第21話 変貌を遂げるオギー

 ラインっつーか、もはや、これふみだな、ふみ。オギーらしいと言えばオギーらしい。送られてきたメッセージを見てそう思った。

「オギーも呼ぼうぜここに。エッチピストルズ全員集合で練習しょうぜ」

 俺はここの住所をラインで送った。一時間ほどしてオギーがギターを担いでやってきた。俺たちは彼の姿を見て唖然とした。


「キ、キミ、誰?」


 髪の毛は金髪でスパイキーヘアー、目の色といえばブルー。服装といえば、ガーゼの袖の長いシャツに、赤いタータンチェックのズボンを履いている。


「お、お前、オギー?だよね…」

「そうですよ。いやだなー、ちょっと見ない間に忘れちゃったんですか」


「髪っ!ぱつ金じゃん。だんだんド派手になっていくな。何その目、青いしっ、度入りのカラコン?」


「だめですかねえ?この髪。旅行先のヘアーサロンで染めたんですけど。そしてコンタクトレンズ、度入りのブルーにしてみました。なんかね、日本に帰ってきたら最近やけにじろじろ見られるんです。さっきも信号待ちで女子の団体にじろじろ見られました。似合ってませんか?」

 オギーは恥ずかしそうに頭をかいた。

「商店街界隈でそのいで立ち、見るなって言うほうが無理。俺のこの黒髪ツンツン頭でさえも白い目で見られるのに。お前目立ちすぎだって」

「カンちゃんのお父様には、ハローといわれましたよ」

「うちの親父、ぜったい外国人だと思ってるっすよ。オギーのこと。でも、マジかっこいいっす。パンクロッカーって感じっす。そのシャツとズボンどこで買ったすか?ワイハーっすか?」


「これはネットショップですよ。あとでリンク貼っておきますね。それより、みなさん今日は誘ってくれてありがとう。僕、とても嬉しくって、おしゃれしてきました。それにここ、すごくかっこいい場所ですね。薄汚なくってワイルドで正にパンクって感じじゃないですか。なんだか、うきうきしますよ。こういう場所にはなかなか来ることがないから、とても新鮮です。そうだ、パンクバンドのミュージックビデオはよくこういう場所で撮影されてますよね。ふわーっ、かっこいいー。僕、パンクロッカーになった気分です!!」


 オギーは小汚ない腐った野菜の臭いのするカンちゃんちの倉庫をキラキラきた目で何度も見回してベタ誉めした。「それ、ソフトにデイスってすよね。薄汚いっすかねやっぱり」とカンちゃんはケラケラと笑った。俺はオギーに、それはたぶん物珍しさ、そして無い物ねだりなんだよ。と言いそうになったけれど、あまりにもオギーが礼儀正しくて嬉しそうだったので言うのをやめた。


「へえー、立派な和太鼓があるんですね。カンちゃんのですか?」


「そうっすよ。もうすぐ商店街の夏祭りっすからね。俺の出番」


「バンドと太鼓、忙しいですね。あとテニスも。じゃ、バンド練習しましょう」


 そう言ってオギーはギターを出した。


 おお、このギターはスティーヴ・ジョーンズのレスポールのレプリカ。確か前に俺たちで調べたときはホントかウソかわからないけれど、100万円くらいする代物らしかった。俺たち三人は息を飲んだ。みんなの脳裏には100万円の値札がちらついていたに違いない。


「このギターってロンドンから取り寄せたんやろ?前から聞こうと思ってたけど、それむっちゃ高いんちゃうん?」

 ミッチーがズバリと核心をついた。このような状況のとき大阪弁っていいなあと思う。聞きづらいことでもずかずか聞ける。

「うーん、そんなことないですよ。レプリカだし。まあいいじゃないですか、そんなこと。そうだ、オリジナル曲、作ったんですよね。聴かせてくださいよ」

 うまくはぐらかされ結局、彼のギターがいくらするのかはっきりと教えてくれなかったけど、金持ちが「そうでもないよ」と言った時は、絶対に高価なものに違いないと俺は思う。


 オリジナル曲作りは、はっきり言って感動に近いものがあった。

 オギーはミッチーの歌詞をうまくピストルズのアナーキーインザUKみたいな感じで意図も簡単にコードを入れてメロディーをつくった。ここはもっとこうしようとかみんなのアイデアで、薄っぺらいペラペラだった元曲がだんだんと重厚になっていくそのとき、俺は体が震えた。その上、オギーはさらさらと楽譜を書いて俺たちに渡してくれた。

「やっぱ、すごいよな。オギーは。どんどん曲になっていく。それに文字を書くように楽譜を書くんだね。俺、全然読めないんだけど」


「螢川のモーツアルトやな」


「そんなことないですよ、みなさんが先にフレームを作ってくれていたから僕はそれに音を埋める作業をするだけです。みなさんのパートが重なりあって曲ができるんです。僕だけがすごいんじゃないですよ。曲作り、楽しいですね。ミッチーさんの歌詞、僕、好きですよ」

「ほら、見てみい、わかる奴にはわかるんや。俺のポエム」

「ドラムも楽譜いるんすか? 読めないとダメっすか?」

 カンちゃんがオギーに訊いた。

「感覚でいいんじゃないですか。オーケストラじゃないですから。自分がやり易いように自由にやっていいんじゃないですかね。自由が一番ですよ。僕は楽譜があった方が落ち着くから書いてるだけですけど」

「でもやっぱ、楽譜がすらすら書けるってすごいっすよ。俺なんか、たまに文字も書けないっすよ」


「ふふふ、あっそうだ、テニスの練習、明日からやるって、みーちゃん、いや美波さんが言ってましたよ」


 ――待ってました。イエス!!

 心の中でガッツポーズ。美波に会える、また美波の家に行ける。俺の顔はにやけたに違いない。ワクワクしてきたテニスのやる気も急に湧いてきた。


「だから皆さんも来れる方は10時に学校のテニスコートに来てって」


「え、学校?」


「そう、朝10時から」


 ――なんだよ、学校かよ。


「僕たちのバンドの練習もできてちょうどいいですね。スタジオならドラムセットもあるしアンプあるしね。今日作った曲、テニスの練習の後にやりましょうよ」


「ああ、そうだな。じゃ、バンドのついでにテニスやるか」


「ついで?なんやねん、それ、嬉しいくせに」


 バレてる。ミッチーはするどい。


 

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