第6話

「組長!」

花菜子が目をまん丸にして駆け寄った。


「お嬢様方、朝っぱらから随分と勇ましいお姿で…」

そう言うと、またククッと笑った。

こいつ、ずっと見てたのね!


「どうしたの、こんな所で…あっ」

花菜子があたしの方を振り返り、ニヤニヤしながら

「愛しのハニーが心配で様子見に来たのね」

とのたまった。


「ご名答。

 と言いたいトコだが、単なる野次馬だ。

 取引先に向かう途中にニュースで聞いたもんだから」

「えっ、もしかして出入り?お礼参りとか?」

「いや、商談」

「麻薬密売の?」

「新築物件の」


放っておくと永遠に続きそうな掛け合い漫才。

いい加減痺れを切らしたあたしは、口を挟んだ。

「真柴さん、そろそろお仕事に戻られた方がよろしいんじゃないですか?

 遅刻なんて社会人失格だと思いますけど」

真柴はちょっと肩をすくめると

「学生さんはいいねぇ」

ボソッと呟いた。


「言っておくけど、あたし遅刻した事は無いわよ。

 ”遅刻”と”遅刻しそうになった”は大違いなんですからね!

 そこのところ勘違いしないでいただきたいわ!行こう、花菜子」

踵を返して歩き出すあたしの背中に向かって真柴が叫んだ。

「お嬢、学校の周りは警官だらけだぞ。あきらめて帰った方が

 いいんじゃねぇか?」

「余計なお世話!」


「そんなに暇なら、遊んでやってもいいぜ?」

その言葉に足を止め、振り返ると思いっきり睨みつける。

「あたしと遊びたいなら、この事件の詳細情報でも持ってくるのね。

 そしたら、少しくらい相手をしてあげるわ」


「そのお言葉、ありがたき幸せにございます」

真柴はうやうやしく頭を下げた。

その口元は必死に笑いをこらえている様だった。


こいつ…絶対あたしの事馬鹿にしてるよ!



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