舌切り雀のおおきなつづら

↓まずは、あらすじ。どうぞ(知ってる人はスルーして)


むかーしむかし、ある村におじいさんとおばあさんがおりました。

おじいさんは山へ芝刈りへ

おばあさんは川へ洗濯へ

いえいえ、この家のおばあさんは洗濯へは行きません

おじいさんにばかりはたらかせ、自分は楽をすることばかり考えていました。

ある日のことです。おじいさんがけがをしたスズメを連れて帰ってきました。

「スズメなんかに米を食べさせて!」

おばあさんは怒りました。

気の優しいおじいさんがおばあさんをなんとかなだめて、その場をやり過ごしましたが

数日たったある日

おじいさんが仕事へ行っている間にスズメが洗濯用ののりを食べているところをおばあさんが見つけました。

「なんてことだい。こんな舌切ってしまえ!」

おばあさんに舌を切り取られたスズメは泣く泣く山へ帰っていきました。

仕事から帰ってきたおじいさんがその話をきいてがっかり。

大切にしていたスズメを心配して山の中に探しに行きました。

聞き覚えのある鳴き声をたよりに山の奥へ奥へと進んでいくとスズメのお宿がありました。

スズメたちはおじいさんを歓迎し、歌を歌ったり踊りを踊ったりとたいへんもてなしてくれました。

「スズメたちや、ありがとう。とても楽しかったけれど、そろそろ帰るよ。」

「そうですか。では、心ばかりの品ですがどうぞお好きなほうをどうぞ。」

おじいさんの前に用意されたのはおおきなつづらとちいさなつづらでした。

「わたしはおじいさんだから、こっちのちいさいほうにするよ。」

おじいさんが持ちかえったつづには宝がたくさん詰まっており、それを見ておばあさんは

「どうしてちいさいほうにしたんだ。おおきなほうにすればもっとたくさんの宝が手に入ったというのに。」

そういっておばあさんはすぐにスズメのお宿へかけだしました。


↓ここから本編


一番上の綺麗な姉さんはいい着物を着た色男にもらわれていった。

二番目の器用な姉さんは町の富豪にもらわれていった。

三番目の私は容姿だってよくはないし、家事をやったって失敗ばかり

だからこんな村はずれのボロい家にしか嫁げなかったんだ。

「優しくって穏便な人がお前にはいいだろう」と母は言って、ただ食いぶちを減らしたかっただけでないのか。

おかげで働けど働けど、ちっとも暮らしは楽にならないし

ちょっとの稼ぎさえ仰々しい役人どもに搾り取られていくだけの始末さ

毎日毎日汗水たらして働いて、やつらの肥やしになるだけだなんてばからしいじゃないか

きっかけになるなにかがなけりゃ、この世はそうひっくり返ったりしないもんなのさ


「ばあさんや、みておくれ。すずめのお宿でこんなものをもらってきてね。」

金色に光る宝物の数といえばそれはもう目もくらむよう

「僕らの暮らしにはちいさなほうでも有り余るほどだね。」

ちいさなほう?

ちいさなほうだって?

「おおきなほうもあったのかい。どうしておおきなほうにしなかった。」

「そんなこと言ったって、もう私の歳では背負いきれないよ。」

「よしわかった。わたしが背負ってきてやろう。」

痛めていた四肢は急に期待で流々として動き、跳ねるような気持ちでスズメのお宿へ向かった。

「さて、どこかね、おおきなつづらは。たくさん宝の入ったおおきなつづらは。

「まあそう焦らずに、お茶でもいかがですか。歌や踊りも披露しますよ。」

「そんなものはいらないよ。宝だけくれれば私はそれでいいんだ。早く持っておいで。」

すずめはしぶるような表情で

「こちらにおおきなつづらとちいさなつづらがあります。どちらかお好きなほうをどうぞ。」

これだよこれだ。背負いきれないほど大きなつづらの中に一体どれだけの宝がつまっているかと考えるだけでわくわくするね。

「決まってるじゃないか。おおきいほうだよ。」

「お約束があります。家にかえるまで絶対に開けないでください。」

「なんだいそりゃ、わかったよ、わかったから、はやくおくれ。」

肩に食い込む紐に歯を食いしばりながら山道を抜けて、休憩ついでに腰を下ろしたその場でちらり

どうしても我慢できなくなってしまってつづらのなかをのぞき見た。

「おぉ、おぉ、金貨や装具がざっくざっくと、どうりで重たいはずだよ、こりゃ。」

さあもうひと頑張り。

息も絶え絶えになりながらようやくうちまでたどり着き

「じいさん、見とくれよ。」

これでようやくつつましい生活から解放されるのだと

幸せを噛みしめながらかんざしを手に取った。

手の中で輝きを放つのは透き通るべっ甲色にガラス玉のついた美しいかんざし。

いまさらこんなものをつけてどこかに行こうなんてね、もう遅いよ。

けれど、一度でいいから高価な贈り物をくれるような人と都会の町を一緒にあるいてみたかったなぁ。

もちろんこれに見合ったものを着て、顔を白く塗って紅で唇を染めて

「さしてやろうか。」

かんざしをうっとり眺める姿をみたじいさんがほほ笑んで声をかけてくれた。

「い、いいよ。そんな年じゃないさ。それに私にはこんなもの、似合いやしないのさ。」

急に柄でもないことを言い出すから照れくさくなって下を向いていた。

そのとき、

背後から何人かの足音が聞こえこちらへ近づいてくる。

足音は私たちの家の前で止まった

「ここです。急に羽振りがよくなってるのは。きっとどっかで盗人してきたにきまってるんです。お役人さん調べてみてくだせえ。」

違う。これはすずめのお宿でもらったものです。盗んだものではありませんと言って誰が信じてくれるのだろう。

「か、隠すよ、じいさん。」

「隠すっていったいどこにだよ。私たちの家にはそんなところはないよ。」

そんなこと言ったって、どうにかしなくっちゃ。

「私にまかせておくれ。」

じいさんは役人の目の前まで進み出て深く頭を下げる

「ようこそおいでくださいました。」

「おい、お前ら、これはどこから盗んできたのだ。言え、言わぬというなら署に引っ立てて、刑に処するぞ。」

役人は右手を刀の鞘にかけ、頭をたれるじいさんを今にもばっさりと言ってしまい様な勢いでにらみつけていた。

「違います。これはわたしが。」

わたしが盗んできたものです。

裕福な生活がとてもとてもうらやましくて。

金さえあればとつい出来心が働いてしまいました。

じかしいつも静かなじいさんが、訴えかけた私の言葉をさえぎった

「何をおっしゃいますやらお役人様。あなた様がこの家にお預けになられたのではないですか。忘れてしましましたか?」

「そなたなにを。」

役人の額に青筋が立つのをみて、思わず最悪の光景が頭によぎった。

「盗んだというのであれば盗まれたという人を連れてきてください。いらっしゃらないでしょう。みんなお役人様のお荷物ですよ。さあ、早く持って帰ってくださいませ。」

役人はしばらく考えたのち

「ああ、そうであったな。ではさっそくいただいていくとしよう。」

宝をそっくりつづらに詰めると背中に背負って行ってしまった。

「ごめんね、こんな方法しか思い浮かばなかった。貧しい思いをさせているのはわかっているんだけど、私には真面目に働くことしかできなくて。ほんとうにすまないと思っているんだよ。」

私がどんなに働かなくとも、私がどんなに罵倒しようとも、

言い返してこなかったのはそういうことかい。

「これしか、残らなかったけど。」

薄っぺらい着物の袖から出したのはさっき私が目をひかれていたかんざしだ。

「うん、よく似合ってる。」


これっぽっちか、あんなに苦労して持って帰ってきたのにさ

あんたのせいでみんなパーだよ

私の人生思い返せば

春の日も田んぼの泥にまみれて

夏の日も熱い日差しの下で穴の開いた帽子をかぶり

秋の日もあくせく腰をまげて稲を刈る

冬の日は隙間風の当たる部屋の中で薄い着物で耐えてきた

なにひとついいことなんてないじゃないか

搾り取った金で刀を買って振り回している奴も

すぐそばにいるっていうのに

身の丈にあった幸せ?

その身の丈は誰が測った

私の幸せは、私の身の丈は、私が測るんだよ

こんなの嫌だって

こんなの不平等だって

私は言ってやるぞ

かんざし一本で満足できるわけがないだろ

わたしがもとめているのはもっともっと大きなつづらだ

大きなつづらをやっと手に入れたというのに

また理不尽に奪われていく

あいつと私、何が違う。

着ているものが違う、持っているものが違う、住んでいるところが違う

どんな方法ででも手に入れて全部やり直してみたかった

つづらさえ手に入ればそれが叶うと思ったから



希望ははかなくもろく遠のいていく

遠くて、重くて、大きいな、夢のつづらは


むかーし、むかし、ある村に

おじいさんとおばあさんがおりました

おじいさんは山へ芝刈りへ

おばあさんは川へ洗濯へ


行ってやるか、今日は。

わたしなんかに不釣り合いなかんざしが

似合っていると言ってくれたのが嬉しかったから。







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