第三十九話 馬鹿と鋏は使いよう

注!:全裸の登場人物がおります。そこまで細かな描写はありませんが、必要に応じてモザイクをかけてご覧下さい!?

***



 ジェレミーは寝室に戻り、壁に掛けてある剣を手に取った。すぐに部屋を出ようとしたところアナに止められる。


「旦那さま! 何か羽織るか、それかせめてズボンだけでもお召しになって下さいませ!」


「何だよ、アナ=ニコルさんは恥ずかしがっちゃって。俺のフリ〇ンなんて見慣れてっだろ?」


 ジェレミーは悪びれた様子もなく、そんなことを言いながらソレをブラブラさせている。アナは頭を抱えたくなった。


「お風邪を召されますから!」


「お前こういう時だけ何なんだよ! 日頃からセブと二人、馬鹿は風邪を引かないって陰で笑ってるくせに。俺知ってんだからな!」


(普通に注意しても全然聞き入れて下さらないのだから……全くこのお方は……ああ言えばこう言う……全裸に剣だけ持っても様になっていませんし!)


「アナは旦那さまの無防備なお姿を使用人達に、特に若い侍女には見られたくないのです……」


 アナはそうお願いしてみたところ、効果があったようだった。


「って朝の四時だぜ、厨房の人間でもまだ寝てるっつーの。まあでも、はいはい、分かりましたよ。アナ=ニコルさんがそこまで懇願するんなら。それにセブに見つかったらなぁ、流石に部屋の外でのフ〇チンは大目玉だろうしな」


 ジェレミーはそう言いながらバスローブを羽織った。


(そのローブ短いです! 大股で歩いたり走ったりすると見えてしまいそうなのですけど……)


 盛大なため息をついたアナだったが、今はそれよりも庭に居る人物を確かめに行くのが先である。二人は寝室を出て階段を下り、正面玄関から庭に出た。


 アナが魔力を感じる方向におそるおそる歩いて行くと、その先の生垣の後ろでガサっと音がした。


「うーん」


 可愛らしい声が二人の耳に聞こえてきた。


「ああ、やっぱりナタンだったのね!」


 アナは急いで生垣の反対側に向かう。


「アナ、走るな! 足元に気を付けろ」


 そこはナタニエルがルクレール家に遊びに来た時、かくれんぼで良く隠れていた場所だった。彼は芝生の上に横になってうとうとしていたのである。


「あっ、おじさま、おばさま。みつかっちゃったか」


「ナタン、ここで何しているんだ?」


「おうちから寝巻のまま飛んできたのですか?」


「ハイ、大かくれんぼ大会です! リリアンがかくれんぼをすると言うので、ぼく、かくれました。本当はまほうは使ったらいけないのですけれど、お母さまも大かくれんぼ大会だけはとくべつだからいい、とまえ言いました!」


「まあ、なんて賢いお子でしょうね、ナタンは。良く隠れることが出来ましたね。でももう寒いでしょう、屋敷に入りましょうか」


 アナはナタニエルをしっかりと抱き寄せた。


「リリアンって誰だ?」


「ラングロワ家の侍女頭ですわ」


 その一言でジェレミーも事情を察した。


「ナタン、かくれんぼは終わりだ。お前が上手に隠れたからな。伯父さまの家に入って休むぞ」


「はい、ぼくもまたねむくなってきました」


「お母さまには伯父さまの家に隠れていたって後ですぐに知らせないとなぁ」


 ジェレミーは剣をアナに預けてナタニエルを抱き上げ、屋敷に戻った。ナタニエルはとりあえず自分たちの部屋で休ませることにした。


 まだ朝の四時過ぎである。使用人を叩き起こしてラングロワ家のフロレンスに文を送るのも少々ためらわれた。鳩のサンドリヨンが起きていたらビアンカに文が送れる。ビアンカの起床と同時に彼女に文を渡してくれるだろうと考えた。そしてビアンカからフロレンスに知らせてもらえる。それが一番手っ取り早いように思えた。


 そしてアナがナタニエルを寝かしつけている間にジェレミーは文を書いたがその必要はなかった。というのも丁度その時、コライユがバルコニーの窓を控え目に叩いたのだった。


「大変失礼いたします。フロレンスさまから遣わされたコライユと申します。ナタニエルさまのご無事を確認に参りました。瞬間移動されるならこちらに違いないと考えましたので。フロレンスさまも心配されておいでです」


「ご苦労だった。ナタニエルは庭にいたのを先程見つけた。今はここで眠っている。もう明日を待つまでもなくこの子はうちで預かるからな。フロレンスも危険じゃないか。今日のうちにアイツもラングロワ家を出られると思うか?」


「知らせを受けた一昨日から使用人全員の今後のことをお考えになって、紹介状や小切手をお書きになっておられまして……まだ全員分終わっていない様でございます」


「確かに屋敷の主人としてはなあ、きっと明日の朝警護団が入るまではラングロワの屋敷を放り出したりしないか。じゃあ明日朝一番に帰ってこいと文を書く。それ以上は俺たちも待てないからな。とにかくナタニエルだけでも無事に保護できて良かった」


 コライユはジェレミーの文を持ってラングロワ家へ舞い戻って行った。アナは寝台に腰かけてナタニエルの寝顔を愛おしそうに見ている。


「お前は少し休め。俺はもう眠れそうにない」


「私もです。でも眠れなくても少し横になって休みます」


「そうしろ。学院に送って行くからその前に起こしてやる」


「ありがとうございます」


「俺はとりあえずコーヒーでも飲むとするかな」


 部屋を出ようとしたジェレミーの背にアナは声を掛けた。


「旦那さま」


「何だ?」


「ナタンの前にすっぽんぽんで現れなくて良かったですね。彼だけならともかく、アントワーヌにもこれから一生からかわれるところでしたわよ」


 アナはジェレミーに悪戯っぽい微笑みを向けている。


「……うるさい」


 痛いところをつかれたジェレミーは苦虫を嚙み潰したような顔をした。



***ひとこと***

ジェレミーさま、寒くないんですか?

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