第10話 オレがジゴロで不良って…
「では、大仕事の前に小さな仕事を致しましょう!」
仏陀は意気揚々として言い放った。
学食横の仏陀の家、というよりも、正規の宇宙の釈迦の会の事務所が完成した。
家の間取りは一階にリビングという名の会議室。
そして個室一間とトイレ、洗面所にバス。
二階には四部屋の個人スペース、すなわち会員の寝室が設けられている。
一階にある小部屋を仏陀の寝室にするようだ。
そして庭だが、何に使うのか動物用の檻がふたつある。
そしてなぜか菜園。
世界の騎士団の地下施設のマネかと思ったのだが、何か目的があるようだ。
ちなみに庭としてはまだまだ余裕があるので、
動物の檻も菜園も増設可能となっている。
今オレたちがいるかなり広いリビングにソファーは四台ある、
ラブソファーにオレと麗子、ふたつあるうちのひとつの長いソファーに源次、
仏陀はひとりがけのソファーに座り、満面の笑顔だ。
その仏陀が可愛らしいカバンから紙を取り出した。
オレにはそれが手紙のように見えた。
「宇宙の釈迦の会は、一般市民の要望も叶えるべきです。
あ、麗ちゃんと源次も仏の教えのゼミに参加したことになるから、
色々と免除があるのであとで説明するわ」
麗子と源次は少し嬉しそうにして顔を見合わせた。
「このお手紙ですけど、
覇王君がテレビに出ているのを観てしたためて下さった
貴重な第一号のファンレターのようなものです。
どうか祈りを込めながら聞いて上げてください」
オレにまた言い知れぬ胸騒ぎがしたので、「仏陀」と普通に言ったのだが、
いきなり仏陀の身体が震え始めた。
オレは困った顔を仏陀に見せた。
「事務局長、呼んでもいいですか?」
オレが言うと、麗子と源次かかなり困った顔を仏陀に見せた。
「なんでわかっちゃうのよっ!
もうっ!!」
仏陀は手紙とカバンを放り出した。
やれやれと思いながらオレは手紙とカバンを拾った。
カバンは小洒落たテーブルの上に置いた。、
手紙は白紙だろうと思っていたのだが文字を書いてある形跡がある。
オレは仏陀に何も言わずに黙読した。
麗子と源次も読みたいようなのですぐに渡した。
「仏陀…
可愛いですね」
「あんっ!
いやんっ!
…い…いぐぅー…」
仏陀は小さく痙攣している。
どうやら本当に逝って果てて昇天したようだ。
オレはこの妙にいやらしい師匠に同情した。
即座に自分だけに結界を張ったので、オレの目の前には虚像の仏陀がいる。
本体はどうやら、席を立って着替えに走ったようだ。
どれほど何を出したんだとオレは思い、麗子と源次を見た。
ふたりは仏陀の手紙の内容とその努力に涙していた。
「涙なくしては読めないだろ?
本当にかわいそうに思ってしまったんだ。
やはり、人間界に来るのは早過ぎたのかなぁー…」
「ずっとこんなことを考えて、覇王と…
怒りよりも悲しみの方が…」
麗子は本気で泣いていた。
源次もうなづきながら涙を流している。
「やはり一度大きなガス抜きも必要だと思うんだ。
…夢で仏陀を慰めてやりたい。
同意、してくれないか?
このままだと本当に仏陀が壊れてしまいそうで心配なんだよ」
オレが麗子に言うと、不本意そうな顔だが小さく頷いた。
もうすでに壊れ終わってリニューアルした仏陀が戻って来た。
「…うん…
私はね、本当に嫌だけど、仏陀ちゃんが壊れちゃうのを見ていられないわ…」
麗子は真剣に仏陀を不憫に思っているようだ。
「成り行きで抱くからどうなるのかはわからんが、
しばらくはもつだろうと思うんだ。
やはり源次郎さんを失ったのは痛手だったなぁー…
…仏陀、ドズ星の仏陀もいい男でしたが、
やはり少し年上過ぎますか?」
仏陀は薄笑みを浮かべていた。
一度逝ったので、すっきりしたといった顔だ。
「そうね。
いい方だけど、気が引けちゃうの。
立派過ぎる方で…」
この仏陀の見解はオレも賛成だ。
やはりあの星だと苦労は絶えないのだろうとオレも同情してしまった。
「仏陀、今夜、夢で会いましょう。
仏陀が眠りに就かれるとわかりますので」
「はい、お待ちしておりますわ。
…そうそう!
では私からの一番のお願いですけど、
ある実験を試みようと思っているのです。
これは食欲についてです」
それで菜園かとオレは納得した。
「源次郎様にお聞きしたのです。
コンペイトウそしてドズ星には知っての通り大きな木がございます。
この木ですが、果物の実を毎日生らせて下さるのです。
そして、『どうか食べてください』とお願いして下さるのです。
植物が自ら実りを分け与えてくださる。
そしてこの行為、
私たちの抱く食欲を相殺するのではないのかと考えたのです」
オレは深く頷いた。
これはこの世にはまずありえないことなのだ。
よって食欲旺盛な者は、
頂いた実をありがたく頬ばっても食欲を満たしたことにはならない、
逆に言えばいいことをした、巨大な木の願いを叶えたということにも繋がるのだ。
「そしてもう一点。
あの二本の立派な木以外にもそういった植物があるのでは
と考えて菜園スペースを作ったのです。
実証次第で、食欲に関しては普通に食べても問題なくなるのではと考えたのです」
オレは本心から仏陀に拍手を送った。
麗子と源次も仏陀に賛同して拍手を送っている。
「そして別件でもう一件。
あの地下施設にはもうひとつ黒い扉があります。
あの扉はミリアム星に繋がる扉なのです!」
オレに数々の記憶が蘇った。
悪逆非道の宇宙人。
80年間で1000人もの地球人を殺したミリアム星人。
だが、源次郎が和解をして、
そのミリアム星の特産物からミリアム剤を抽出して、
数え切れないほどの地球人の命を救った。
人それぞれ思いはあるだろうが、
オレとしては謝罪としての証拠を見せてくれたものだと思いたいのだ。
麗子も源次も、この事実を噛み締めるようにして仏陀を見ている。
「なにやらあの星には、
ジーマという神か仏かわからないようなものがいるそうです。
ですがこのジーマは温厚で、星のために日々働いています。
そのジーマもこの眼でみたいと思っているのです。
そしてミリアム星は植物の星。
もしお話のできる実のなる植物があるのなら
頂いて帰りたいと思っているのです。
ああ、この件は別の日でも構いません。
知っておいて頂きたかっただけですので」
オレ達は仏陀に深く一礼をして立ち上がった。
まずは世界の騎士団の地下施設に行き、
ドズ星に移動してから大きな木と仏陀が話をした。
するといきなり音を立てるようにして、よっつの実がなった。
「こちらの実、食べてくださいとお願いされました。
ありがたく頂きましょう!」
オレ達は木に丁寧に礼を言って、ミカンのような果実の皮を向いて頬張った。
「…んんっ!
これは美味いっ!!
美味しいですっ!!」
オレが叫ぶと、いきなり100個ほど実が生った。
「覇王君、喜び過ぎですわ…
こちらの木の方に頑張らせて頂いてしまいました…」
仏陀が困った顔をしている。
オレは木に対して丁寧に謝った。
「逆に恐縮されてしまいました…
今ここで全て頂くのは無理ですので、
おみやげと、ここにいる動物たちとドズ星の子供たちにも食べて頂きましょう」
木は了承してくれた様で、
仏陀は手渡しで動物と子供たちにみかんのような実を配った。
お土産として残った40個ほどのミカンをビニール袋に入れて、木に礼を言った。
そしてすぐ近くにある農園に入ってからすぐに、
仏陀が植物ひと苗ずつに話をしている様に見える。
だがさすがに言葉が通じる植物は現れないようだが、仏陀の動きが止まった。
「こちらの方、お話ができますわ!
本当に嬉しいですわっ!」
「ああ、こちらの方はどのような野菜を実らせていただけるのでしょうか?」
オレが言うと、いきなりキュウリのような実がなった。
オレは仏陀にまた睨まれた。
「覇王君、感情を押さえて…
かなり無理をされたようですわ…
困りましたわ…」
すると一匹の可愛いドラゴンが素早く飛んできて、ほんの少しだけ畑を焼いた。
「さあ、覇王君
この黒い土をかけてあげてください」
オレは急いで黒い土を手に取って、キュウリのなった苗の根元に被せた。
「ああ、大丈夫だったようですわ。
こちらのドラゴンはベティー様。
この星の守り神です」
オレ達はベティーに礼を言った。
すると源次郎がやって来た。
仏陀は源次郎と話しをして、話しのできる植物を集めていると打ち明けた。
源次郎は満面の笑みで承諾して、
源次郎と仏陀が確認した話しのできる苗をもらって地球に戻った。
「動物でも話しのできるものとできないものがいるんだ。
ここにいる話しのできる動物は、全て世界の騎士団員なんだよ。
話しのできない動物は、このミルだけだ」
源次郎はミニチュアダックスフンドを抱き上げた。
そして、超美人の190センチある源次郎よりも背の高い女性が
赤ん坊を抱いてやってきた。
オレとは初対面ではないのだが、
この異様な雰囲気にずっと只者ではないと感じていた。
するといきなり巨大なトラと子供のトラに変身したのだ。
「…それで…
トラノイル商店街…」
オレは妙に納得した。
麗子と源次はこの事実を知っていたようで、オレを見て笑っていた。
大トラはすぐさまヒト形に戻った。
オレは席から立ち、丁寧に挨拶をした。
だがこの女性はオレに敵対心をむき出しにしている。
「源次郎よりも強いなどと信じられんっ!
オレと勝負しろっ!!」
始めて聞いたその声はかなり男前だった。
少し前の麗子のようだと感じた。
そしてさらに、トラに吼えられた錯覚を抱いた。
「はい。
どうかよろしくお願い致します」
オレは女性に誘われ、すぐそばの芝生で組み手をすることにした。
まずはオレが前に出て、数発のフェイントを繰り出した。
どうやらオレの動きが全く見えていない様で、
少し距離をおいてオレは半身で構えた。
「…な…
なんだ…」
女性は立ちすくんだ。
「ベティー、お前の負けだ。
だから言ったろ、オレでも勝てないんだよ」
源次郎はご機嫌でベティーという女性に言った。
オレは笑顔でベティーを見た。
「続けますか?」
「いえ、失礼、致しました…」
ベティーはさっきの態度と180度変わっていて、
オレに丁寧に頭を下げてくれた。
そしてオレはいきなり抱き締められた。
さらにトラに変身して甘えてきたのだ。
「覇王、悪いな。
少しだけ相手をしてやって欲しい」
可愛がるのならとオレは大トラと戯れた。
子トラも寄り添ってきたので、二頭まとめて可愛がった。
ほんの数分で二頭は眠ってしまった。
どうやらオレの癒しを敏感に察知したようだ。
「…ほう!
滲み出る癒しか…
強いからこそとも言えるなぁー…」
源次郎が感心してくれたので、オレは少し照れてしまった。
食べ物と植物が大量になったので、今日はコンペイトウに渡ることは中止して、
源次郎に礼を言ってから大学に戻った。
「大収穫ね。
黒い土ももらってきたので植えましょうっ!」
仏陀は上機嫌だった。
家庭菜園程度だった畑が、妙に本格的なものに変貌した。
仏陀が作業を終え、オレ達に向き直った。
「皆さん食べてくださいって言ってくださるの。
今日から少しずつ頂くことにしましょう!
ところで、ミカンのような果実を食べた感想を聞かせてください」
仏陀は薄笑みでオレを見た。
「オレの感覚では、食べた内には入らなかったと思います。
ですが腹は膨れました。
よって、精神的には相殺されたと思っているのです」
「そうね。
覇王君の言ったように相殺されたと私も感じました。
麗ちゃんと源次君も?」
ふたりは満面の笑みで、ミカンを食べていた。
「今食べてさらにわかりました。
食べたという感覚すらありません。
ほかの食べ物では感じないものです」
麗子はさらに踏み込んで意見を述べた。
「では、その証明をしなくてはなりません。
さて、どうしましょ…
その方法は次回のゼミで。
次はコンペイトウに行きましょう!」
「はい、ありがとうございました!」
オレが心を込め過ぎたので、仏陀が少し朦朧としてふらついた。
オレの優しさと感謝がさらに膨らんでいた。
調整が必要だと思い、これもオレの修行にした。
… … … … …
野球部の全国大会が近いので、部活に参加した。
キャプテンの皐月は相変わらずのドスケベぶりだが、
さすがに練習は真面目にこなしている。
そして明日菜もいつも通り張り切っている。
今日も源次と共にグランドでデートをしていて、
ほかの部員たちはふたりはいない事にして通常通りの練習を行っている。
オレは皐月にある提案をした。
皐月は少し驚いている。
「ずっと、練習試合?」
「はい。
やはりこの先、実戦がものを言うと思うんです。
練習は常に練習試合で。
これを練習に取り入れない理由はありますよね?」
「そうね、怪我をしやすいから。
でも私たちは怪我をしない。
…全員集合っ!!」
オレ達はまずはふたつあるお社を綺麗にして真剣に拝み、練習試合を開始した。
スピーディーな試合運びで、通常の練習よりもかなりハードだった。
だが部員一同にいい知れぬ連帯感が沸いたような気がした。
お社に丁寧にお礼を言って、シャワーを浴びてから揃って学食に行った。
今は7時なので時間を延長した学食は開いている。
ほかの部の部員たちも大勢いたのだが、野球部は大所帯なので、
ほかの者たちの邪魔をしたように思ってしまった。
「おい、皐月。
なんだお前の部員たちは…」
剣道部のキャプテンが皐月に驚きの声を上げている。
「何だって何がよ…」
「野球じゃなく、空手でもやっていたのかと思ったんだよ。
殺気じゃないか、それに近いものを感じたぞ」
「ああ、練習試合。
二時間で7回3ゲーム。
きっと、気合入り捲くりだったからじゃない?」
「おいおい、その短時間でいくらなんでも無謀だろ…
…いや、ありだな…」
剣道部キャプテンの眼が光った。
どうやら、オレと同じことを考えたようだ。
「勉強にスポーツに、頑張ってもらいたいわ!」
仏陀は大声で学食内で言い放った。
各部員たちも仏陀の言葉に気合が入ったようだ。
… … … … …
オレと麗子は抱きあって眠りに付いた。
こういったやり方は浮気をしている様でかなり嫌なのだが、
我が主のためなのでその罪悪感もろとも修行とすることにした。
オレは夢で目覚めた。
今のオレにとって夢でも現実でも同じ様なものになっている。
仏陀の申し訳なさそうな顔がオレの左の視界に入った。
「仏陀、イベント発生です。
覗き魔がいます」
オレが言うと仏陀は少し笑った。
オレは辺りを見渡した。
やはり本棚が怪しいと思い、本の後ろに隠れていた猫のぬいぐるみを手に取った。
「麗子です」
オレが言うと、かなり申し訳なさそうな顔をして、猫のぬいぐるみの頭を撫でた。
すると消えた。
「目覚めましたね。
また覗き失敗です」
オレが言うと、仏陀は大いに笑った。
オレは仏陀をベッドに誘った。
誘うというよりもベッドに座ってもらった。
仏陀は素直にオレに従ってくれた。
「…勝手に逝っちゃったから…
あれって、覇王君が悪いのよ…
凄い感情を込めて、可愛いなんて…」
仏陀は可愛らしくオレを上目遣いで見た。
「申し訳けあリません。
また色々とレベルアップしてしまいました。
ですが調整はほぼ終わりましたのでご安心下さい」
「そう。
だったら安心ね。
…ああいった手紙って、可愛いの?」
「いえ、そうではなく、
仏陀の想いが可愛いとみんなが思ったのです。
そしていじらしい。
男でも女でも、きっと抱き締めたいと思ったはずです。
ですので、感情が入り過ぎました。
ですが問題は、なぜ仏陀が果てかのか、ですね」
「違う感情で受け取っちゃったのよ。
見たままの私を可愛いって言ってくれたと思っちゃったの。
恥ずかしさとね、性欲が入り混じっちゃって頂点に達しちゃったの…
ずっとね、自分でもしてなかったし…
だからね、今はかなり冷静なの…」
「ですがこのままでは病気になってしまいます。
そればかりを考えてしまう。
オレは仏陀が辛いことが辛いのです…」
「…あっ!
いやんっ!!
逝っくぅ―――っ!!」
仏陀は両手で股間を押さえたまま痙攣した。
「…今のって、何がポイントだったんですか?
全く理解できません…」
オレは本当に弱ってしまったのだ。
いくらここがオレに有利でも、確実にありえない現象だった。
だがひとつだけ思い当たった。
「…はうっ!!
もうっ!
もういいからっ!!
いやんっ!
あんっ!!
あああああっ!!
っくぅ―――――っ!!」
オレのなんでもない言葉が仏陀を逝かせていると思い、
しばらく黙っていることにした。
だが試しに念話で、『仏陀、申し訳ございません』というと、
「いやぁー!!
でちゃうっ!!
でちゃうのぉ―――――っ!!
いやぁ――――ーっ!!
逝っくぅぅぅぅぅー――――っ!!!!」
仏陀の噴水で、辺り一面びしょ濡れになった。
余計に傷が深まったなと思い、オレは座禅を組んだ。
オレにとっては普通のことでも、仏陀に取っては刺激的。
よって、オレは機械になる必要があるのではないかと思い、
わかりやすくロボットに変身した。
仏陀は少し白眼をむいて痙攣している。
生も根も尽き果てたといったところだろうか。
しばらく様子を見ていると、落ち着いたのだが動くと痙攣が始まるようだ。
なんだか罰ゲームみたいだなとオレが思った時、仏陀がオレを睨みつけた。
「…ダメだって言ったのに…」
「何がダメなのかサッパリわかりませんでした」
オレはロボットのような声が出て、「ははは!」と自分で笑ってしまった。
「…正解…
これでまともに話せるわ…
びしょ濡れだけど…
覇王君のせいだからねっ!!」
「ツンデレですか?」
「違うわよ、いつもの私よっ!」
「まさか夢が覚めてもこんな話し方をした方がいいんですか?」
「ううん、普通でいいわ…
覇王君、私だからこの程度で済んだと思うわよ。
昇天目的だったら、この部屋に来た途端に成仏するわよ…」
「…はあ、それはオレではわからないんですよね…
ですが、この先少し楽になりますからそれでいいです」
「よくないわよ…
私、もうここに来られないかも…
はっきり言って苦痛だもん…
逝き地獄?」
仏陀は自分で言って自分で笑っている。
「まあ、逝き過ぎるとそうなりますね。
快楽も快楽じゃない。
苦痛でしかありえない。
ひとつ悟ったと思いませんか?」
「…そうね…
今までの私、バカみたい…」
「いいえ、人間だからこそです。
一度それを知ってもらいたかったのです。
…ちなみに今オレが普通に戻って仏陀に触れるとどうなります?」
「…いやんっ!!
ダメっていったじゃんっ!!
ああん、もうっ!!
イヤァ―――――ッ!!」
仏陀は本格的に失神した。
性欲、抜けたんじゃないのかとオレは思った。
どうやら想像させる事もダメなようで、オレは少しだけ反省した。
しばらく仏陀は動かなかったが、瞼がかすかに動き、
完全に開いてからオレを睨みつけた
「…もう、数百年ほど性欲沸かないかも…」
「それは何より。
ですが、軽いものを欲するようになるかも知れませんね。
おっと、やめておきます」
仏陀は一瞬恍惚となったが納まった。
「触れないでね。
人間だけど、きっと昇天しちゃうから…」
「はあ…
そんな気もして来ました…」
「でもね、また来なくちゃいけないと思う。
今は苦痛もあるけど、充実しているだけ。
きっと忘れた頃に襲ってくるわ。
…現実も水浸しだと思うから掃除してくるわ。
覇王君、迷惑かけてゴメンね。
麗ちゃんにも謝っておいて。
本当に、ありがとう…」
仏陀はごく普通に消えた。
仏陀の目覚めをオレは確認した。
… … … … …
目覚めると、外はまだ薄暗い。
麗子の視線がオレに釘付けたった。
「どうしてばれちゃうのよ…」
「雰囲気で。
そしてさらにオレにとって有利になったんだよ。
麗子は慣れたのかな?」
「そうかなぁー…
私って本当は覇王みたいに淡白なのかも。
ねえ…」
オレは麗子の望み通りにキスをした。
やはり朝は少し生臭く感じる。
だがこれが愛する人の味なのだ。
「…ねえ…」
「仏陀には全く触れていない。
オレはロボットになって仏陀と話をしていただけ。
仏陀の様子は割愛させてもらう」
「それだけで十分だわっ!!」
麗子はオレに抱きついてきた。
まどろみながら時計を見ると、もうすぐ学食が開く時間になっていた。
オレは麗子と共に部屋を出ると、よく考えるとここは学校だったと思い出して、
麗子とふたりして笑った。
「便利といえば便利だな…
登校時間ゼロ分…」
「まあね。
先に回っちゃう?」
オレは麗子の案に乗って、神棚などの神に朝の挨拶に行った。
まず出向いた、空手道場の神の様子が妙だった。
昨日とは全く様子が変わり、オレに対して土下座をしていた。
なのでオレも神に倣った。
『ああ、もう、十分でございます!
どうか、もうおやめくだされっ!!』
神に祈ることを拒絶されたことは、
オレにとってかなりショッキングな出来事だった。
「…ですが…」
『あなた様に頭を下げられると、ひどく苦しいのでございます。
どうか、どうか、目礼だけで…』
かなりシビアだなと思ったが、オレはそうするように神に伝えた。
「どうしちゃったのよ…」
麗子が心配そうにしてオレを見たので、事情を話した。
「徳が上がったんだろうけど、私にはわかんないわっ!」
麗子はオレの腕を組んで、
剣道場に足を踏み入れるとここの神もから空手道場の神と同じ対応を取ってきた。
柔道場でも同じだった。
そのほかの神も同じ対応を取ってきたのだ。
最後に野球部の社に行くと、二人の神が困り顔でオレを見た。
『そなたに拝んでもらうほど、オレ達は徳は高くない。
拝まず、挨拶だけにしてくれ。
そうしないとオレ達はさらに頑張る必要があるのでな』
「…はあ、そういう理由であればそうしましょう。
オレの想いが強過ぎるのでしょうか?」
『それもあるが、格違いじゃな。
ここ数日でまたさらに成長された。
止まることを知らぬようじゃなっ!!』
ひとりの神が大声で笑い、もう一方の神も大きく頷いている。
「ところで、ほかの神の棲家も社に変えた方がよろしいのでしょうか?」
『いや、室内の場合は神棚の方がよい。
だが社を立てるのなら、この場所が一番いいし、
神自体ものびのびできる。。
全てを見渡せるからな。
走り込みがてらにでも我らを拝んでくれると必ず守ってやれるぞ』
オレと麗子は社の神の進言通り、ほかの部活の神棚を社に代え、
全てを並べた。
どうやら外の方がいいようで、神がさらに大きくなった。
「集合住宅のようになったな…
なんだが、大いなるチカラを感じるな…」
オレは深呼吸した。
神たちもオレを真似るようにして胸を張って笑った。
オレとしては少々不本意だが、
守ってもらえる神と友達づきあいをすることになった。
麗子には何も言わないのでいつも通りでいいようだ。
… … … … …
「神を崇め過ぎると、妙に謙虚になるようね。
そしてその能力は倍増する。
少々無理をしても多分大丈夫よ」
学食で朝食を取りながら仏陀がオレに言った。
「はい。
特に野球部は成長の時ですので。
大いに味方になってもらいます。
プロの目に止まる者がいるといいんですけどね」
「ひとりは確定でしょ?
覇王君」
「いえ、オレはもう進路を伝えてありますので観察はされるでしょうが
ドラフトにはかかりません。
明日菜は、来年度は学校を休学することにしています。
三回生に上がれることはもう決まっていますので」
「そうね。
プレイ期間は一年だけ…
SKプリンセスしか手を上げないんじゃない?」
「そうなると嬉しいでしょうね、澄美さん」
「はい、きっとそうなりますし、
どこも手を上げなくてもSKプリンセス第一位は明日菜ですわっ!」
澄美がいきなり現れて席に付いた。
周りにいる学生たちも慣れたのか、驚く者はいなくなった。
「その方が明日菜にもやる気が出ます」
「その通りですね。
そして夢が叶う日。
明日菜、張り切り過ぎなきゃいいんですが…」
「大丈夫ですわ。
私が抑えさせます。
ですが、まずは大学選手権。
そしてあわ良くば世界統一野球大会の出場。
特に鍛えなくても練習に出なくてもすぐに使いものになりますから」
「基礎体力は超人ですからね。
ほかの者を潰さなきゃいいんですけどね…」
「それはプロの自覚がない証拠ですわ。
プロは悟ってこそのプロですから。
アマチュア時代にそれを理解し終えたからこそのプロです」
なるほどなとオレは感心した。
そして澄美は厳しいなとオレは感じた。
「一輝とはどうなったのよ?」
仏陀が聞くと、澄美は笑みを残して消え去った。
「…逃げたわ…」
まさにその通りだとオレも仏陀に賛同した。
「…昨日…
ありがと…」
邪魔者がいなくなったので、仏陀は小さな声でオレに言った。
「いいえ。
こちらこそありがとうございました」
オレはごく普通に言った。
もう調整は済んでいるので、何事もないと思ったのだが、仏陀がいきなり消えた。
隠形しただけで、仏陀の存在はある。
そして学食の外に出て、家に入って行った。
また逝ったのかとオレは感じ、
これ以上どうやって仏陀と話せばいいのかわからなくなった。
やはりロボットか、と思った途端、吹き出してしまった。
そしてもうひとつオレの頭に浮かんだ。
だが別の部分であるオレの言霊を確認すると
やけに大きくなっていると今気付いた。
やはりこの手しかないと思い、オレは覚悟を決めた。
部活を終えた麗子と源次が学食に入ってきてすぐにカウンターに並んだ。
そのあとすぐに、衣装換えした仏陀がゆっくりと席に付いた。
オレは何も言わずに、朝食を摂り始めた。
だが麗子はなぜ仏陀と同じ反応にならないのかが不思議だ。
いや、オレの言霊に反応しているのは仏陀だけだと感じたのだ。
もしくは社の神が言ったように格違い。
鈍い者は格違いだと相手を見失う、相手の大きさがわからくなるのだ。
だがオレと麗子の差がそれほどあるようには思えなかった。
源次と麗子が仏陀に朝の挨拶をして、源次がオレにも挨拶をしてくれた。
「今日は野球部の方はいいのか?」
オレが言うと源次が怪訝そうだが少し怯えたような顔を見せた。
「…オレ…
なんか、師匠の都合の悪いことしたか?」
源次の返答に、なるほどな、とオレは納得して考えた。
オレと仏陀、そして源次は同格だとここでやっと気づいた。
「なんでもねえよ。
さっさと喰いやがれっ!」
オレが言うと、源次は笑みをこぼした。
当然仏陀も薄笑みで深く頷いている。
だが麗子と周りにいる学生たちがオレに大注目した。
しかし学生たちはすぐに視線を外した。
「…どうしたのよ、覇王…」
麗子はこれをいうだけで精一杯だった。
「どうもこうもない。
仏陀と源次の反応を見た通りだ」
そう言えばと思い、麗子はふたりを見た。
全く不機嫌そうではなく、どちらかと言えばいつもよりも機嫌がいい。
「格差、だな。
さっき、社の神が言っただろ?」
「うん、言ったけど、怯えてたじゃない…」
「それが開き過ぎると見えない悟れない状態になるんだ。
だから仲間外れは麗子なんだよ」
麗子は少し考えて、朧気ながらも気づいてきたようだ。
仏陀と源次が頷いて麗子にも確信が持てたようだ。
「…でも夫婦だから…
安心感…」
麗子はオレの言葉を否定するように言った。
「いや、それはあまりない。
仏や神の場合は特にな。
麗子はさらに修行を積む必要がある。
それに、澄美さんもだ。
澄美さんは神や勇者としては一人前以上だが、
仏としては初心者だからな。
オレも初心者だが、成長度合いが異常だ。
だが澄美さんも、オレと同じ様に伸びるかもな。
そしてオレは、みんなに暴言を吐く必要が発生した。
心でそう思っても、今の状態では言霊に乗せるのは難しいんだよ。
だからオレと同格の者は暴言でなくてはならないんだ。
特に仏陀には…
少々困ってしまった…」
「いいのよ、覇王君。
これも、現世での修行…
でもね、パンツの替えがもうないから、注意してね」
「コンビニで買ってきてやるよっ!」
「あ、売ってるんだっ!
あとで行って来るから、ありがと…」
オレはやれやれと嘆いた。
仏陀は今までにないほどご機嫌だ。
これは何とかする必要があると、オレはさらに修行を重ねようと決めた。
当然のことながら授業でもオレが発言すると仏の者は半数ほどが怯えた。
よって暴言を吐く必要があり実行すると、
怯えた教授や学生はホッと胸を撫で下ろした。
だがほかの生徒たちはそのままのオレを見るので
大学生なのにオレがぐれたことになっしまい、
一瞬のうちにうわさが広がった。
そしてオレのオアシス、オレの講義の時間が来た。
ここでは普通に話せる。
なにしろ、生徒は早百合しかいないからだ。
しかし噂を聞きつけた者が大勢集まってきて、広い教室が満席になった。
オレは、どうしようと思ったが、
この中ではオレが一番偉いのでごく普通に講義を行った。
だがやはり鋭い早百合が、ほぼ見学者の半数ほどの者が怯えていることに気づいた。
「先生、申し訳ありません。
授業とは関係ないのですけど、凄く気になって…」
「そうだよな。
これはオレの気が利かなかった。
オレに怯えている者はすぐに出て行ってくれ」
オレの声が聞こえた怯えた者は一目散に教室を出ていった。
「これで普通に講義を続けられる。
言っておくがオレはぐれてないぞ。
これには理由がある。
そしてそれを追加の授業内容としようか」
早百合はすべての謎が解けることを喜んだようだ。
だが授業が終わると酷く落ち込んでいた。
当然、授業内容を正しく理解できたからだ。
「…存在の格差があるから、その言霊を読めない…」
早百合は正確なオレを見ていないと感じたのか、さらに悲しそうな顔をしている。
「それに、これは仏と人間の差でもある。
教室に残っていた者は、
オレとは極端に差のある格違いの仏か人間だったからな。
だからそれほど気にする必要はないんだよ。
…今はな」
オレの最後のひと言が早百合は気に入ったようで満面の笑みになった。
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