまでこの下の広間で、取引先の創立記念パーティーに出てたから」

「あ、そう」


あたしはどきどきを悟られないように、努めてそっけなく答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る