第11話.罪

「どうしてこんなことになったの?」

 保健室のベッドで横になっている俺に、新奈はゆっくりと切り出した。

「大丈夫って言ったよね?」

「…ごめん」

 頭がガンガンする。身体を起こそうとするが力が入らない。

「なのにまた、あんな思いをするなんて」 

 語尾はもう震えるようで、目を背けるしかなかった。

「ごめん…やっぱり、無理だった」

 今日は走れるような気がした。大会うんぬんよりも、今日の選考会に出れば変われる気がしたのに…とんでもない。

 走り出す前に身体が震え、呼吸が苦しくなった。

「当たり前だよな。俺なんかが走って良いわけない」

「そんなこと…」

「いいんだよ。これが俺の…罰だから」

 法律では裁かれないからこそ、ずっと背負っていかなくてはならない罪。

「佑李」

「ごめん新奈。ちょっと、ひとりにしてくれないか?」

「…わかった」

 新奈は他にも何か言いたそうだったけれど、

 言う通りにしてくれた。

 目を閉じれば、鮮明に浮かぶあの事故の夜のこと。

 悠生はおそらく転んだ俺を避けようとして転倒した。そして俺の陸上生命に、将来に傷を付けまいと逃がした。

 そんな悠生に甘え自分の保身に走った俺は、走れなくなった。

 ケガをしているわけでも痛いわけでもないけれど、真剣に走ろうとすると、あの夜の光景を思い出して震えが止まらなくなる。体が言うことを聞かない。自業自得だ。

 別に走ることができなくなっても大した問題じゃなかった。悠生が大会にいない今、俺が出場して優勝しても何の意味もないから。

 わかっていたのに…

「何やってんだ、俺は」



 保健室の外から声がする。新奈ともうひとりはおそらく…

 しばらくして、また新奈が戻ってきた。

「誰かいたのか?」

「え?う、うん」

「天、か」

「うん……いいのよね?帰しちゃって」

「助かる。もうあいつと会いたくないから」

「どうして?天ちゃんのお兄さんのこと?」

「それだけじゃない。あいつといると自分がマトモな人間のような…許されるような気がして」

 彼女にすがりたくなる…助けを求めたくなる。

 罪を忘れてしまいそうになるから。

「佑李」

「もう、関わりたくないんだ」

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