お嬢様誘拐案内
あずえむ
お嬢様誘拐案内
「ワタクシをこの街から連れ出しなさい。そうすればあなたの事を見逃して差し上げます」
「なんだって!?」
今夜はこの街一番の大富豪ルドロンの屋敷で、盛大な舞踏会が催されている。
俺のような底辺を生きるケチな盗賊には関係ない話だが、舞踏会の喧騒に紛れこめればルドロンの噂に名高いお宝部屋に忍び込めるだろう。
そう考えた俺は灯りのついていない部屋を選んで窓から忍び込んだのだが、まさかそこでこのお屋敷のお嬢様が家出を画策していたとはな……
「盗賊、あなたのお名前は?」
「……ネズミだ」
小柄で、いつも相手を上目使いでねめつけるのと、大きくせり出した2本の前歯のせいで、俺の顔はどうにも鼠を連想させてしまうらしい。
だから誰も俺を名前で呼ぼうとはしない。
「見た目で通称をつけるなんて、低劣な盗賊らしいですわね」
まったくだ。
俺も皮肉で返そうと口を開きかけたが、その時突然ドアが開き見回りの兵とバッタリ眼が合ってしまった。
ヤバイ!
慌てて窓から飛び出す俺に続いてお嬢様までが外に飛び出してくる。
驚く俺に向かって「言ったでしょう!この街からワタクシを連れ出しなさい、と」と唾を飛ばす。
しかし屋敷の庭で俺たちは、ついにルドロンと警備の兵たちに取り囲まれてしまった。
「盗賊風情が。さてはワシの大事なお宝コレクションを狙って入り込みおったな!」
おいおい娘は無視か?
すると、スッとお嬢様が俺に身を寄せて、こう言えと耳打ちをした。
「い、いいのか、ルドロン?……今頃俺の仲間がお前の一番大事なお宝『女神の宝珠』を手にしている頃だぜ!」
「な、なに!あの宝石はワシのモノだぞ。ええい兵たちよ、宝石を取り戻すのだ!!」
慌てて屋敷へ引き返すルドロンと兵たち。
あきれたものだ。残った兵は5人もいない。
これなら余裕で逃げられる。
俺は兵に向けて自信たっぷりに呪文を唱える。
「集え、炎の聖霊よ、我が声に応えしウンチャラカンチャラほんじゃらら~……」
「こ、こいつ、魔道士か!」
「ひィ!!」
俺の紡ぎだす呪文の詠唱におののく兵たち。
「地獄の業火で焼き尽くされるがいい!!ウルトラファイナルファイアーバラード!!!!」
「うわあああああああああ」
「に、逃げろー!」
俺はサッと懐から数個の玉を取出し地面に向かって投げつける。途端に辺り一面に煙幕が張り巡らされる。
「わっはっは。魔法なんかつかえねーよバーカ、だまされやがって」
だが金で雇われてるだけの兵どもは俺のあざけりを聞くこともなく、とっととみな逃げ出した後だった。
さあ今のうちだ。ハッタリがばれる前にこちらも退散しよう。
俺は懸命についてくるお嬢様の手を取り、共にこの街を脱出しのだった。
しかしこの先どうする気だ?
「おほほ、異国でバニーガールになるのも悪くないですわね。ワタクシ興味がありますのよ」
なんだって?
「そこで素敵な殿方を見初めてみるのも一興。その時にはあなたにもパフパフとやらをして差し上げてもよくってよ」
そう言いながら俺に巨大な宝石を手渡す。
「報酬ですわ」
「これはまさか、『女神の宝珠』!なんでここに……」
「あら、あなたおっしゃったでしょう?今頃俺の仲間が『女神の宝珠』を手にしていると。さあ、参りますわよ!お駄賃を弾んだのだから、ついでにワタクシを異国まで案内なさい」
優雅な足取りで歩き出す高慢ちきなお嬢様に、いつの間にか惹かれている自分に気づく。
そういえばこのお嬢様、一度も俺をネズミと呼ばなかったな。
まあ、どうせあの街へは戻れない。
ならしばらくはこの世間知らずの面倒でも見てやるとしようか。
お嬢様誘拐案内 あずえむ @azuemu
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