第8話 反撃タイム
「なんなんだ!テニス部のやつら。超むかつく。あの、人を見下したような態度。ミッチーっ!なんで止めたんだよ」
「俺もむっちゃむかついてるって。でも、俺たちがコートを汚したし、分が悪いって。それに、女子やん。女子にはやさしくせんとな」
チャラい。やっぱミッチーはチャラい。けれど、それがミッチーが女子にモテる理由でもあるのか。
「お前は靴脱いでいないからそんなことが言えるんだ。靴を脱がされた俺の気持ちにもなってみろ」
「家に上がると思ったらいいんじゃないっすかあ?それにしてもあの腕の筋肉見ったすかあ。すごかったすね? 俺、負けたかも」
えっ、そこ? カンちゃんのポイント、そこ?
「ああ、あのソバカス女やろ、カンちゃんとええ勝負してるって。それにあの日焼け、むっちゃすごない? 松崎しげる級やん」
「遠目からはかわいく見えたっすよ」
「ほんまや。みんな妖精みたいで可愛いなって思とったのに、まあ、後ろにおったちっちゃい子は可愛かったなあ」
なんだあ、こいつら、女子にナメられて悔しくないのか?
「おまえら...」と言おうとしたとき、
「みなさん、このまえ、テニス部眺めて興味ないって言ってませんでしたかあ?」
オギーがスタジオの奥の戸棚をごそごそしながら言った。
「まあ...テニスにはキョーミはないけどな。どっちかというと嫌いやな」
「あの筋肉はすごいっすよ」
「俺はマジくそムカついてる。ミッチーもカンちゃんも、筋肉とか松崎しげるとか、そこじゃないでしょうよ。悔しくないのかよ。もうもうキョーミないよ、俺は。なんだ後から来たミナミとか言うやつ、靴脱がされて言い負かされてマジ悔しいよな。ニコニコ愛想振りまいてガンと落とすいっちばんやなタイプ。俺たちのこと完璧ナメやがって。カワイイと思ったのにテニス女子ってみんなああなのかな」
「
オギーが奥にある戸棚から箱を出しながら言った。
「えっ、オギー知ってんの?あの子」
「うん、まあ。ちょっと。向こうは僕に気づいてなかったですけどね。五条寺美波は女子テニス部のキャプテン。ポニーテールの女子は稲本マキで、眼鏡の女子は椎名優、筋肉質のソバカス女子は工藤洋子。みんな知ってますよ。彼女たちみんなインターナショナルクラスですよ」
「ゴジョーテラ?ミナミって名前だったんだ。名字だと思った」
「ああ、やっぱりね。金持ち系。そっちだと思ったっす。英語ちりばめてたもんねグッボーイとか、アポロがなんとかとか」
「ああー、インターナショナルクラスねー。それもなんかむかつくわー。態度でかいし、欧米やん」
「聞くところによりますと、テニス部は廃部寸前らしいですよ。部員あの四人だけみたい、つい最近、最後の男子テニス部員も転校して男子テニス部は部員ゼロ」
「へえ、詳しいね。ところでオギー、さっきから何探してんの?」
「あったっ!!」
見ると、オギーが目を輝かせて拡声器を持っていた。
「お前、そんなもんどこにあってんな」
「がらくたボックスの中ですよ。この前掃除したときに見つけてたんです。まだ使えますよ。ちょっと脅かしてやりましょうよ。ナメられて悔しいじゃないですか。いまこそこの屈辱を晴らしましょうよ。ねえ、ヒロさん」
「えっ、まあ、そうしたいけど...」
「......何始まるん?」とミッチーが聞いた。
「反撃タイムですよ」
オギーは拡声器を持ったまま、すたすたと窓辺に行き、かがんで頭半分だけだして練習をしているテニス部の様子を見て、俺たちにもしゃがむようにと手で合図する。ちょうど五条寺美波がサーヴを打つ瞬間を見計らって拡声器で
「うんこーーーーーっ!!」
と叫んだ。五条寺美波はビックリしてサーヴができず、苛立ったようすでキョロキョロしている。俺たちは身を窓の下に隠し、ゲラゲラと笑った。笑い死にしそうなくらい笑った。
「どうですか?」
「オギー、お前サイコーやわ。あー腹いったいわー、次、俺にやらせて」
「どうぞ」オギーは拡声器をミッチーに渡した。
「オギー、ミッチー、みんなやめたほうがいいっすよ。面白いけどさ。ヒロちゃん何か言ってよ。知らないっすよ。俺」
俺は笑いが止まらず腹を抱えてヒーヒー笑っていた。
「カンちゃん、そんな弱気でどうするねん。オギーを見習え。次、俺がやるから見ときや」
ミッチーが拡声器をもって、今度はソバカス女子がサーヴをするときを狙って
「おならプウ~~~~~~ッ!!」
と叫んだ。ソバカス女子もサーヴを邪魔され、打ち損ねたボールが頭にあたり憤慨してキョロキョロしている。「ざまあ~」俺たち四人は床に転げ回って爆笑した。腸がねじれそうだ。
「ヒロ、お前の番や」
俺はミッチーから拡声器を受け取った。無言のプレッシャーを俺は感じた。おもろいこと言えよ。ってミッチーの目が言っている。長い付き合いでわかるのだ。「うんこ」「おならプー」に負けないくらいインパクトのあるワードは男のあの三文字しかない。たぶんみんながそのワードを待っている。仲間をがっかりさせてはいけない。俺は使命感に燃えた。テニス部の邪魔をするというよりも、もはやその言葉を拡声器で叫ぶということに目的はシフトされたと言ってよい。
窓の下の壁に背をつけて身を隠して座り、仲間と目で合図する。笑いをこらえるのに必死だけれども真剣だ。シューティングゲームさながら、拡声器をあたかもマシンガンかライフルのように胸の前でかかえる。
「よし、いくぜ。3、2、1、GO!」
俺は拡声器を窓に少しだけ出して、ロックオン。そして叫ぶ。
「ちん...... えっ!?」
テニスコートには誰もいない。
さっきまで向こうのテニスコートでプレイをしていた女子たちが突然、窓の両脇から現れ、五条寺美波が俺の拡声器の前に立ってこう言った。
「ちん、なんですって?」
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