第5話

「すいません。ちょっと通してくださ~い」

人だかりを押しのけ正面まで進むと、校門には刑事ドラマで

よく見るような”keep out”と書かれた黄色いテープが張ってある。


その前には3人の制服を着た警官と、生徒指導の安堂先生が立っていた。

安堂先生は、詰め寄る報道陣の対応におおわらわな様子。


「先生。安堂先生!」

大声で呼びかけると、黒縁眼鏡を押さえながらこっちを見た。

その瞬間、周りにいた人達の視線があたし達に向けられた。


「この学校の生徒さん?」

「殺害された北川先生は、どんな先生でした?」

「誰かに恨みをかうような先生でしたか?」

一斉にマイクが差し出され、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。


安堂先生はあわてて、大きく手を振り回し

「生徒の撮影及びインタビューはご遠慮下さい」と怒鳴った。

そして、あたし達の方を向くと早口に

「君達、早く帰りなさい。今後の予定はメール連絡をするから」

と言って、追い払うような仕草を見せた。


帰れって言われたって、こう取り囲まれちゃ身動きも取れない…

その時、拡声器を持った理事長が校舎の方から姿を現した。

みんなの視線は、理事長に集中する。


今だ!


あたしは花菜子の腕をつかむと、人の波をかき分けるようにして

突き進んだ。


「警察よりお話があるまでは、私共の方からは何のコメントも発表

 できません。ご近所迷惑になりますので、皆様どうぞお引取り下さい」


報道陣のブーイングにかき消されそうな理事長の声が聞こえた。


やっとの思いで抜け出した時には、制服はヨレヨレか髪も乱れまくり。

「リポーターに追われる、アイドルの気持ちが少し分かったような

 気がする…」

あたしが息も絶え絶えに呟くと、花菜子も深呼吸しながら頷いた。


「さてと、これからどうする?」

正面からの強行突破は不可能だと判断したあたし達は、

次なる手段を考えた。


「裏門はどうだろう?」

「最悪、壁をよじ登るしかないんじゃない?」


あれこれ議論していると、突然笑い声がした。


驚いて振り返ると黒のゲレンデヴァーゲンに寄りかかるようにして

腹をかかえて笑っている長身の男の姿が―――――


真柴涼だ!!

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