6月 ①

ブーブー。

ポケットの中で携帯電話がメールの着信を知らせる、僕はこの音と振動がけっこう好きだ。

今すぐにでもメールの内容を確認してもよかったが、今は保健体育の授業で、体育教師が力強い字を黒板に移している。

6月の席替えで僕の席は中央寄りの列の前か ら2番目になってしまった。

このポジションで携帯電話を取り出すのは、リスクが高すぎた。それに、教卓に立っているのは、強面でがっちりとした四十路の先生だ、もしバレたならイスごと投げられるだろう


チャイムの音が四時間目の授業の終わりを知らせ、メールを確認する。響からだった。

内容は月に数回あるいつものことだ。

端の列の最後尾の席からハルが昼食を持って僕の席にきた。

「保健体育って眠くなっちゃうよ」

「保健体育に限らないけどね。あと、響はアキノちゃんと食べるって」

「そうかー。アキノちゃんはあの『老け顔』の何が好きなのかな」

「大人っぽく見えるんだよ、多分」

もちろん皮肉だ。

そうして僕とハルは昼食をとるために食堂へ向かった。


僕は、最後まで取って置いたタンドリーチキンを口に放り込み、食後のデザート代わりにハルにジュースをご馳走した。

昨日のアルバイト後に、ハルがアイスクリーム台を出してくれた御返しとしてだ。

もといた席に座ると、食堂と隣接しているグラウンドの方面の入り口から複数人の男子生徒が和気藹々と会話をしながら食堂に入ってきた。

その中の1人、佐々倉が僕とハルに気がつくと人懐っこい笑顔で歩み寄ってきた。

他の数人の男子生徒は、佐々倉が輪を抜けたことに怒っている訳でも気に留めている訳でもない様子だった。

「おう、なんか久ぶりだな。さっき7組で響がアキノちゃんとお昼食べてるの見たよ」

「昨日の放課後話したばかりじゃないか」

「俺からしたら遠い過去なんだよなー」

「一週間会わなかったら忘れられそうだね、俺たち」

「だから、こうやって俺から会いに来てやってるんだろ」

「それはそれは、ありがたいことで」

佐々倉はふいに思い出したような表情をした、

「そういえばお前ら、『計画』の方はどうなんだ。少しは進んだのか」

「まだ何にも。元の貯金が間に合ってないんだ、免許を取りにいくことはできるんだけど……」

「なんだよ元、足引っ張ってるんじゃないか。この調子で、むこうの不良にでも絡まれてくれたら、俺は満足だぞ」

「うるさいな」

僕たちと話している間でも、佐々倉は笑顔を絶やさない。たまにふと真剣な表情になったと思うと、また笑み。

多分、小さなころからそういうやつだったのだろう。

その上、口が達者でおしゃべりなこともあってか、佐々倉はこの学校で最も友人が多い生徒と言っても過言ではないだろう。

僕も僕で、佐々倉のことをけっこう気に入っている。

からかってくることが多いが、いい奴だし秘密も守る。僕と響とハルの仲に入ってきて、4人で何かをすることもしばしばあるくらいだ。

そして、僕たち3人が唯一、部外者に「計画」のことを話したのも佐々倉1人だ。

数分間ほど僕とハルと話をして、佐々倉はふらーっとどこかへ行ってしまった。

僕らは3組の教室へと帰ることにした。

「次の授業何だったっけ」

「男子高校生が大好きな保健体育だよ」

「それ、さっきやったばかりじゃないか」

「あ、ほんとだ」


下駄箱にたどり着く少し手前で、響が何かを言った。しかし、サッカー部の群れが横切ったことで、なんと言ったか聞き取ることができなかった。

「響、もう一回」

「第1段階に入る。って言ったんだ、ハル、元」

響は、半分真剣半分吹き出しそうという表情をしながらそう言った。

「つまり、免許を取りに行くってことだよね」

「そういうことだ。元、さすがにその額は貯金できているよな」

「もちろんだとも…」

僕は敬礼のポーズをとって返事をした。らしくないことをしたが、響とハルが嬉しそうなので良しとしよう。

「実行は今週の土曜日、アルバイトを入れてしまった者は、代わりを探すんだ」

「そんな急な……」

ハルが気力のない声を出した。










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