第16話
あたしはめずらしく冴子さんに起こされる前に目が覚めた。
時計を見ると、まだ6時半。
今日は、真柴との約束の日だ。
行くのか、行かないのか…正直まだ迷っていた。
パジャマから部屋着に着替え、リビングへ降りる。
まだ冴子さんは来ていない。
牛乳を飲みながら、TVをつけた。
北川先生の事件を放送している局はない。
仲村の逮捕以降、報道は一気に下火になっていた。
毎日途切れることなく、事件・事故は起きている。
報道は、より新鮮で刺激的な事件に多くの時間を割くのだろう。
朝からブルーな気分になっていると、携帯メールが届いた。
見ると、学校からの連絡メールだった。
北川先生の告別式が明日の2時から都内のお寺で執り行われる
という内容だった。
それに続くように、花菜子からのメール。
『おはよう。具合良くなった?北川先生の告別式参列する?』
あたしは、すぐに返事を返した。
『うん。どっかで待ち合わせして、一緒に行かない?』
『OK(^0^)/最寄り駅調べて、また連絡する』
『了解!よろしく』
そんなやり取りをしていると、玄関の鍵が開く音がした。
冴子さんだ。
「おはよう。冴子さん」
冴子さんは、リビングの前の廊下に立ちすくむと幽霊でも
見たような顔をして言った。
「どうしたんです、美月さま。こんな時間に起きてるなんて…
熱でもあるんじゃないですか?そう言えば頭痛がするって仰ってましたよね」
「………」
ひどい言われよう。
確かに、毎朝冴子さんの声でたたき起こされてる。
でも、あたしだって年に数回は起こされる前に起きる事があるのよ!
多分ね…
眉をしかめているあたしと目が合うと、
「あ~、毎朝こうならいいんですけどね~」
と言いながら、朝食の支度をしに、キッチンへ行ってしまった。
「今年の分の早起きは、これで最後よ」
あたしが呟くと、「何か言いました?」と顔を覗かせた。
「おなかすいたって言ったの!」
冴子さんさんはくすっと笑うと、キッチンへ引っ込んだ。
ハムエッグとトーストで朝食を済ませた後、読みかけになっていた
推理小説を持って、サンルーフへ移動した。
11月の半ばを過ぎたとは思えないほど、降り注ぐ日差しは
温かく、心地良かった。
不意に、チャイムが鳴った。
応対している冴子さんの声がかすかに聞こえる。
「美月さま。お荷物が届きましたけど」
顔を上げると、すぐ傍に宅急便の箱を2つかかえた冴子さんが立っていた。
「誰から?」本に栞を挟みながら尋ねると
「真柴さまからです」
はぁ?真柴?!
あわてて箱を受け取り送り状を確認する。
確かに送り主は『真柴涼』になっていた。
一体何を送りつけてきたの。
いきなり爆発したりして…
ちょっと気味が悪くなり、あわてて床に置いた。
「開けないんですか?」
冴子さんが、床に座り込みながら聞いてきた。
その手には、しっかりとカッターが握られている。
「冴子さん、開けてみて」
そう言い終える前に、冴子さんは器用に蓋を開け始めていた。
クール便と書かれた小さい箱の中には『特選・明太子』が入っていた。
もうひとつの薄い箱を開け、中を覗きこんだ冴子さんの口から
「きゃぁぁ」と言う声が漏れる。
なに?何が入ってたの?やっぱり爆弾。
反射的に後ずさったあたし向かって、箱から取り出したものを見せた。
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