第3.5話 ボタン 山 新人

 俺はこいつの生まれたところに行きたいと思うようになっていた。しかしそういった類の話はそらされてしまう。掛け違えたボタンのようにずれる。頭がいいやつはずるい。



「今日はよく喋るね」


「俺は喋る方だろ?」


「でも好きじゃないでしょ」


「俺は話すのも走るのも聞くのも好きだ」


「僕は走るのは苦手だな」


「力仕事も苦手だろ?おじじ達に頼られて大変じゃない?」


「まあね。意外となんとかなるもんさ」



 俺は知ってる。期待の新人、そう呼ばれているのを風の噂で聞いた。もう少し山深いところ、そこにはロテン風呂がある。もっと山深いところにはとある仕事がある。その仕事をするときは大抵こいつの帰りが遅い。



「俺の、親父さ」


「ソラ。いいよ話さなくて」


「…そうか」


「ここにも冬が終わるまでだから」



 そうか。冬が終わるまで。この人はそれ以上はここにいなくてもいいのか。



「俺も連れてってくれ」


「できない」


「どうして」


「僕は力仕事は苦手だからね」



 それだけ言うと外に出て行ってしまった。その夜はそのまま帰ってこなかった。こんな冬の夜でも他の居場所があるんだ。


 俺は俺の仕事に出かける。



「この〇〇〇〇〇野郎!」


「おはようございます。今、朝ごはん作りますね」

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