第14話 ツインテールのロリ系って…

「また戻ってきてしましました。

 皆さん、ご迷惑をお掛けします…」


仏陀は深く頭を下げた。


今は仏陀の私邸のリビングに、麗子、源次、早百合と共にいる。


仏陀はこう言っているが、


オレとしては今の仏陀が最高に喜ばしい存在なのだ。


しかし、オレ以外の者はかなり精彩を失くしているので、


どちらかといえば迷惑なのではないかと感じてしまう。


「仏陀様、私は本当に幸せを噛み締めているのです!

 どうか、お気になさらないで下さい。

 そして、これも修行ですので」


オレは思ったこととほぼ逆のことを言い放って、


麗子たちに顰蹙ひんしゅくの眼をかった。


「覇夢王、ありがとう。

 あなた、本当に優しいのね。

 でも、みんなを思う気持ちも嬉しいわ。

 …今回は少し覚悟を決めました。

 修行にならないかもしれませんが、少し器を広げます。

 そうしないと、私は覇夢王の虜になってしまうのです。

 …巌是がんぜ、申し訳ないな」


「いや、構わない。

 仏陀様の思い通りになされよ」


麗子はかなり男前に言い放った。


仏陀は麗子にも満面の笑みを向けている。


「よって今回は半日ほどで少し威厳のある私になります。

 ですので、新米の菩薩はきっと…」


仏陀に対して頭が上がらなくなってしまうのだ。


長年、仏陀に身を寄せている源次はそれほどに畏れを抱いてはいない。


多少の慣れも必要なのだが、そればかりとは言い切れないのだ。


やはり今の仏陀は大きさが違う。


この学校に結界を張っているので騒ぎにはならないが、


もし張っていないと、漂う魂の昇天はもちろんのこと、


人間すらも昇天してしまうほどの尊いものを発しているのだ。


オレは常にこの仏陀の気を浴びていたいと感じている。


「覇夢王、こうして席を共にしているだけで成長しているのではありませんか?」


「はい。

 その感はひしひしと…」


オレは仏陀に深々と頭を下げた。


仏陀は視線でだけ少し辺りを見回した。


「覇夢王…

 申し訳ありませんが、菩薩が昇天してしまいそうです。

 言霊を少し緩めてください」


「はい、仏陀様。

 然るべく」


誠心誠意のオレが仏陀に向ける言霊が、


みんなに迷惑をかけてしまうことを悲しんだ。


… … … … …


今日のオレは幸せを噛み締めている。


その気持ちを持ったまま仏の教え学部の教室に向かうと、


大勢の人でごった返していた。


学生だけではなく職員もオレの入室を待っていたようだ。


「今日は試験なんだがな…

 …代表者…

 野球部キャプテン、発言をどうぞ…」


オレは少し笑みを浮かべながら言った。


見知った顔は大勢いるのだが、


一番親近感のある皐月にオレは発言を許した。


「聞きたいことが山ほど…

 今日が試験なのは知っていました。

 ですが、後半三十分はおさらいの時間ですので

 その時にお聞きしようかと思いまして…」


オレは静かに頷いた。


「早百合君、試験は中止だ。

 そして、これから語る話しも試験範囲に含めるので

 しっかりと聞いていて欲しい」


「はい、先生っ!」


早百合は嫌な顔ひとつせず笑顔でオレに従ってくれた。


「さてまずは、コンペイトウ博物館に展示されている二体の釈迦像。

 まずはこの説明をしようか」


150名ほどいる生徒たちが一斉にため息を漏らし微笑んで頷いた。


「言っておくが、これからする話しは誰にもしないでくれ。

 あまり広げたくない話なんだ。

 どこにでもある、『ここだけの話し』は厳禁で頼む。

 実はこれからする話しは不確定事項が多いんだ。

 …そして話しが広まった場合、

 オレの講義の出席者は学部の生徒のみとさせてもらうのでそのつもりで」


多少のざわめきが起こったが戸惑いはなく、ほとんどの者が頷いている。


オレは二体の釈迦像の説明を詳細に行った。


だが、それぞれの仏陀の記号については説明を省略した。


「…と、いうことだ。

 人間の住む星には必ずと言っていいほど仏陀が存在する。

 だがミリアム星は特別だ。

 住民全てが仏のようなものなんだよ。

 ちなみに仏陀は星の形成と共に誕生する。

 もし人間が産まれそうもない星の場合は、仏陀は星に含まれる。

 飲み込まれると言っていいだろうな。

 よって太陽にも仏陀はいるんだ。

 しかし近づけないので、話をすることは無理だな。

 だが、その仏陀が興味を持ってくださった時はその限りではないと思う。

 光りが届く範囲での話しは可能なはずなんだ」


学生たちの息を飲んだ音が聞こえるほど静寂に満ちている。


オレは全員の顔を見渡した。


誰にも質問等はないようだと感じた。


「さて次は、

 数日前にテレビで放送されたミリアム星の孔雀明王と解放された仏の件。

 これは全て報道通り。

 何ひとつとして間違いはない。

 …ミリアム星人は確かに地球人から見ると殺戮を犯し、

 そしてそれを60年に渡り繰り返していた。

 だが、被害者全てが仏だったのだ。

 被害者となってしまった仏も自覚のない者がいたので、

 家族のある人たちの悲しみはあったと思うんだ。

 いや、実際あったんだ。

 しかし、これは仏陀のなせる業。

 仏陀の弟子である仏たちは拒絶できないことなんだよ。

 …他の星の仏陀も、オレ達にとっては尊い存在なんだ。

 仏陀に弟子入りした以上、従わなくてはならないんだよ。

 そしてこれが厳しい修行となる。

 解放された仏たちはテレビで見た通り、

 喜びに満ち溢れていた。

 …そして、なじみのあるミリアム星のディック様とガック様は、

 この星の仏であることを認知していらっしゃらない。

 そういった修行も仏の能力としてあるんだよ」


疑問に思っている学生はいないと感じたのだが、


ただひとり、かなり不満げな女子生徒がいた。


「そちらの君。

 そうツインテールの君だ。

 名前を教えてくれないかな?」


中学生にしか見えない女子が、少し喜びの表情を見せ、すぐに真顔に戻った。


ミーハーか? などと思ったが、少し話をすることにした。


「藤堂美奈世です。

 私、納得できませんっ!

 仏が、しかも仏陀様が殺人を犯すなんて…」


美奈世は不満度満点のふくれっ面でオレに言った。


「確かにその事実は今説明した通りだ。

 そして、抗えないことなんだ。

 全ては仏陀による仏たちの修行。

 仏陀に認められた仏たちの喜びの糧なんだ」


「だけど人殺しは人殺しです!」


「地球人から見ればその通り。

 だが、仏陀にはその権利が与えられていることも事実。

 人間が決めた法律では仏陀は裁けないんだ。

 そして仏にとっての死は、魂自体を失うことにある。

 調伏するとこの状態に近くなると言える。

 肉体は滅びても魂は存在しているので、

 仏陀としての罪はないんだ」


この話しは主観の問題なので堂々巡りになるなと思ったが、


なんと美奈世は満面の笑みを湛えてオレに礼を言ってお辞儀をした。


一体どうしたんだと感じたのだが、深入りはしないことにした。



早百合が後ろを振り返って怪訝そうな顔で、その女子生徒を見ている。


「早百合君、何か言いたいことがあるようだけど?」


早百合は満面の笑みをオレに向けた。


「いえ、授業とは関係ありませんので構いません」


なるほど… 女性として何かを感じたんだなとオレは察した。


美奈世は、早百合の視線に少々気まずそうな顔色を窺わせていた。



講義は終わり、オレは早百合と共に学食に行った。


席に付いた後、授業とは関係のなかったことを早百合に聞いた。


早百合はいかにも気まずい雰囲気を醸し出した。


「あの人、お兄ちゃんの知り合いなの?

 きっと、恋人だと思ったんだけど…」


「なんだとぉ―――っ!!!!」


隣でオレと早百合の話しを聞いていた麗子が怒り狂った。


オレは麗子をなだめ、その事実はないとはっきりと言った。


「だが、早百合ちゃんの言う通りだとオレも感じたんだ。

 …アピール…

 彼女は菩薩のようだったが…」


仏陀は口を挟まなかった。


と言うことはオレに思い出せということのようだ。


そして思い出したのだ。


「彼女はオレの妻だった人だ」


「なんだとぉー覇王っ!

 表に出ろっ!!」


さらに麗子が荒れたので、オレはまたなだめた。


「今世の妻ではない。

 前世の妻だ」


「…うっ…

 …だ、だったら、仕方ねえな…

 …前世、か…」


麗子は納得した様で、矛を収めた。


「今回アピールしてきたと言うことは、

 また妻の座を狙うということだ。

 前世のオレの妻の名は美奈代と言った。

 『よ』が一字違いで、代表の代だ。

 美奈代は50の時に死んだんだよ。

 オレは悲しんだ。

 美奈代の姉が言い寄って来たのだが、

 関係は何もなく、後妻は取らなかった。

 きっとそんなオレを美奈代はこっそりと見ていたんだと思うな…

 彼女はオレが只者ではないと感じていたんだろう。

 オレは眼をつけられていたと言っても過言ではないと思った。

 しかしなぜ今頃アピールして来たんだろうな…

 今世でもその機会はあったはずだが…

 …ああ、記憶が戻らなかったのか…

 …だとすると、おかしい…」


「そうね。

 それが正解だわ。

 覇夢王の疑問は後ほど。

 …彼女は人間名は藤堂美奈世、仏名は癒来箔ゆらいはく菩薩。

 まだまだ駆け出しの菩薩ね。

 いいところのお嬢様のようよ。

 素封家だけど」


仏陀が詳細な情報を提供してくれたのでオレは丁寧に頭を下げた。


そして仏陀が結界を張った。


その美奈世がオレたちのいるテーブルに近付いてきたのだ。


能力が低いのか、結界に気づかず、強か額をぶつけてうずくまった。


オレは困った顔をし手助け起こそうとしたが、仏陀は結界を解かなかった。


その理由は簡単で、麗子が美奈世に襲いかかろうと虎視眈々と狙っていたからだ。


「麗子、よせ」


「…もし覇王に触れようものなら、

 オレの法律で葬り去ってやる…」


オレは少し笑った。


「現行犯処刑か?

 全く、王らしい考えだ」


「だってよぉー…

 アイツ、オレの男取っちまったんだぜっ!

 …あ、ああ、男って…

 覇王だから…」


麗子はいきなり女らしいモードに切り替えた。


前世の美奈代の姉が麗子だったとオレは今思い出した。


そしてさらに記憶を遡った。


「ずっと麗子がオレの妻だったからな。

 後になって事実を知ると悔しいよな」


麗子は小さく真顔でうなづいた。


「それもあるんだなが…

 仏陀様、いいか?」


麗子は仏陀を見た。


だが仏陀は首を横に振った。


「そのお仕置きはおふたりに」


仏陀が言うと学食に父母が現れ、


両手のひらで額を押さえてうずくまっている美奈世を素早く連れ去った。


「本当はお仕置き程度ではダメなのです。

 ですので、天界に送ろうかと思っています」


どうやら美奈世は禁じ手を使ったようだと察し、オレは納得した。


「あの子、未だに天界に行ったことがないのです。

 どうやら天界よりも人間界に未練があるようなの。

 今までに数人しか、あんな子は現れなかったのよ。

 その能力を持った子…

 だから強くも言えないの。

 それもあの子の修行だから」


仏でありながら人間として転生を繰り返した。


従って生まれ変わると、前世の記憶は軽い封印状態になる。


しかし切欠があれば簡単に思い出すのだ。


よって美奈世は天界での修行を積んでいないので、


仏陀の監視下でないと管理できないひとりだとオレは確信した。


「強制的に天界に呼んでもよかったんだけどね。

 どうなるのか面白そうだったのでずっと見ていたの!」


仏陀はさも愉快そうにして笑った。


だが麗子は全然面白そうにないが、これも修行だとでも思ったのか、


全く関係のない源次を睨み付けている。


「巌是の気持ち、わかるぜ…

 だがオレを睨むのはやめて欲しいんだがな…」


「誰かを睨んでいないと気が治まらん!

 協力してくれ」


麗子は少し源次に頭を下げた。


仏陀はくすりと笑った。


「あの子も兵のひとりです。

 たった100年ほどですけど、

 仏になってからも人間界で修行を続けてきたのですから」


オレは仏陀の言葉に目礼した。


オレとしては手を抜かない方がいいのだろうと悟った。


「あ、覇夢王、ダメですよ。

 手を抜かないと昇天しちゃいますからね」


「はっ!

 申し訳ございません」


少し遅くなったがオレ達は昼食を摂ることにした。


麗子は食事の間中ずと源次を睨んでいたので、


今日の午後にデートをすることに決めると、


猫のようになってオレに懐いてきた。


「まさに、平和的解決ですわねっ!

 巌是は笑顔もよく似合います」


「…ああんっ!

 はいっ!

 今だけ特別ですっ!」


麗子の機嫌のよさは最高潮に達したようだ。


そして源次は、ほっとして汗をぬぐっている。



オレは異様な気配を察知したがすぐに消えた。


どうやら父母がオレ達を守ってくれているようだ。


「父さんと母さんにあとでお礼を言っておかないとな」


「うんっ!

 私もちゃんというのっ!」


麗子の麗しさがオレに染み渡った。


その中に愛らしさもあり、


やはり麗子と共にいる事が一番いい事だとオレは感じている。


… … … … …


オレと麗子は源次と明日菜を誘ってとりあえずは


同じ場所でデートをすることにした。


麗子は一瞬不機嫌になったが、


オレの想いを汲み取った様で機嫌は悪くならなかった。


このテーマパークに入園してほんの五分で


オレたちと源次たちは別行動を取ることになった。


閉園までの六時間ほどは麗子とふたりだけの世界にいられることをオレは喜んだ。



だがやはり美奈世がついて来ているようだが、


すぐに父母に確保されているようだ。


麗子もそれに気づいているようだが、


今は甘い時間を過ごしたいようだ。



アトラクションを満喫して小休止するためにオープンカフェの席に座ったと同時に、


いきなり美奈世がオレの目の前に現れた。


そこは危険地帯だと思った瞬間に、美奈世はオレの視界から消えた。


麗子の回し蹴りを食らって、カフェ店内に突っ込み、


カウンターで身体を強打して、へなへなと床に倒れた。


父母がすぐさま現れ、三人の姿が忽然と消えた。


この一件は催し物のひとつと周りにいた入園客に思われた様で、


笑みの拍手を麗子がもらって上機嫌で頭を下げて手を振っている。


よって全く騒ぎにはならなかった。


「アイツ、あまり賢くないな…

 術はすごいのに…」


オレは呆れて少し笑った。


「ダメージの軽減もしていたわ。

 カウンター、壊れてないもん…」


壊れるはずだったんだ! とオレは思い、少し笑った。


だがさすがにただでは済んでいないはずなので、


オレはこの楽しさを満喫しようと考えたが、美奈世の仏名が気になった。


癒来箔ゆらいはく


きっと、治癒も程なくできるのではないかと思ったのだ。


しかしダメージの軽減もしていたので、


それほどに精神力を使うわけにはいかないだろう。


案の定、もうこの辺りにはいなかった。


父母が、遠くに連れ去ったんだろうと感じた。



安心はできなかったが楽しい時間を満喫したオレと麗子は、


まずは麗子の家に寄って、両親に挨拶をするために立ち寄った。


「よく来てくれたな。

 学生なのに働いているとは見上げたものだなっ!!」


麗子の父、豪造はオレを見て満面の笑みだった。



豪造は土木工事業を営んでいる社長だ。


数年前はそれなりのワルだったのだが、


木下源次郎の出現によりキッパリと足を洗って今の仕事を起業した。


そして源次郎の側近というべき


巌剛というコードネームを持つ前田慶造の幼馴染だ。


巌剛も土木工事関係の社長なのだが、今は澄美が代行している。


巌剛の会社も澄美の要請により、豪造が快く引き受けている。


豪造はこの件をつい最近話してくれた。


ちょっとしたいい話と悪い話しなので、あまり口にしたくなかったのだろう。


「これも修行だからね。

 母さん、オレも頂くよ」


オレは豪造の酒に付き合うことにした。


豪造は頬を緩め、娘そっちのけでオレに話しかけてくる。


麗子は悪い気はしない様で、麗子の母、美紗子と共にオレ達を眺めている。


「…あら?」


その美紗子が何かに気づいたようだ。


その視線はオレの家にあった。


なんと明かりが灯っているのだ。


どうやら、間抜けな泥棒が入りこんだようだと少し笑えた。


だが室内にいた影は消えた。


姿は見せないがオレの父母が連れ去ったようだ。


「とんでもないストーカーだな…

 さて、どうしたものだろうか…」


「…息の根、止めるか…」


麗子が気合十分に言った。


豪造がわが娘に困った顔を見せた。


「お前が損をするだけだ。

 手は出すな。

 そして、縛り付けて決定的証拠を見せ付けろっ!」


豪造はとんでもないことを言って豪快に大笑いしているが、


美紗子に睨まれて首を竦めた。


「やはりあるじに頼もうか…

 ゆっくりしている暇もない…」


「結界の中には入れないんだよね?」


麗子が笑みを浮かべてオレに聞いてきた。


今は虚勢を張ったり女に戻ったりと麗子は忙しい。


「まあな、それは昼に確認済みだ。

 基本的なところが抜けているヤツだ。

 天界での修行をしていないせいだな。

 …仕方ない、結界を張って寝るか。

 それをすると夢を見られない。

 だが、こういう日があってもいいか…」


麗子は満面の笑みで喜んだ。


そしてオレをオレの家にラブホテルに誘う男のようにして連れ込んだ。



結界を張ってから事を終えると、大泣きをしている美奈世が寝室の床にいた。


麗子が今日はやけに挑発的だったのだが、


見られている事を承知の上での行為だったとオレは悟った。


声は聞こえないので、


結界はそのままにしてオレと麗子は眠りに付いた。


… … … … …


翌朝、学校に行って野球グランドの片隅にあるやしろに麗子と共に行くと、


美奈世が神とケンカをしていた。


「何をやっているっ!

 いい加減にしろっ!!」


オレが怒鳴り声を上げると、神の方がオレに怯えた。


美奈世はただただ不貞腐れているだけだ。


そしてオレは神に丁寧に謝ろうと思ったが恐縮されると思ったので、


「悪かった」とだけ神に言うと、このチビの仏を何とかしてくれと懇願された。


事情を聞くと、オレと麗子を別れさせてくれと美奈世が願い出たが、


そんな事はできないと神が言ったところでケンカが始まったようだ。


「あまりみんなに迷惑をかけると、

 本当に仏陀に天界に送られるぞ。

 …お前の罪、生半可なものじゃないからな」


美奈世はそれを知られていたと感じたのか驚いた表情をオレに見せ、


すぐさま意気消沈した。


本気で釘を差しておかないと、


歯軋りをしている麗子が今度は本当におくってしまいそうだったのだ。


「知らないだろうから言っておこうか。

 前々世まで、オレのパートナーはずっと麗子だったんだ。

 そして今世でこれが九回目の婚姻だ。

 本来なら記念すべき十回目だったのに、

 お前が前世で汚い手を使って邪魔をしたんだよ」


オレの口から出た真実は、美奈世のチカラを奪い去った。


そして、能力さえも消えてしまったようだ。


美奈世のオレの妻である事だけに執着をしてしまった、


仏陀からの罰だろうとオレは感じた。


「そんなに…

 そんなにずっと一緒にいなくていいじゃないっ!

 麗子のウンコタレッ!!」


まさに汚い言葉を吐きかけて、美奈世は走って校舎に消えた。


「…昨日、気持ち良過ぎて少し出たからな…」


麗子は大胆な事を言って大声で笑った。


その出たものはどうしたんだろうかとオレはかなり気になった。



学食に行くと、仏陀がほぼ元に戻っていた。


だがやはりその発する気は菩薩が顔を上げられないほどだった。


詩暖が座っているのだが、いつもの席ではなく、遥か彼方にいて、


なんとも美味しくなさそうにして朝食を摂っていた。



「美奈世の件ですが…」


「あれでいいわ。

 もう懲りたはずだし。

 …やっぱりみんなには厳しそうね…」


仏陀が申し訳なさそうな顔をした。


「やはりここは修行ということで。

 詩暖もそれを乗り越えてもらって、

 この席に帰って来てもらいましょう」


オレが遠くにいる詩暖を見ると、麗子が無理やり詩暖を引っ張ってきた。


さらに修行を重ねろとでも言いたいようだ。


ちなみに、麗子には詩暖をイジメてやろうという気はさらさらない。


「麗ちゃん、スパルタねっ!」


仏陀はかなり喜んでいる。


「やはり仲間は共にいにとなっ!」


詩暖は嬉しかったようで、一瞬だけ麗子を見て笑みを投げかけ、


すぐさま顔を伏せた。


… … … … …


昼食時、学食のカウンターに麗子と共に並んでいると、


仏陀が満面の笑みでオレに寄り添った。


仏陀は一体何を考えているんだと思い、


オレは困った顔を目の前にいる仏陀に見せた。


「仏陀、申し訳ありませんが、

 シャコを貸してください」


仏陀はオレの言葉に動揺して、持っていたポシェットの中の確認を始めた。


麗子は前を向いたまま後ろ蹴りを放ち、


仏陀の腹に命中して10メートルほどふっ飛んだ。


床に身体がついたとたん、仏陀ではなく美奈世が丸くなって転がっていく。


美奈世は両膝を壁に激突させた姿勢のままで止まった。


「酷いな…

 パンツ丸見えだぞ…

 今時の女子大生はあんなに子供っぽいパンツをはくのか?」


「あの子だけよ。

 ワンポイントのものなら持っているけど、

 イチゴ柄のパンツ、どこで売ってるのかしら?」


麗子が愉快そうに少し笑いながら言った。


父母が現れ、すぐさま美奈世を担いで、仏陀の家に駆け込んだ。


「仏陀、美奈世の仲間になったのかなぁー…」


「ただのお戯れじゃあねえのかぁ?」


麗子は一転してかなり気合が入っていた。


するといつの間にやら本物の仏陀がオレたちの後ろに並んでいて、


満面の笑みをオレに向けた。


「シャコ、何に使うの?」


「正体を暴きたかっただけです」


オレが言うと仏陀の笑顔が引きつっていて、


「あは、あはは…」といったチカラのない笑い声を搾り出した。



席について食事を始めると、仏陀に落ち着きがない。


ひと言言ってもよかったのだが、仏陀が何か言い出すまで待っていたのだ。


「大ニュースなのっ!!」


いきなり大ニュースもないものだと思って、オレは少し笑った。


「美奈世は勇者。

 ですよね?」


仏陀は開いた口が塞がらなくなったようだ。


「しかも、修行を積んで勇者になったはずです。

 オレの知る限り、そういった勇者はひとりしかいません。

 ですが、勇者ミラクルは長年生きていて自然に身に付いたもの。

 もし、早百合に勇者修行をさせるのなら、

 美奈世の記憶が適当だと思っているのです」


早百合は微妙な顔をオレに向けたが、


どういった修行をして勇者になったのかを知りたいとも思ったようだ。


「…知ってたの?」


「知りませんでしたが、そう考えるのが普通です。

 全てが仏でも神のチカラでもありませんでしたから。

 今の澄美さんとレベルの格差はありますが、同等の存在だと感じました。

 オレの父母が、何度も簡単に逃がすはずがないのです。

 それ相応のチカラがあってこそだと」


「大正解っ!!

 さすが覇王君だわっ!!」


「ちなみに、先ほどの寸劇はなんだったのでしょうか?」


オレが言うと、麗子が仏陀を満面の笑みで見た。


逆に怖いなとオレは感じたが、仏陀の方がさらに恐れたようだ。


「…れ、麗子ちゃんと覇王君にお仕置きだったのっ!!

 夢ではいいって言ったのに…」


どうやら美奈世からいろいろと聞き出しているうちに悪巧みをふたりで考え、


実行に移そうとしたということでいいようだとオレは思った。


「仏陀、申し訳ございません。

 何なりと罰を受けましょう。

 ですがオレは人間として婚姻をしていますので、

 不貞な行為はできません」


仏陀はそれを忘れていた様で、開いた口が塞がらないようだ。


だがここは仏陀として堂々としようと思ったようで、


「今回は注意だけで」と、罰は見送ってくれたようだ。


「はい、ありがたき幸せ。

 ですがひとつだけ申しておきます。

 これは仏陀の欲に関する事ですので。

 お友達は厳選された方がいいと感じました」


「うんっ!

 そうするわっ!!」


仏陀はほっとした様で、オレ達に愛想笑いを向けている。


オレにとって仏陀は、今までの仏陀と何ら変わっていないと感じた。


しかしこれは主に対して言えることではない。


仏陀はオレの思考を読んだはずだと思ったが、どうやら読めないようだ。


従ってオレは読みやすい様に一瞬だけ解放した。


「…これ以上は無理よねぇー…

 私を隔離する必要があるもん…」


「はい、ごもっとも。

 ですが仏陀が妙な欲を出されなければ、

 何も問題のない事だと感じています」


仏陀はオレを上目遣いのふくれっ面で睨みつけた。


麗子は仏陀にごく自然な笑みを向けている。


仏陀の欲に関してのことなので、オレには発言の自由があるのだ。


「…いい男、いないかなぁー…」


「宇宙人でよろしいのなら…

 そうそう!

 トカゲ星人など如何でしょう!

 強そうですよ?」


仏陀は頬を膨らませてそっぽを向いた。


… … … … …


オレはひとつクリアにしたい問題があった。


それは、レクレア星の仏陀であった源次郎が、


なぜただの人間の雛に惚れ込んだのかという疑問だ。


だがこの疑問は簡単に解けた。


雛は仏陀だったと考えることが自然なのだ。


すると、雛はどこの星の仏陀だったのかを知りたくなったのだ。


仏陀はミリアム星には仏陀はいないといった。


だが、太陽にも仏陀がいるといったのだ。


雛は、ミリアム星の仏陀だったのではないかと予想したのだ。


ふたりの仏陀の協力があれば、


世界の騎士団、神そして神の僕など簡単に創れるはずだと思っている。


そしてふたりの合体での変身。


あの程度の事は朝飯前の事だったのだろうとオレは感じたのだ。



オレはこの件を次のゼミの題材にしようと思い、レポートを書き、


仏陀に提出した。


「覇王君凄いっ!!

 私、ここまでは思い浮かばなかったわっ!

 ミリアム星に仏陀がいない事。

 ミリアム星に仏を創る材料だけ与えた事。

 ふたりの仏陀の実験…」


「こう考えるのが自然だと感じました。

 …源次郎さんはこの先、大いに伸びるかも知れません。

 あわよくば、仏陀のチカラを越えるかもしれません。

 きっとそこまで見越してはいなかったのでしょうが、

 オレにはそうなる予感があります。

 …一番の問題は、ミリアム星に仏陀がいない事なのです。

 その代わりの者はいないようなのですが…

 ディック様がそうなのでしょうか?」


「大いなるチカラはあるわ。

 勇者でもあるし…

 それも仕組まれた…

 …ディック様だけどうして金色なのかしら…」


「それはオレも聞いていません。

 …そしてミリアム剤の存在。

 DNAを正常化する。

 生まれつきの脳の障害も完治した件が数万あります。

 きっとこれも関係しているのではないかと」


「いいわ。

 明日のゼミはこの議題で。

 でもね、それ、ひとつだけ思い当たったことがあるの。

 幻のコケ…」


「それは初耳です。

 記憶にもありませんね…」


「どこにでもあるものではないの。

 きっと地球にはないと思うの。

 ミリアム星に行ったせいなのかなぁー…

 知識がね、なだれ込んできたの。

 それまでにドズ星とレクレア星にも行ってたし…」


「それは喜ばしいことです。

 …何も問題のない事であれば、オレの杞憂も消えますので、

 どうか、よろしくお願いします」


… … … … …


翌日、源次郎と雛にアポイントメントを取っておいたので、


ふたりはオレたちの来訪を喜んでくれた。


早速仏陀がオレの仮説を雛たちに語ると、


雛も源次郎も納得の笑みを浮かべた。


「そうよねぇー…

 私もおかしいって思ってたもん…

 雛ちゃん、きっと仏陀だったって…」


この施設の主の御陵詩暖みささぎしのんが少し呟くように言った。


ちなみに彼女はまだ仏の覚醒を遂げてはいない。


何か考えがあるようだ。


「確かに、仏陀は仏陀と婚姻するのが自然だろうな。

 宇宙を探っているうちにミリアム星の仏陀とレクレア星の仏陀が知り合った。

 ふたりで協力して、できれば人間として生きて行こうと決めたのか。

 いや、平和を願ったんだ。

 仏だけでは無理な話しだ。

 神だけでは、自然な平和をもたらせない。

 よって、ふたつを混ぜ込んだ。

 まさに澄美が言っていた、

 神と仏のコラボレーションをオレは望んだのか…」


源次郎の言葉に、大勢いるの世界の騎士団員が頷いた。


「そうすることで完璧になりますが、まだその途上…

 源次郎さんは益々強くならなければならないようです」


オレが言うと、源次郎がにやりと笑った。


だがオレも笑みを返した。


「更なるレベルアップは、勇者相手でお願いします。

 きっとその方が、源次郎さんのためになりますので。

 ついでに勇者になられてもいいと思います。

 雛さんと共に」


源次郎と雛は笑顔で見詰め合った。


だが雛が憂鬱そうな顔を見せた。


「ミラクル君が適任なんだけどね、

 自然に勇者になっちゃったから…」


「その件はご安心を。

 自力で勇者になった者が仏の中にいるのです」


「なにっ?!」


源次郎が大声を上げると、この場にいる全員がたじろいだ。


それほどに気合の入ったひと言だったのだ。


「ですが、性格に少々問題があるのです。

 それをまずは矯正して頂きたいと」


源次郎は満面の笑みで大きく頷いた。


「澄美…」


「はい、お任せを。

 楽しそうなイベントですわっ!

 神と仏のコラボレーションッ!!

 益々楽しくなってまいりましたっ!

 …あ、私、田中さんと結婚いたしますので。

 それではっ!!」


澄美は驚くべきひと言を言って姿を消した。


「いいんじゃないの、どっちも仏だし。

 私は許可するわよ」


仏陀の言葉に源次郎は自分の事のようにして喜んだ。


だが源治が少し淋しそうな顔を見せている。


「…お母さん、どうするのかなぁー…」


「それは悠子の責任だ。

 田中さんにはずっとそっぽを向いていたからな。

 歩み寄ろうともしなかった悠子が悪い。

 今の恋人は源治だけでいいんじゃないのかな?」


源次郎が言うと、源治ははにかんだ笑みを浮かべた。



オレ達はミリアム星に行き、仏陀がこの星の様子を詳しく探った。


仏陀の気合が入っていた顔に陰りが見えた。


「何もいないわ。

 …ところで、ディック様が金色なのですけど、

 どういった経緯があったのでしょうか?」


仏陀が源次郎に言うと、柔らかな笑みを浮かべた。


「この星の人間は約五年ごとに生まれ変わるんだよ。

 その時にあるものを使ってやったら、金色に輝き始めたんだ。

 食べ物としても使えるもので、カビカというコケだ」


「…幻のコケ…

 この星の記憶かしら…」


仏陀が呟くように言うと、源次郎が大きく頷いた。


「はっきり言って栽培はできない。

 必要な時に生まれるコケのようなんだよ。

 幸運といえば幸運だった。

 ミリアム星に小人こびと用のウォーターサーバーを友好のために送ったんだが、

 故障したといって地球まで持って来たんだ。

 故障の原因はパイプ内の異物。

 そこにカビカが詰まっていたんだよ。

 その時ディックとガックは地球に亡命していたんだ。

 丁度ディックが生まれ変わる時期だったので、

 ガックに聞いてディックの周りに少しだけカビカを植えると一気に増殖した。

 だが、ディックの周りにはコケは生えなかった。

 するとディックが金色に光りだしたんだよ。

 数日後に生まれ変わったディックがこの星の王として君臨したんだ。

 その事実はディックと今までの王が知りえたことだ。

 これも不思議な現象だと感じたな。

 その時の副産物がミリアム剤なんだよ」


源次郎の話しで、オレの抱いた疑問はほぼ解明できた。


あとの問題は仏陀がいなくて大丈夫なのかという点だけだ。


「それとね、王は星を離れてはいけないっていう記憶がボクの頭の中にあるんだ。

 でもね、今は出てもいいんだ。

 代行者がいる時は構わないんだよ」


ディックがさらに重要な事実を教えてくれた。


そして、オレに胸騒ぎがした。


「まさか、仏陀が星を離れてはならない…」


仏陀は慌てて黒い扉を潜って地球に戻った。


「その件だが、時間制限があるようだぞ。

 数時間ほどならいいそうだ。

 ディックの前の王が星を離れたが何も起こらなかった。

 だが、時間が超過すると、不幸な出来事があったかもしれないな」


源次郎がオレに語ってくれた。


「前の王も金色に光っていたんですか?」


「いや、光っていなかった。

 この星の一番強い者が王に自動的に任命されていたそうだ。

 さっきも言ったように王の切り替えは、

 新しい王と現在の王の頭にだけ浮かんで出るようだ」


「…それって、仏の能力でしょうか…

 雛さんがここの仏陀だったとして、

 そういう細工を施した…」


「かもしれないな…

 地球に戻ろう。

 実際の映像でも説明しておこう」


オレ達は地球に戻って、『ミリアム星のすべて』という映像を見せてもらった。


仏陀は興味深く映像を見て思案している。


「…まだほかにも何かあるのかも…」


「あるとすれば宇宙船の製造工場だな。

 かなり大きな施設で、いつからあるのか誰も知らないんだ。

 宇宙船のデザインなどはレクレア星のものと全く違う。

 それに、植物人間たちが作ったものとは思えない。

 …仏陀には気の毒だが、地球に残っておいた方がいいんだろ?」


「いえ、一時間程度なら。

 今まで最長でもそれほどは地球を離れた事がありますから。

 そうだわっ!

 勇者様に…」


「うんっ!

 ボクがテレポで移動すれば早いよっ!」


ミラクルが嬉しそうな顔をして仏陀を見ている。


「ですが、星を離れてはいけないと私には浮かんで来ません。

 それに関する事項も何もありません。

 万が一問題が起きる可能性があるかもしれない

 といった杞憂があったので用心のため、だったのかもしれませんわね…

 …ドズ星の仏陀に聞いてまいります。

 古い方なので、きっと私よりも物知りですわ」


オレは仏陀に続いてドズ星に渡り、仏陀が交信を始めた正面に座った。


ほんの数分で会話は終了して、オレ達は地球に戻った。


「そういった縛りはありません。

 やはり用心のためと思った方がよさそうですわ。

 そして代行者の存在…

 仏の数が多い場合は、問題がないのかも知れませんわね。

 ミリアム星は仏陀だけしか、仏はいなかったと思いますから」


「まずはひとつ確認してみませんか?

 月にも仏陀がいると思います」


オレが言うと仏陀は大賛成して、源次郎に頼んで宇宙船を出してもらった。


「いらっしゃるわ…」


仏陀は呟くように言って瞑想に入った。


オレと源次も仏陀に付き合うことにした。


数分の交信で身代わりについて判明した。


そのとばっちりを受けて、オレは月に残ることになった。


月の仏陀が、地球を見てみたいといったので、仏陀は快く承諾して、


身代わりとしては仏陀かオレが適任だったのだ。


源次は適任ではなかった様でかなり悔しそうな顔をしていた。


当然、宇宙船から出る事は適わないので、五人乗りの小さな宇宙船に乗り換えて、


世界の騎士団の細田がオレに付き合ってくれた。


ほんの十数分で仏陀たちは戻って来た。


月の仏陀は様々な場所にチェックを入れただけだという。


月からであれば、


その場所の様子が手に取るようにわかるので退屈しないで済むそうだ。



月の仏陀に別れを告げて、地下施設に戻った。


「これで身代わりの件もクリアになりました。

 覇夢王は身代わりとして地球に残ってください。

 それほど時間はかからないと思います」


「はい。

 ご無事のお帰り、お待ちしています」


仏陀たちは黒い扉を潜って、ミリアム星に行った。


今気付いたのだが、ほんの少しだが身体がだるい。


まさかと思ったが、これが身代わりの代償かもしれないと感じて、


食事を注文した。



すると、ミリアム星の身代わり役のドズ星生まれの植物人間のハードウッドが、


第二訓練場からここ道すがら食堂に歩いてきた。


ハードウッドに身代わりになった時の体調の異変を聞くと、


いつもよりも腹が減ったような気がすると答えてくれた。


どうやら身代わりの体力を奪ってしまうデメリットがあるようだ。


だが、死に至るわけではないので、少し安心した。



注文したものをいくら頬張っても腹が膨れない。


これは今もオレが身代わりだからと察した。


倒れたくはないので、いつもよりもかなり多めに食べた。


すると落ち着いたようで、体力が元に戻った事を確認した。



仏陀が満面の笑みで戻って来た。


まずはオレが身代わりの代償の話しをすると、


みんなは驚き注意することに決めたようだ。


仏陀が笑みをオレに向けた。


「やはり強靭な体力と精神力を持つ者が必要なのですね。

 すると今まではほかの者が身代わりになっていたと思います。

 あとで調べてみましょう。

 …宇宙船の工場ですが、仏陀の手によって創られたものでした。

 仏陀の記憶の残骸があり、繋げてみると皇巫女様の魂と一致しました。

 皇巫女様が、ミリアム星の仏陀だったと証明されたと思います。

 ちなみに、越前雛様の魂は創り物。

 ですがたくさん持っておられますわね?」


「うんっ!

 今まで地球で生まれた魂のコピーなの。

 この魂を使って、肉体を呼び寄せられるのっ!」


雛はさまざまな人に身体を変えた。


ひとりだけ男性がいた。


そして富山真奈美と良河清美といった有名女優も含まれている。


越前雛の整形疑惑はこれだったのかとオレは納得してしまった。


「本当の私は、まだ5才児程度なの。

 でもね、お母さんとか巫女の名前で呼ばれると年を取っちゃうから、

 雛ちゃんって呼んでね!」


雛は少し子供っぽく言った。


大樹が母である雛を、『雛ちゃん』と呼んでいた理由はこれかと納得したのだ。


「わかりました。

 これからは雛ちゃんとお呼び致します」


オレが冗談ぽく言うと一斉に笑いが起こった。



全ての謎が解明したので、オレ達は仏陀と共に学校に戻った。


今回も源次に元気がない。


「オレも、身代わりができるようにならないとな…」


「オレは思うんだがな源次。

 実体でないとダメだと思うぞ」


源次はそれもそうだと思ったようで、真剣な顔をして何かを考えていた。


「10ヶ月かかるぞ。

 学校は休学すればいいが、明日菜が淋しがるんじゃないのか?

 だがその分、野球にのめりこむかもな。

 明日菜と相談して決めればいいさ」


オレの言葉に、仏陀も賛成した様で、


源次はいつになく、


「そうするかぁー…」と軽い口調でその喜びを表現していた。

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