中編
本当に空虚だ。
毎日笑顔を振りまいてでも埋まらない。
どうしたら埋まるのか分からない。
そんな負の海に飛び込んできたあの二人の目を私は思い出していた。
1人はその片目から最近まで灰色の世界を見てきたような、でも彩を得たような目。
もう1人は彩を得ようと必死に泳ぐピンクの炎の目。
この体になってから見たかった色を私は見ていた。
「あの人達は私とは違うんだ」
あの目に焦がれた私は秘かにその世界に行きたいと思った。
だがあまりにも違いすぎる。
行けばその色を私が壊してしまうだろう。
だから私は1人で色の無い世界に生きる。
これまでも、これからも。
季節にそぐわない涼しい風が吹いて太陽の暑さを和らげる。
夏とか気にしたことないが私がこの体になったのは今年の冬。
つまり初めての夏を迎えようとしていた。
以前は泳ぐ事が得意だった私だったからつい、可能かも分からないそれをしたいとふと思いながら何気無しに見慣れた桟橋へ向かう。
「ん?どうしたんだろ?」
視界の先にフレンズが集まっていた。
彼女らが静観するその先に見たことのある二人が不慣れな歌を歌っていた。
「ラーララ〜ラーララーララ〜」
おかしな光景だった。
片目を隠した彼女はただただ固まって、残ったツインテールの彼女だけが必死に歌っていた。
しかし、その歌唱力は確かなものでおかしなその光景を隠すくらい彼女の声はフレンズを魅了し、その場は小さくとも確実に輝いて見えた。
「それがアイドルっていうものなの?ジェンツーさんを困らせてまでやるものなの?」
しびれを切らしたフレンズ1人が辛辣な一言を放った。
そう、アレだけではたしかに伝わらない。
「うっ…こ、コウテイ!」
小声で助けを求めるも彼女は固まっている。
彼女の思いが伝わらない理由は明白だった。
その一言を受けてから彼女らの輝きが薄らいでいくのを感じた。
ああ、ダメだ。
折角綺麗な輝きなのに、消えちゃダメ。
もうこれ以上、彩を失ってはいけない。
ピンク色と黄色。
二つの色がまっさらなパレットに乗っていた。
しかしその色は混ざり会おうとせず、輝きを維持するだけの色が足りず、ただ灰色を混ぜられて汚れていこうとする。
だけどまだ真っ黒じゃない。
私は無垢だ。
何色もない。
だけどもし、もしそこに少しでも色があるなら止められるかもしれない。まっさらは白だ。そこに何色があるかは分からない。
なら私が混ざれば、もしかしたら汚れてでも輝きは残るかもしれない。
私は足を前に動かしていた。
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