7月 ③
終礼が終わると同時に僕とハルは教室を飛び出し、転げ落ちるように階段を下り、靴に履き替えて校舎を出た。
この間1分もかかっていないのに、駐輪場を見ると響が自転車に飛び乗るところだった、
こちらに気づく様子がないので、ハルが声を大にして呼びかけた。
「おーい響、どこの駅に集合か分かってるよね」
「当たり前だろ、お前ら昼飯食うんじゃないぞ。時間がもったいないからな」
響は怒鳴るようにそう言うと、競輪選手顔負けのフォームで漕ぎ出して行った。
待ち合わせの駅に着いたときには、時刻は1時30分を少し過ぎたくらいだった。
響とハルの様子が見えないので、2人にメールをしてみると、ハルは一つ手前の駅に停車中の電車の中で、響は家を出たばかりだと返信がきた。
どう考えても、響は昼食を済ましている…。
響の謝罪が済んだところで、僕らはそこから歩いて数分のバイク屋へと向かった。
その店はハルの兄が調べたもので、この辺りのバイク屋の中で一番良心的で、種類も豊富だという。
大通りと大通りの間の路地にその店はあった、入り口は狭いが中は広く、シックな色のものからカラフルなものまで様々な原付バイクがマス目状に並べられていた。
真っ白な頭の店主が各種類の特徴を丁寧に教えてくれて、僕は燃費の良い黒色のもの、ハルは最新型のグレーのものに決めた。
響は僕らより三倍ほどの時間をかけて、グリップが広がっている真っ赤なものにした。
「こうゆうときって、性格が出るんよ」と店主は笑った。
手続きを済ませて、それらの原付バイクは晴れて僕らのものになった。
帰りは試運転のついでに隣町へ行こうと決めていたので、僕らはすぐにまたがってエンジンをかけた。
振動が全身に伝わってくるのを感じて、少し緊張したので、深く呼吸をして肺の空気を入れ替えた。
後ろ姿しか見えないが、他の2人も僕と同じで緊張しているように感じられた。
先頭の響がこちらに振り返り笑みを浮かべると同時にグリップをひねった、それにつられるように、ハルと僕も右手首を動かした。
最初は前進させるだけでもおぼつかなかったが、徐々に教習所での練習を思い出して運転にも慣れてきた。
ハルは相当肩に力が入っている様子で、後ろから首が見えなくなっていた。
響は色々試しているらしく、左右の指示器が不規則に光ったり、ハルとの車間距離が急に離れたり縮んだりしている。
そういった響の行為が、さらにハルのストレスになっているようだった。
そして、僕は原付バイクの運転で何より気持ち良かったのは、その涼しさだ。
時速30キロを生身で運転しているのだから当然なのだが、前方から後方へと吹き抜けていく風の心地良さは今までに体感したことがなかった。
原付バイクの運転による緊張に混じった一種の興奮と、「計画」に必要なものは夏休みを残して全て出揃ったという事実は、僕の気持ちを幾分か高揚させた。
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