第11話 バンド解散の危機
「ヒロちゃん、ヤバイっすよ。相手の要求ってなんすかねえ。俺、言ったすよね。まじヤバイっすよ。要求なんでも聞くってのは。裸で校庭十週とか言われたらどうするっすか?」
つか、カンちゃんと俺、同じ発想かよ。
「あ、でも俺、上半身だけ裸なら全然オッケーっす。この筋肉見せびらかしてやるっすよ」
カンちゃんは大胸筋をムキムキさせた。
いや、違う。全然違うし。俺全然オッケー違うし。
「カンちゃん、大胸筋を見せびらかしたいのはわかるけど、多分それはない。テニス女子たちの要求は、俺たちのスタジオ撤去だろう。でも、大丈夫。最悪そうなったらそうなったでまた違う場所を探せばいい」
「せや、俺らにはオギーのおやっさんがついてるしな。いざとなったらまた頼むわ。な、オギー」
ミッチーがオギーの肩をバンバン叩いた。
「あっ、は、はい。まあ…」
俺は美波の方に堂々と振り返った。
「さてと、なんだよ。おまえらの要求はよ」
「なんでも聞くって言ったわよね」
「ああ、約束は約束だ。男に二言は無い」
俺は腹をくくって余裕さえ見せた。
「じゃあ、あなたたち全員、テニス部に入ってもらいます」
「ふっ、なんだそんなこと……え、えーーーーっ!テニス部に入るう?」
「そうよ。そして十月の学園対抗試合にエントリーしてもらうわ」
「っだーーーーー?試合ィーーー??」
「美波、それ本気?試合ってっ」
俺たち以上にテニス部の女子もビックリしているようだ。
「俺、あかん。テニスは幼少の頃に辛い思い出があってテニスはトラウマ。あっ、なんか蕁麻疹でてきたかも。悪いけど多分ドクターストップやわ」
ミッチーのやつ、調子ぶっこいてよく言うぜ。何がドクターストップだよ。するとそのあとにカンちゃんが
「俺も無理っす。テニスとかイメージわかないっす。出来る気全然しないっす」
そしてオギーも
「僕もテニスというか、体育系全般は苦手でして……」
とぼそぼそ言った。こいつらうまくすり抜けるつもりなのか。
「ヒロ、ほな俺たちの代表ってことでたのむわ」
なっ、なんて薄情な奴らなんだ。
「おまえら、それ本気で言ってんの?仲間じゃねーか。友達じゃねーのかよ、友達って何?仲間って何?」
「連帯責任です。みなさんで入ってもらいます」
「そうだ。そうだ。美波さんの言う通りだ!もっと言ってやって、こいつらに。俺にばっか責任押し付けやがって!」
「いや、元はといえばヒロが勝手にいいだしたことやし」
「はあ?ミッチー、おならプウ〜とか言ってたの誰だよ。お前ってそんなに薄情だったの?小学校の時からの友じゃなかったのかよ?もし、そんなこと本当にしたら俺、ベースやめっから。バンドやめっから。バンド解散だー!!」
「ヒロちゃん、それじゃあ、本末転倒っすよ」
「うっせーカンちゃん、本末でも粉末でも幕末でも解散してやる。バンド解散。カイサーーーーン!!」
俺は半ばやけくそになった。
「ちょっと、君たち、落ち着いてよ。カームダウン、カームダウン、ガイズ。ここで仲間割れされたって困るわ。ちょっと聞いて。ことの真相を話すから」
美波が落ちついた口調で俺たちに割って入った。
「実は私達テニス部はあなた方の言うとおり存続を危ぶんでいるの。現在この四人しかいないわ。男子テニス部はなくなっちゃったし、このままじゃ学園主催のテニス試合に出場できないのよ。学園の名誉に懸けても出場したいの。だから私も無謀な賭けを買って出たのだけど…、出場したいのよ。出場するには君たち男子の部員が必要なのよ」
こ、この可憐さ。愛らしさ。さっきのテニスの時の迫力はどこにいったんだ。あのキッと睨んだ顔はどこへ消えたのだ。なんなんだ。マジギャップ萌え~。小動物のような目でこんなに訴えられたら、もし賭けに勝ったとしても俺はテニス部に入ったかもしれない。五条寺美波は可愛いし、テニスうまいし、頭いいし、英語もできるし、チャーミングだ。男子として助けない訳がない。
「おい、聞いたか。困ってるんだよ。テニス部のみなさんは。それに俺たちは約束を果たす義務がある。美波さんはあの缶を三回続けて当てたんだ。すごいよ。そんなことプロでもなかなかできないよ。それは尊重すべきことだよ。すごいことだと思わないかい?ヘイ、ガイズ」
俺はバンドメンバーに訴えた。けれど本当は、爽やかなアメリカンな笑顔を作り美波にアピールしている俺。強いて言えば、やっぱこの足のブルーのビニール袋が目障りだが。
ちょっと微妙な間があったが、結局はミッチーもカンちゃんもオギーも賛成してくれた。
「わかった。見事三回当てたわけやし。約束は守らんとな。俺、バンド解散したくないし。テニスやるか」
「じゃ、俺もテニスやるっすよ。まあ、エクストラ筋肉付きそうだしね」
「わかりました。バンド解散は絶対嫌だし、僕もテニスやってみます。嫌だけど」
「サンキュー、サンキュー。わかってくれて俺は嬉しいよ」
「ありがとう。みなさん、めでたくテニス部入部ということで、じゃあ、さっそく明日から大会に向けて一緒に練習しましょう」
――えっ、練習?明日から一緒に?美波とテニスの練習だってえ!? なんかいいかも。それ、いいかも。俺、がんばっちゃうかも。
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