第14話

真柴から電話がきたのは、夕方になってからだった。


「悪ぃな…

 何度も電話もらったみたいで…ちょっとトラブってて」

いつもと違って、気だるげなトーン。

電話口からも疲労感が漂ってくる。


「仕事?」

「あぁ…」

真柴はため息をついた。


おやじ様もそうだ。

クレーム処理で走り回った後には、必ずリビングの

ソファーに沈み込み、深いため息をついていた。

そんな姿を見るたびに、切ない気持ちになったものだ。


「大丈夫?」

あたしが尋ねると、ちょっと間をおいて返事が返ってきた。

「めずらしいな、お嬢が優しいなんて…」


その声はいつものからかうような調子に戻っていた。

”めずらしい”は余計よ。

あたしはいつだって優しいんだから。

…折角心配してやったのに、損したわ。


すぐに電話を切りたい気持ちをぐっとこらえ、話しを切り出した。


「ねえ、昨日もらったメールだけど」

「読んだか?」

「…うん」


数秒の沈黙の後

「明太子嫌い?」


ふざけるな!

喉まででかかった言葉を飲み込んで、何とか平常心を保つ。


「そうじゃなくって、添付のほう」

「ああ、そっちね」


気の無い答え。


「あれって、本物の調書だよね?どこから手に入れたの?」

「気になる?」

「当たり前でしょ!」


つい大声になってしまうあたしと対照的に真柴はいたって冷静に

「企業秘密」

その後に付け加えるように

「後ろに手が回るようなルートじゃねぇから、安心しな」

と言った。


本当かなぁ、ちょっと疑わしいけど。

あたしが、その言葉の真偽の程を思案していると

「お嬢はあの調書を読んでどう思った?」


どうって言われても…

黙っていると、真柴が言葉を続けた。

「どうも引っかかるんだよな。すっきりしねぇ」


言わんとするところが分からず、返事を出来ずにいると

「その件で、明日関係者に会うつもりだ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。だって犯人は仲村なんでしょ」

「さあ、どうかな」


電話の向こうで、不敵な微笑を浮かべる真柴の姿が見える気がした。

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