第12話 ステープラー 深海 鬼(九題:鉈 病院 逃、雪 花畑 寝起き)

「ねえシンカイって何?」


「深海は光の届かない海。真っ暗な所だよ」


「ウミ!同じ名前だな」


「…そうだね」




 〇〇〇〇〇〇




 俺はおじじと森の中を歩く。鉈を持ったままで鬼のように怖い。



「雪もまだ残る内に出て行った旅人を探すのか?」


「違う。俺だけで旅をする」


「ここから出られないのに?」


「きっと出れる!」


「どうして?」


「そんな気がするんだ」



 たどり着いたのは瓦礫で覆われた洞窟。知らなかった。



「行っちまえ、二度と帰ってくるな」


「どこに、繋がってるの?」


「さあな。戦場かはたまたお花畑か」


「…今までお世話になりました」



 俺がお辞儀をすると、おじじは舌打ちした。



「逃すんじゃねえ、お前は病院の冷たいベッドで死んだんだ」


「うん」


「お袋さんはお前を産んで死んだ。だから俺はお前の親父と喧嘩した、名前でな」


「そうなの」


「疲れて夕方寝起きに見た空が綺麗だったから、だと。そんな間抜けな名前、嫌だろ?」


「ううん、気に入ってるよ」


「そいつ古傷のステープラーの針が膿んで死んだ。バイクで出てったんじゃない。こんな所じゃなければ2人とも助かったんだ」


「…教えてくれてありがとう」



 知らないことばっかりだ。



「俺はなソラ、お前に生きていてほしい」

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