第15話

あたしは夕べ読んだ調書を思い返してみた。

その中に、仲村の無実を感じさせるものは無かったと思う。


いや、むしろ犯行を決定付けるような言葉が書かれていたはず。


「仲村のジャンパーに被害者の血液付着」

これは動かぬ証拠じゃないのかしら?


「お嬢、明後日の夜はあいてるか?」

突然、思考を中断されハッと我に返った。

「え、何?」

「明後日の夜は暇か?」

「特に用事はないけど…」


「じゃあ、デートしようぜ。約束しただろ」

「はぁ?」


思わず携帯を見つめてしまった。

こんな状況で、よくも暢気に冗談言ってられるわね。

付き合いきれない。


あたしは、きっぱり、はっきり答えた。

「あんたとデートなんてお断りよ!」

「夕方迎えをやるから。またな」


あたしの声など、まるで聞こえていなかったかのように

あっさりそう告げると、勝手に電話を切ってしまった。

ツゥーツゥーという音がむなしく響く。

絶対に行かないからね!電話に向かって大きくアッカンベーをすると

そのままベッドの上に倒れこんだ。


しばらく、そのままの姿勢で目をつぶっているとさっきの

真柴との会話が耳に蘇ってくる。


真柴は、調書を読んで仲村の逮捕に疑問を持った様子だった。

あたしは起き上がり、PCの電源を入れ、立ち上がるのを待つのも

もどかしくメールを開いた。


4Pの資料をもう一度丁寧に読み直す。


仲村の調書、北川先生の検死報告、婚約者森村 茜の調書

そして、捜査に関するメモ。


ふと、聞いたことの無い言葉に気がついた。

『北川 戸嶋医院 イソミタール処方』


イソミタールって?


早速、ネットで検索してみる。

あった!


成分:アモバルビタール

睡眠鎮静剤、抗不安剤/バルビツール酸系


北川先生は、睡眠薬を服用していたんだ。

そういえば、最近様子がおかしかった。

授業中も上の空で、顔色も良くなかったような気がする。

何か悩み事でもあったのかしら?



何度、読み返してみてもそれ以上の事は分からなかった。

あー、いらいらする。


真柴はこの調書から、何を読み取ったんだろう。

それに、明日事件の関係者に会うとも言っていた。

一体誰に会う気なの?


それにしても、真柴は何故この事件に首を突っ込む気になったんだろう。

只の興味本位だけで、ここまで調べるとは思えない…


まさか、あたしとデートする為?

―――――そんな筈ないか。

即座にその考えを否定する。


”親同士が勝手に決めた”とはいえ、一応は婚約者だ。

こんな回りくどい事をする必要性など、どこにもない…


だったら、何故?


どんなに考えても、いっこうに答えは見つからず、あたしはPCの

電源を落とした。


もし明後日会えば、疑問に答えてくれるのかしら?


行くべきか、行かざるべきか…

あたしの心はハムレットのように揺れていた。


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