6月 ②

教習所から最寄りの駅に着いた頃には、夕方の4時を過ぎていた。

原付バイクの免許は、安価ですぐに取得できるが、こんなにも疲労感におそわれるとは思わなかった。

その原因は、今朝の起床時間が5時だということもあるが、響にもあるだろう。

なぜなら、今日の響は半年に一度あるかないかのハイテンションだったからだ。

まだ日も出ていない早朝から、ついさっき駅で別れた時まで、僕とハルが、一種の興奮状態なんじゃないか、と心配するくらいには丸一日中陽気だったのだ。

そこが響の良いところでもあり悪いところでもあるのだが……。

しかし、今日の響はそれだけではなかった。

それは映画の話だ。

今日、この1日だけで響は僕とハルに、8月に公開されるヒーロー映画のリブート版、第2作目の素晴らしさ、自分がどれだけ待ち遠しく思っているかを、実に十数回は語りに語ったのだ。

それは、全くその映画に興味のなかった僕が、少しだけ映画館に足を運ぶことを検討するくらいだった。

帰宅したら、とりあえず眠ることにしよう。


商店街を自転車で抜け、市民体育館の横を通ると、隣接する公園で小学3、4年生ほどの児童が、僕にはよく分からない遊びで歓声を上げていた。

少し自転車の速度を緩めて、その子たちを見ていた。

僕も、小学生の頃によくこの公園で遊んだものだ、ふいに懐かしさがした。

けれども、お気に入りだった遊具が跡形も無く消えているのは、僕を少しさみしい気持ちにさせた。

もし、僕があの少年たちの群れの中に、500円玉を投げ入れたなら、僕はキリストであの子たちはそれを慕う信者のような関係になるかもしれない……。

と思ったが最後には裏切られるのでそれはやめておいた。

僕は、お風呂とベッドと夕飯と家族の待つ家へとペダルを漕いだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る