第18話 対決!! 花園恭太郎①

「こちら元テニス部の花園恭太郎はなぞのきょうたろうくん、こちらの皆さんは新しいテニス部員の、北村くん、道端くん、神田くんに、荻窪くんだ」

 ミスター五条寺は俺たちを紹介した。

「あ、どーも」


「こんにちは、みなさん」

 花園恭太郎は俺たちを上から下まで見て、ちょっと小バカにした感じで、ふっと鼻で笑った。


――――なんだこいつ。元テニス部だって?イケメンで育ちも良さそうだけれどなんか高飛車なやつだなあ。


「君がテニス部を辞めちゃったから次々に他の男子部員も辞めちゃったよ。でも、ほら、この子達、新しい部員が入ってくれた。これでなんとか大会に出ることができるよ」


「その節はすみませんでした。英国留学をひかえており、勉学の方に集中したいと思いまして。でも、新しい部員が入ってくれて元テニス部の僕も嬉しいです。今日は仮装パーティーですか?楽しそうですね。では、子供たちが待っているので失礼します」


 ――なんだよ。仮装パーティーって。このテニスウエアとヘッドバンドのことか? 


 花園恭太郎は螢川学園インターナショナルクラスの二年生で、彼は美波と同じく、プロテニスからのスカウトが来たけれど他に目指すものがあると、そのオファーを断ったらしい。けれども学業の間に時々ボランテイアでちびっこにテニスを教えに来ているらしく、ミスター五条寺曰く「まだ若いのにとても紳士的だ」と、べた褒めしていた。大学生かと思うくらい大人びて見えたが、俺たちより一年だけ上だった。


「それでは、私は仕事にもどるよ。ゆっくりしていきなさい。今日は君たちに会えて良かったよ。あっ、帰りはまた岩田を呼んでおくからね。テニスコートは一般に開放している日はいつでも使っていいよ。そうじゃない日でも美波と一緒に来れば大丈夫だから」

 と言ってミスター五条寺はこの場を去った。




「あっ、恭ちゃんっ」

 美波は花園恭太郎を見つけると練習を止めて一番奥のちびっこテニスをしているコートへと走っていった。


 ――きょ、恭ちゃんだとお?二人はどーゆー関係なんだ。


 俺は洋子にウエスタングリップとかオープンスタンスを教えてもらっているにもかかわらず、全く頭に入ってこない。美波とあいつが楽しそうに二人で子供たちにテニスを教えている様子が気になってしかたがない。なにを話しているんだ。遠くて会話が聞こえない。何がそんなに楽しいんだ。だいたい美波は俺たちと一緒に練習するんじゃないのかよ。あいつはちびっこの手を取ってフォームを教えている。すると、なんと、あいつが、恭太郎のヤローが美波の後ろに回って、後ろから美波の腕をとってサーヴのフォームを教え始めた。


 ――なーーーーーーっ!!


 それは、お、俺の、俺の、俺の、俺の、俺だけの妄想中のアイデア!!お前が美波にするんじゃなく、美波が俺にすることになっているんだよー。クッソー。あのヤロー俺のアイデア盗みやがって。近いっ。離れろっ。二人近すぎっ!!


 テニスボールが俺の後ろ頭に当たった。「イデっ」振り向くと洋子が腕を組んで仁王立ちしていた。

「ちょっと、北村くん、あなたやる気あるの?ほら、オープンスタンスで打ってっ。グリップはウエスタン。思いっきりスウィング、ほら、打って、打つ、次、次、バックハンド!!」

 黄色い雨のようにボールが俺めがけて飛んだ。


 ちびっこテニスが終わって、恭太郎と美波が俺たちの練習コートへやって来た。


「せっかくだからちょっとテニスをしていこうかな。美波、相手してやるよ。君の新しいパートナーは誰?君たちがどのくらいの程度なのか、練習も兼ねて勝負っていうのはどう?」

「うーん、まだペアとか決めてないのだけど...。道端くん、いまのところあなたが即戦力だわ、私とペアをくんで、恭ちゃんと勝負しましょう」

 ミッチーに白羽の矢がたったが、

「ええー、俺、無理、無理やって。食べ過ぎで腹痛い。これ以上動いたらコートに吐くかも」

 と青い顔をしてテニスコートの縁に四つん這いになっている。本当に今にも吐きそうだ。

 ――こいつサイテー。

「大丈夫?食べ過ぎよ。コートの上で吐かないでね」と眼鏡の優ちゃんがまた救急隊員のようにキビキビとなって、ミッチーを介抱している。


「んもっ、仕方がないわ。じゃ、ヒロくん、私とペア組んで」


「ふぇ、俺? 無理無理無理無理無理無理」

 ルールもよくわかってないのに、いきなりすぎるだろう。それに醜態をさらすだけだ。


「怖じ気づいたかな。つんつん頭の見かけ倒し君。まっ、よくいるダメなタイプだよね」

 恭太郎がふんと鼻で笑った。


 なっ――!なんだ、この挑発的な態度。何が紳士的だよ。こいつ、絶対性格悪い。


「べ、別に怖じ気づいてなんかいないよ」


「そう? じゃ、OKってことだね」


「ふぁあ?」

「ヒロさん頑張ってください」

「今までの練習の成果を見せるチャンスっすよ。ヒロちゃん」

「ヒロ、イメージトレーニングや。お前はボルグや」

 ……こ、こいつら、俺を血祭りに上げる気だな。つか、ボルグ知らねーし。イメージできん。



「シングルVS ダブルスでやるよ。僕はシングルコートで君たちはダブルスコートで。君は最近始めた初心者らしいから、この上なく甘いルールにしてあげるよ。ツーゲームスマッチ。僕のサービスゲームと君たちのサービスゲーム。そのうち一ポイントでも君たちが取ったらこの試合は君たちの勝ち。こんだけ甘くしてあげているんだから、勝ってね。えーと、君、誰だっけ?」


「北村ですけど」


「レデイ? 北村君、ラフ オア スムース?」


「はあ?」

 ヤッベ......。意味が全然わかんねー。何が始まるんだ。でもって、それ何語??

 恭太郎がもう一度俺に聞く。

「ラフ オア スムース?」


 すると美波が

「ラフ プリーズ」と言った。


 なんだ? ラフオアスムースって何?! なんでみんな英語なんだよー。ツーゲームスマッチって何?いきなり勝負って、ド初心者の俺にどうしろって言うんだ。もう、もう、どうにでもなれだーーーーっ!!




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