第17話
「見てくださいよ、これ」
冴子さんが手にしているのは、真っ白いドレスだった。
「素敵!ほら、ラインストーンがこんなにいっぱい付いていて。
あ~、ウエディングドレス思い出しちゃうわ。これシルクですよ」
すっかり乙女モード全開で、はしゃぎまくる冴子さんからドレスを
受け取ると、目の前に掲げてみた。
ミディアム丈のスカート部分には、重ねたチュールとフリルが
ふんだんに使われていて、波打つような曲線を描いている。
ベアトップの胸元にあしらわれたラインストーンが日差しを受けて
まぶしい程きらきら輝いていた。
あたしは、サイドテーブルに置いてあったスマホを取り電話をかけた。
2コール目で真柴が出る。
「おはようございます。お嬢様、ご機嫌麗しゅう…」
「麗しくないわよ!」
相変わらず、人を小馬鹿にした態度に腹が立ち、つい語気が荒くなる。
「なんだ、朝から随分ご機嫌ななめだな」
あんたが、斜めにしたのよ。
「ちょっと、どういうつもり!」
「何が?」
「なんで、こんなの送ってくるのよ」
あたしは、手に持っていたドレスをぶんぶん振り回した。
「ああ、もう届いた?思ったよりも早かったなぁ」
満足気に呟く真柴の声に、あたしの怒りは頂点に達した。
「これを着て、あんたに会いに行けって事なの!」
「なかなか、鋭いね。ご名答」
「冗談じゃないわよ!あたしは行かないから」
その時、服のすそをグイッと引っ張られた。
振り向くと冴子さんが、睨んでいる。
その顔は
『そんな失礼な口の利き方をしてはいけませんよ』
と言っていた。
「じゃあ、6時に」
冴子さんの迫力に一瞬ひるんだ、あたしの耳に真柴の声が飛び込んでくる。
「えっ?」
「車を回すから準備しておけよ」
「だから、あたしは行かないって―――」
「昨日会った関係者から、警察も知らねぇ話を聞き出せたんだよ」
はっ?思わず息をのむ。
今、何て言った?警察も知らない話って…
「詳しい事は、会ったときに話す」
今にも電話を切ってしまいそうな気配に、あたしはあわてて声を掛けた。
「ちょっと待ってよ。ドレスなんか着て、どこに行くの」
「六本木シエスタの最上階」
それだけ言うと、電話が切れた。
六本木シエスタの最上階っていったら、あたしでも知ってる会員制の
高級クラブじゃないの。
大企業の経営幹部や高級官僚、大物政治家などが集まる場所で
厳しい審査にパスした人しか会員になれないって聞いている。
ドレスが必要なのも頷けた。
「美月さま。これを着てデートですか?」
ニヤニヤしながら冴子さんが言った。
「デートじゃないわよ!」
「まあまあ、そんなにムキになって。
さあ、このドレスに合う靴はどれでしょうね。
ボレロがいいかしら、それともファーのショールの方がお似合いかしら?」
冴子さんは、スッテップを踏むような軽快な足取りで二階へと上がって行く。
「美月さまぁ。ドレスを持ってきて下さいな」
あたしは立ち上がると、ノロノロと階段を上った。
部屋に入ると、まるでスタイリストのようにクローゼットや
アクセサリーケースをガサゴソあさって、ドレスに合う
コーディネートを吟味している。
「髪はアップにしますか?
それとも下ろしたまま巻髪の方がいいですか?」
こうなると、もう好きにして状態だ。
あたしは、黙って着せ替え人形に徹した。
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