第10話

遠くからかすかに聞こえる着メロで、目が覚めた。

出ようと、スマホに手を伸ばした瞬間電話が切れる。


時計を見ると午後8時半を少し回った所だった。


誰からだろう?

着信画面を確認すると『真柴』の文字が。

リダイヤルボタンを押しかけ、手を止めた。


急用ならまた掛かってくるでしょ。


電話をテーブルの上に戻すと、大きく伸びをした。

あたし、いつの間に眠っちゃったのかしら?

お風呂上りにリビングで、地下室のカーヴから拝借してきた

ワインをあけながらTVを見ていたはずだけど…


見るとボトルの中身はほとんど無くなっていた。


『mon tresor(私の宝物)』キャトル・レザンのオリジナルワインで

あたしの最近のお気に入りだ。


家に帰ってから、ずっとニュース番組を梯子してチェックしていたが

今だ重要参考人の名前は発表されず仕舞い。


暇を持て余していたあたしは、ついつい飲み過ぎてしまった…

残りのワインをグラスに注いでいると、携帯が鳴った。


「もしもし」

「よう、お嬢。晩酌の邪魔したか?」


真柴の言葉にギョッとした。つい辺りを見回してしまう

まさかね、見られてる訳無いじゃないの…


「なに言ってんのよ。あたしは女子高生なんですからね」

電話の向こうで吹き出す気配がした。

「何だ図星か」


ムカつく奴!

このまま電話を切ってやろうかしら…と思った瞬間

「お嬢様のご所望の品を手に入れましたよ」

「ご所望って?」

「何だ、自分で言っておいて忘れたのか?」


要領を得ないあたしにちょっと呆れた声で答えた。


「北川武殺害の捜査調書だよ」

「ええ!!」


確かに、昼間学校で会った時にそんな話をしたけど…まさか!?


「お嬢はPCメール持ってるのか?」

「持ってるけど…」

「じゃあ、そっちに送るからアドレス教えてくれ」


半信半疑ながらも、メアドを伝えると

「了解。すぐ送るから」

「ねぇ、ちょっと待ってよ。

 捜査調書なんて、どうやって手に入れたの?」


その時、真柴の電話の後ろからかすかに女性のアナウンスの

声が聞こえた。

「これから福岡に出張なんだよ。詳しい話はまた後で。じゃあな」


いきなり電話が切れた。

さっきのは、搭乗案内のアナウンスだったのかしら?

それにしたって、一方的に切ることないじゃない。

あたしは注いだワインを一気に飲み干した。


あ、メール送るって言ってたな。

急いで二階の部屋に行き、PCを立ち上げた。

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