一寸法師と鬼

あらすじ

*本編とは全く関係ありません

 スルーしたければ、どうぞ。

待ちにまって生まれた子供はほんの一寸ほどの小さな小さな息子でした。

夫婦はその子へ一寸法師と名前をつけてとても大切にその子を育てました。

やがて

「私は街へいって立派な青年になりたいです。」

と一寸法師は宣言しました。

針の刀を腰に差し、お椀の船にのって、街のある河口へ下りました。

どんぶらこー

どんぶらこー

、はまた別のおはなしの効果音でしたかね?

街へついた一寸法師は大名様の大きな門扉を叩きます。

「たのもう。私をここで奉仕させてください。」

小さな来客に驚いた大名様でしたが、お嬢様が一寸法師をとても気に入ったのでひきとることにしたのです。

それからすっかり仲良しになったお嬢様と一寸法師はときどき外へお散歩へ出かけたり、いっしょにご飯をたべたりとどんな時も一緒にいました。

そんなある日のことです。

散歩へ出かけた先で鬼と出会いました。

一寸法師はお嬢様を守るため懸命に戦いましたが、なにせその小ささですからペロリと丸のみにされてしまいました。

しかし、一寸法師はあきらめません。鬼のお腹の中からチクリチクリと針を突き刺し、たまらなくなった鬼は一寸法師を吐き出しました。

そして、もうこりごりだと一目散に逃げかえっていったのです。

「おや、これは?」

あわてて逃げた鬼の懐から転がり落ちたのは何でも叶う打ち出の小槌でした。

お嬢様は一寸法師へ願いをこめながら

「おおきくなあれ おおきくなあれ」

小槌を振れば、一寸法師の背はぐんぐん伸びて立派な青年となりました。

お嬢様はいつまでも一寸法師と幸せにくらしましたとさ

めでたしめでたし


というのが本来のお話。


では、本編いってみよう。



「なに?失敗しただと?」

頭を垂れる私に、大名様は怒りをぶつける。

「てめーらほんとに、使えねえな。」

右も左も、上も下も、わからなくなるくらい、さんざん殴りけられた後で

「もういい。戻しておけ。」

重い鎖をつけられていつもの牢に戻された。

光のほとんど刺さない

暗くじめっとした牢の中で、僕らはずっと大名様に飼われてきた。

残飯が毎日少し投げ入れられるだけで、藁さえも敷かれない土の上で、

食べて寝て、食べて寝て

押し付けられる仕事といえば

井戸掘りだったり、糞の始末だったり

僕らは鬼という種族に生まれたというだけでどうしてこんな扱いを受けなければならないのだろう。

だけどそんな答えのでない疑問なんて考えるだけで悔しくなるから

ただ早く死ねればいいと思っている。



庭の端で言われた仕事をただもくもくとこなしていた時のことだ。

嬉しそうにうわずった、女の人の声が聞こえる。

こんな屋敷のはたでなんの用だろうか。

僕が顔をあげたときたまたまその女の人と目があってしまった。

僕はすぐに顔を伏せたけれど、その女の人はどんどんこちらへ近づいてくる。


「お願い、お父様には言わないで。」

なにを、だろうか。

細くしなやかな手指にちょこんと座っている、それはなんだろう。

大事そうに包まれているそれは、大切なものなのだろう。


毎日のように、彼女はやってきて

嬉しそうに話しこんでいる。

軽やかに笑う、陽だまりのような明るい声が庭に響く。

「お仕事の邪魔かしら?ごめんなさい。だけど家じゃお父様が見ているからあんまり話せなくて。」

彼女は時々、食べ切れなかったからと、かわいらしい包みに甘い菓子を入れてくれた。

あまりにも嬉しくて

空っぽのお腹は小さな菓子で満たされる。

僕はどうしていいのかわからなくて

ただ

「ありがとう」と

添えるだけがせいいっぱいだった。


ある日のことだ。

大名様からお呼びがかかり、仕事を申し付けられた。

「娘が変なものに取りつかれている。それを殺してこい。」

僕はすぐにいつも大切にしている、あれだろうとすぐに気が付いたけれど

はたして僕にできるだろうか。

あの人の大切を奪うことなどできるだろうか。


どんなことでもやってきた

汚いことも、つらいことも

それが命令だというだけで

僕を生かしてくれている大名様のいいつけだというだけで

残飯と寝床にありつくための奉仕はあまりにも高くないか

どうして、こんな

それは

僕が鬼だから

答えはこんなにも簡単で明白なんだ


道の両端に桜が咲きほこる花道を彼女は嬉しそうに歩いてきた

またなにか話しているんだろうな

手のひらに抱く小さな青年も同じように跳ねている

小川のほとりの岩に腰かけてお弁当を広げたまさにその時だ

僕は彼女の前に飛び出した。

「あら。」

彼女は僕がここにいることに目を丸くして驚いた

けれどそれだけ

怖がって逃げることもしなければ

気味悪がって殴ったりもしない


「お父様になにか、言われた?」

お嬢様は悲し気な瞳で僕を見上げた

「その方をこちらに。」

僕は傷と泥だらけの汚い手を差し出す

「いやよ、それだけは。私を殺したってかまわないから、それだけは絶対にしないわ。」

力ずくでも奪うべきなんだろうその手のなかのものを僕はどうしても奪えそうにない。

お嬢様が悲しむんだもの。


僕はあなたに何ができるのでしょう

こんな気持ちになったのは初めてです

あの大名様に逆らおうだなんて

どんなことがあってもできないと思っていたのに

こんなにも簡単にあきらめてしまえそうです


「お願いよ。わかってるわ私だって、こんなの変だって。だけど仕方ないじゃない。好きなんだもの。」

お嬢様が大粒の涙を流すのを僕は止めてあげたいのだけれど

そんな方法僕が知っているはずもなくて

僕は僕がもっている最後の希望を差し出した

「これはなんでも叶う打ち出の小槌です。あなたの願いを込めながら、これを振ればどんな願いも叶います。僕はあなたに幸せを託しますから、どうか幸せになってください。」

どうしても辛くなったときに耐え切れなくなったときに使おうと思っていたけれどもうやめた

僕は鬼に生まれたときから幸せになる権利などない

それならいっそ誰か大切な人のために

こんな僕でも、あなたを幸せにできるのだから

これ以上の喜びはないだろう


「ありがとう」


僕にそんな言葉をくれるの

僕に笑いかけてくれるの

僕に感謝してくれるの


どうして

僕は鬼なんだよ


「おおきくなあれ おおきくなあれ」

ぐんぐん背丈が伸びて立派になった青年を見てお嬢様は嬉しそうに笑う。



大名様にはこっぴどく怒られたけど

僕は彼女の笑顔が見られたからそれでかまわない

あとは

残飯が毎日少し投げ入れられるだけで、藁さえも敷かれない土の上で、

食べて寝て、食べて寝て

押し付けられる仕事といえば

井戸掘りだったり、糞の始末だったり

汚くて、辛いことばかり。

最近庭で話し込む様子も見られないし

あれからどうしているのだろう。

ずっと幸せでいてくれているだろうか。


夜も更けて、皆が寝静まった牢の扉がそっと開いた。

こんな時間に仕事だろうか

「お願いがあるの。」

暗闇の中でほとんど顔は見られなかったが、その声はしっかりとお嬢様だとわかった。

「なんでしょう?」

「彼の家柄を立派にしてくれる道具、ないの?」

打ち出の小槌はなんでも願いをかなえてくれる。だけどその人の家柄までは変えられない。

「それは・・・・。」

「ダメなのよ。川上の田舎出身じゃ。釣り合わないって結婚をゆるしてくれないの。」

僕にはどうすることもできなくて、かぶりを振った。

「そう、もういいわ。」

しょせん僕は鬼だから

こうしてあなたがここにきて口をきいてくれるだけでも奇跡のような幸せに近い。

また会えたことが嬉しかったのに

また話をできたことが嬉しかったのに

どうしてこんなにも涙がでるの

心が苦しいの、虚しいの

希みをもつなど僕には許されていないとわかっていて

はなからあきらめているはずなのに

かなわなければ悲しいだけだから

はじめから願わないと決めているだろう


もう会えないんだろうな

あなたの期待に応えられなかったから

僕がどんなに望んでももうあなたが僕に話しかけてくれることはないんだろう

夢をいつまでも抱いていたって空寒いだけか

使い物にならない

捨てたっていい

でもそれならいっそ殺してくれないか

なにも感じるはずのない心が

えぐれて痛いんだ辛いんだ


僕は鬼なのだから

らしくあれ



僕はただここであなたの幸せを祈っています

それしかできないので

僕のすべてをあなたに託しましたから

きっと幸せになってくださいね


生まれ変わって僕が人間だったら

その姿がたとえ一寸だろうとあなたを

必ず幸せにしてみせます


それまでもうすこしこの世界で

鬼は鬼らしく

運命を受け入れていきましょう

それがたとえ辛いだけの世であったとしても



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る