第2話

画面が明るくなる。


神妙な面持ちの女性リポーターが、マイクを持って立っている姿が

浮かび上がった。


「私の後ろに見えるのが事件現場となった学校です」

映像が切替り、見覚えのある校舎が映し出される。

「殺されたのは、この学校に勤務する教師の北川武きたがわ たけしさんです」

北川先生?!

「北川さんは頭を鈍器のようなもので数回殴られ、脳挫傷により

 死亡したもようです。

 警察は、同僚の教師を重要参考人とし、任意で事情を聞いている

 と言うことです。

 詳細が分かり次第、お伝えしたいと思います。現場からは以上です」


画面がスタジオに切替った。

中年のキャスターが重々しい口調で

「新しい情報が入り次第、お伝えいたします」

と言うと、隣にいた人気急上昇中の新人女子アナが

「この後は芸能のコーナーで~す」と満面の笑みを浮かべた。


あたしは呆然自失状態。

何?どういうことなの?

うちの学校で隣のクラスの担任が殺され、その犯人が

先生達の中の誰かかも知れないって…


「もしもーし。美月聞いてる?」

握りしめた受話器から花菜子の怒鳴り声が聞こえる。

「あぁ、ごめん」

「目、覚めた?」

「ばっちり覚めたよ…なんか信じられないけど…」


チャンネルを換えるとそこにも校舎が映っていた。

字幕には【有名私立高校の教師殺害。同僚教師事情聴取】の文字が。


「私、今駅前にいるんだけどさ、みんな大騒ぎよ」

確かに花菜子の電話の後ろはやけにざわざわとしている。

「花菜子、駅にいるの?」

「そうよ。休校の連絡するなら始業時間の3時間前には欲しいんだけど」


花菜子がぶつぶつ文句を言う。


東京近県から電車を乗り継いで通っている彼女は、通学に2時間かかる。

花菜子が自宅を出る頃には、まだベッドで眠りを貪っているあたしとしては

頭が下がる思いだ。


「ねえ、あと20分でそっちに行くから、花菜子も学校に向かってよ」

「美月さま!」


冴子さんが咎めるように声をあげた。


「20分って言ったって、あんたまだ家でしょ?」

電話の向こうで、いぶかしげに眉根をよせているであろう

花菜子の顔が浮かんだ。

「大丈夫よ。うちには腕のいいドライバーがいるんだから。

 ねぇ、小山さん」


あたしの様子を伺いにきた、運転手の小山さんに向かって小さく手を振ると

「はい、かしこまりました」

 深々と頭を下げ、回れ右をして外に出て行った。


これでよし!


「了解!じゃあ、学校の前で」

「うん。また後でね」


受話器を置くと、急いで玄関へと向かう。

そんなあたしの後ろを冴子さんが追い駆けてきた。


「美月さま。学校へ行ってどうなさるんですか?」

「心配だから、様子を伺いに行くのよ」

「お待ちください。人が亡くなられているのに不謹慎ですよ」

悪いけど、これ以上時間を取られる訳にはいかない。


あたしは振り返ると

「花菜子と合流して、ちょっと見たらすぐに帰ってくるから」


何を言っても無駄だと悟った冴子さんは小さくため息をつくと

「分かりました。ただし危ないことに首を突っ込むような真似は

 くれぐれもなさらないで下さいよ」

と釘をさした。


「ありがとう。冴子さん。いってきまーす」

いきおいよく飛び出すと、小山さんが後部席のドアを開けて待っていた。

滑り込むように乗り込むと、運転席に戻った小山さんが振り向き

「お嬢様、シートベルトはしっかりお締めください。

 少々運転が荒っぽくなるかもしれませんので」

と真面目な顔をして言った。


「OKよ。車を出して頂戴」

「はい、お嬢様」


小山さんは返事をすると、サイドブレーキをおろした。

車は静かに、でもかなりのスピードで走り出した。

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