第10話 黒板 購買 遅刻(修辞技法)

 僕は酔っぱらい。ユラユラ景色が揺れる。気分は悪くない。怯えるソラ、僕が酔ってペラペラよく喋るからだ。自分のにはさっぱり口をつけず、僕の手の中の揺れる赤を見ている。


 僕は技術者、犯罪者、外国人、脱獄者。先生なんかじゃない。ましてやこの国の生まれでもない。だけど彼にこの国の歴史を教えている。……ただの気まぐれだ。意味なんてない。


 僕は自国で学校の教室の黒板に向かっていろんなことを教わった。ここには学校はない。ソラは黒板もチョークも給食も購買も体育も知らない。もちろんそれでいい、国が違えば。だけど一枚壁を隔て向こうの子ども達は学校や遊びに忙しい。彼は仕事を休んだり遅刻することを罪だと思っている。



「向こうに行きたい?」


「別にいい」



 ずっと忘れられない、彼のこの顔が。



「ガッコウ、だってあんたが俺に教えてくれたらいいだろ」


「…僕は、悪人なんだ」


「誰だってそうだよ」



 ソラの口に入るふた口目のワイン。変な顔に飲み込まれる。



「俺だって悪いやつだろ?」


「…」



 全然そう思ってないのに頷いた。ソラはソラだ。悪人じゃない。悪いのは僕だ。僕は酔っぱらい。ユラユラ景色が揺れる。


 遠く遠くにソラの声がする。

 僕の名前を呼んでいる。

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