第2話 パンクバンド結成


「俺、やりたいっす!」

カンちゃんが一番に声をあげた。

「マジ、カッケーっすよ!雷に打たれた感じっす。俺はちっちゃい頃から町内会の和太鼓クラブに入ってるからドラムは任せてよ。太鼓が二、三個まわりに増えるだけっすよね。それに俺、すでに結構ファンがいるっすよ!」

 と豪語するカンちゃんこと神田信彦かんだのぶひこ。八百屋の息子で短髪角刈りの小学時代からのダチ。カンちゃんは祭りになるとちょっとした地元のヒーローになる。そのマッチョな筋肉質の体で和太鼓を叩く勇敢な姿が評判なのだ。彼本人の言う通り彼にはファンがいる。本当に商店街界隈のおばちゃん、おっさん連中に絶大な人気を誇っているのだ。けっこう気が弱い方だが見た目がごっついので、こいつといることでイキッたやつらに絡まれたり、いじめられたりしたことは中学時代から一度もない。


「その話乗った。むちゃむちゃカッコいいやんけ。このヴォーカルいっちゃってるやんな。名前なんて?ジョニーなに?この曲コピーすんの?おれ英語得意、得意。つか、英語っぽい言葉しゃべるん得意やで。完コピしたるわ。意味わからへんけど」


 物真似が得意なお笑い好きの小6からの悪友、ミッチーこと道端直人みちばたなおと。関西の方から小学6年の時にこの町に越してきた。よくわかんないけど、複雑でちょっと貧乏な家育ちのようだが、こいつはまあまあイケメンでスポーツも出来て、頭は俺よりバカだが結構女子に人気。人前に出ることをが大好きなやつで目立ちたがり屋。ちょっとチャラいのがたまに傷だけどいいやつ。俺は前々から決めていたのだ。YouTubeか、バンドをするならこいつと一緒にやると。


そんでもって、こいつ。


「あー、荻窪くん...」


俺は、まだトマト色に顔を赤らめている荻窪くんを見た。


「君にここに来てもらったのは他でもない、君、ギター弾けるよね。俺たちと一緒にバンドやらない? 一緒に十月の学祭で一発ブチかましてやろうぜ。今から練習すれば絶対間に合うし、どうかな?こういうの」


「うわー! こういう激しいの奏でてみたかったんです。僕」


 パンクロックとはどう見たって無縁だろうと思われるキャラの荻窪くん、荻窪雅臣おぎくぼまさおみは意外にもやる気満々だ。


「カッコいいなあ。パンクロックってアルアイレ奏法しなくてもいいんだね。あっ、僕、椅子に座ってでしか演奏したことないのだけど、あんなに激しくアクションしながら弾けるかなあ...」

 髪を七三にピシッと分け、銀縁の眼鏡の荻窪雅臣は、俺やミッチー、カンちゃんの住む下町商店街付近ではなく、学校をはさんで反対側の山手、お金持ちエリアの結構いいところのおぼっちゃまらしく、ただ同じクラスでダチってわけでも無いけど、クラシックギターを小さい頃から習っているという噂を聞いた。バンドにはギターリストが不可欠なのだ。荻窪くんはパンクロックとは対局に存在する人。そんなことは明らかだが、ようはギター。彼はギターが弾けるのである。なのでダメもとで声をかけてみた。俺には何のこっちゃわからなかったけれど、それはそんな彼の素朴な質問だった。


「大丈夫、大丈夫。パンクって世の中の不満をぶちまける音楽だから。勢いでOK。ソウホウ? 何でもOK。とりあえずスリーコードでくれると大体オッケー、オッケー。練習すればすぐに立って弾けるようになるって。それと、俺がかっこいいニックネームを付けてやるよ。えーと、荻窪だから...うん、今日からお前はオギーだ」

と、俺は思いつきでいってしまったが、


「オギー? オギー。僕、オギー...」

 オギーは嬉しそうに照れて笑った。



 そしてこの俺、北村博司きたむらひろし。ベースのヒロだ。俺もミッチーと同じくお笑いが好きで、ゲームも好きで、とりあえず流行りものはきっちり押さえとくタイプのまあフツーの高校生。フツーのサラリーマンの家庭にフツーに育った。実を言うとここだけの話だが、この俺、つい最近まで隠れアイドルオタク。オタ芸もちょっとばかし。まっ、過去は過去。俺にはもう過去はない!ないっ、ないっ、無いっ!!俺は生まれ変わったんだ。パンクロッカーとして!


 こうして高校一年の初夏、熱気ムラムラの屋上で俺たちはパンクバンドを結成した。


「バンド名、決めやなあかんな。なんにする?」

 ミッチーは残りの牛乳を飲んでいる。


「なんか、カッコいい名前がいいっすね」

 二つ目の焼きそばパンをカンちゃんは頬張った。



「実は、バンド名、もうすでカッコいいの考えてあるんだ」

俺はコロッケパンを頬張りなが得意気に言った。


「なんですか? バンドネーム」

オギーが目を輝かせている。


「なに? なに、なに?」

他の二人も興味深そうに寄ってきた。


「知りたい?」


「うんうんうんうん」

うなずく野郎三人。

俺は声も高らかにいった。


「オーケー、その名も、『エッチ・ピストルズ』だ!!」


「ブハーッ」

「ゴホッゴホッ」

「エッ、エッ、ええー?#@%♂♀$★~」


 ミッチーは牛乳を吐き出し「お前、もうちょいひねり入れろやー。直訳やん。くそだっさー」とあきれて言って、カンちゃんは焼きそばパンをつまらせてむせ、オギーは再びトマトのように真っ赤になった。


「おまえらさ、さっきから何いやらしいこと考えてんの? エッチは螢川学園ほたるがわがくえんのHだぜ」




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