第3話 ボタン 山 新人(複数の使い方)

 塔から見える山並み。あいつはそのずっと向こうから来た旅人。船や車、バイクに乗ったらしい。俺がバイクに反応したのを見て苦笑いされた。



「僕の素人運転じゃ2人乗りは無理」


「運転したい」


「マウンテンバイクに乗れたらね」


「それはバイクじゃないの?」


「あー、ここに自転車はある?」


「あるよ」


「山道も走れる自転車のこと」


「そんなのはないよ」


「なんでバイクがいいんだ?」


「ずっとずっと前に来た旅人がバイクに乗ってた」


「そう」


「バイクに憧れて作ったり乗った人は旅に出た。そのせいでここには年寄りと病人と俺みたいなやつだけ。だから旅人も来ない」


「まあ秘境だと聞いた。牡丹鍋も美味しいし、山猿と露天風呂ができるって」


「ロテンブロってなんだ?」


「自然の温泉で窓も屋根もない」


「ああ、あれをロテンって言うのか」



 そうして頭のいいあいつから俺はいろんなことを教わった。



「よう新入り!!」


「よろしくお願いします」


「力仕事頼んでもいいか」


「もちろんです」



 力を入れたら服のボタンが取れてしまったらしい。つけてやると器用だと言われた。この服を作った人の方が器用だ。



「それは機械が作る。お風呂もスイッチ1つで沸く」


「指一本で!?すごいな!」

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