第27話 新学期だよ。学園祭の思わぬ展開
―――9月。
新学期が始まって間もなく、学祭ライブ申し込み受付が始まった。用紙にバンド名 "エッチピストルズ" と記入し提出する。学祭まで約一ヶ月半。学祭の日とテニスの試合が同じ日だったらどうしようと心配していたが、十月最終週の土曜日が試合で、日曜が学祭だ。同じ日じゃなくて本当に良かった。
正式に申し込みをしたことで、バンド初ステージも近いと胸が高鳴った。
「申し込み用紙、出してきたぜ」
半ばスキップで教室にもどるとオギーが半泣きになっていて、カンちゃんとミッチーがなだめていた。どうしたものかと聞くと、なんと、オギーはいじめにあっているらしい。
「最近、ジロジロ見られるんです。僕、何もしてないのに。それに、今日、靴箱になんか入ってるんです。実は僕、中学の時、靴箱に生ゴミを入れられたことがあって。高校になってからそれは止まっていたのですが、またいじめが始まったかと思うと、また生ゴミが入れられていると思うと僕、靴箱開けるの怖くて…」
「なんやてっ、生ゴミ?!そんなことするやつホンマにおるんや。ゆるされへんわ」
ミッチーがマジ怒っている。
「そいつら探し出して、カンちゃんと一緒にそいつらの前に行こうぜ。人の靴箱に生ゴミ入れるヤツはヘタレに決まってる。カンちゃん見て怖じ気づくに決まってるっ!」
俺は声を大にした。
「そうっすね。俺、喧嘩とかめっちゃ嫌いっすけど、見た目はアレなんで」
カンちゃんは自慢の筋肉をムキムキさせた。
100%カンちゃん頼みの俺も結構なヘタレだが、ヘタレはヘタレなりの怒りをあらわにして、とりあえず状況を見るべく、俺たちはオギーの靴箱の前に行った。
なるほど、確かに中に何か入れられている。靴箱の戸開きから何かはみ出している。
「むむ、生ゴミか?」
「ネズミの死骸かもっすよ」
「ええーっ!ネズミーーーイイ」
再び泣きそうになるオギー。
「カンちゃん、言い過ぎやって。じゃ、開けるで。3、2、1、マーク!!」
ミッチーが靴箱を開けると
どどっと手紙やプレゼントが雪崩のように落ちてきた。
「これってラブレターじゃん」
「え、ラブレター?」
「ああ、ほらプレゼントも」
「誰に?」
「誰にって、お前の他に誰だよ」
「へっ」
「ほら、ちゃんと"荻窪くんへ" "オギー様へ"って書いてるし、ハートマーク付き。ファンだぜ。ファン」
「モテモテやん。人騒がせやなー。中学時代は俺もこんなやったのに。高校に入ってからさっぱりやわ。オギーに抜かされた」
ミッチーがちょっと羨ましそうに言った。
どうやら、銀縁の分厚い眼鏡、七三の分けの髪型のオギーから、俺たちとのバンド活動をきっかけに、カラコン、金髪になることによってオギーの世界が変わったようだ。
生まれてから、靴箱にラブレターやプレゼントなど入れられたことのない俺は、超、メガトン級に羨ましく思った。オギーの変わり様は劇的で、ちょっと女っぽいなよなよしたところは抜きにして、男の俺から見ても、金髪ブルーの目でギターを弾くオギーはカッコいいと思う。本人、モテ期到来に全く気が付いていないあたりオギーらしい。
「ラ、ラブレター?僕に?生ゴミじゃない…」
オギーは安心したのと嬉しさからか顔をポッと赤らめていた。
次の日
「ヒロちゃーんっ、みんなあーっ、大変大変!!」
血相をかかえてばたばたとカンちゃんが教室に入ってきた。
「学祭の出演バンド、本番前に選考会するらしいっすよ」
「えーーーーっ??!!なんだって?!」
カンちゃんが言うには、
急にバンドブームが螢川学園に巻き起こり、学園祭を前に、多くのバンド、パフォーマーが申し込み受付に殺到したらしく、公平を図るために学祭当日のステージ権利は人気投票で決めることになったらしい。 選考会は一週間後。各自バンドのパフォーマンス持ち時間は三分。それを観た生徒たちが一人二票をそれぞれ違うパフォーマーに投票することができ、その内の上位五組がステージ権利を獲得できる。
「申し込みすれば自動的に学祭のステージに立てるんじゃねーのかよ?なんだよ、選考会って、予選?」
「じゃ、予選を通過せえへんかったら、俺たちの学祭デビューは無いって事か」
「マジか...。オギー、何とかできないの? お前んとこのおやっさん学校の偉い人なんだろう? ちょっと便宜はかってよ。ロックミュージック部作ってくれた時みたいにさぁ」
「そ、それはちょっと…無理ですよ。いくらヒロさんのお願いでも」
「そうっすよ、ヒロちゃん、それは正々堂々としてないっすよ」
「せや、それはあかん。裏口入学や」
「…、じょ、冗談だよ。ハハハ」
冗談ではなく本気でそう言った自分が恥ずかしい。
掲示板に張り出された、学祭演奏バンド、グループ候補の多さに絶句した。15組だった。その内のたったの人気上位5組が本番の学祭のステージに立てる。
人気投票だって?! ヤバイ。俺たちファンどころか、友達いないし。そんなのファンがいなきゃ話にならない。頼めるのはあいつらしかいない。学祭のステージ権利ゲットのために、美波たちテニス部女子に応援、桜になってもらうしかない。
「あのさー。相談があるんだけど…」
放課後、俺たちはテニスの練習のあとに美波たちにバンド選考会の話をした。
「なんだ、そんなこと。どんな相談かと思ったら。もちろんOKよ。楽しそうだわ。ねえ、みんな」
「うん。全然OKよ。そうだわっ! 私たちもパンクファッションで選考会いきましょうよ。それで応援するの。楽しそうじゃない?」
「そうね、ちょっとしたコスプレよね」
「実は、私、パンクファッション嫌いじゃないわ。強そうでいいじゃない?」
マキの提案に、優ちゃんも洋子もノリノリだ。
「そうよ。私達テニス部もヒロくんたちに助けられてるんだもの。学祭選考会、パンクファッションで応援するわ。当時のパンクファッション勉強しなくっちゃ。それまでにも何か手伝うことがあったら言ってね」
美波のその言葉に、いきなり俺は幸福感に包まれた。そしてなにより心強い。美波たちが応援してくれる。怖いもの無しじゃねーか。俺は美波に抱きついてちゅーしたいくらい嬉しかった。だから、俺は、サンキュー美波。君は俺の女神さ。と言って美波を抱きしめ、おでこにキスを妄想の中でした。
選考会までの一週間、なんと、美波たちはインターナショナル棟で、掲示板に手作りのポスター張ったり、ビラを配ったりして応援をしてくれているらしい。ありがたき幸せだ。
候補の中でもアイドル系グループたちは選挙運動のように休み時間に各クラスルームをまわり、「私達の応援よろしくねー!!」と、舌足らずの甘い声で愛想を振りまいていく。いわゆる、ロビー活動が繰り広げられている。今日も派手目な女子アイドル系グループがロビー活動をしに俺たちのクラスにやって来た。先頭をきって歩いてくる女子は黒髪のロングヘアで一際目立っている。あたりがざわつく。
「キャーッ、カオルコよー」「カオルコちゃーん握手してーっ」「桜田薫子ってやっぱかわいいー!」
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます