第10話.記憶
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倒れたバイクをようやく起こすと、その脇をもうスピードで数台の小型・中型バイクが走り去り、闇に消えていく。
さっきから降りだした雨で既に全身濡れていたから、仲間のバイクが通りすぎる度に水しぶきが跳ねてくるのも気にならなかった。
駅前通りを一本入った直線が続く道は人通りも少なく、信号がないのでやんちゃな遊びをするには最適な場所。
雨のせいでスリップし、緩いカーブを曲がりきれずに転倒したが、どうやら体は無傷らしくどこも痛くない。
「あいつら薄情だなー」
仲間の姿は既に見えない。仲間と言っても数日前からつるんでいるだけの悪い仲間。情などないからあたりまえか。
「佑李無事かー?」
声に驚き見て回すと、少し離れた交差点付近に倒れたバイクと人影があった。
「悠生か?何してんだお前」
「いやー転んだ佑李を見て笑ってたら俺も転けちまったわー」
声が聞こえるだけで立ち上がる気配がない。
「悠生、大丈夫か?」
「あぁ」
その時、かすかに雨音に混じってパトカーのサイレンが聞こえた。
「また誰か通報しやがった」
「当然だろー暴走行為だしなぁ。危険だし」
「悠生、早く逃げようぜ」
「だな。俺は大丈夫だから、さっさとあいつらのとこ行けよ。後で追うから」
「でも…」
メットを外し様子を見ようと近づくと、倒れたままの悠生。暗い街灯が離れたところにあるだけだし、時間が時間だけに人家の明かりもなくよく見えない。
けれど、明らかに右足がバイクの下にあり、あり得ない角度からつま先が見えている。
「悠生!」
慌ててバイクを起こそうとするが、急に襲ってきた不安と恐怖で手足が震え、うまくいかない。
「やめろよ!さっさと行けって」
「でも悠生…足が…」
「こんな時間にあいつらとつるんでるってバレた方が後々面倒だろ!俺1人ならどんな言いわけでもできるから」
「お前を置いて行けるかよ!」
「いいから!これ以上、絢斗や母ちゃんに心配かけんなよ!」
パトカーのサイレンが徐々に近づいてくる。急に激しくなった雨のせいで、その他には何も聞こえない。
冷たい雨は立ち尽くす俺に容赦なく打ち付けた。
「早く行け!」
そうして俺は、あの場から逃げ出した。
後々に悠生が右足を切断したことを知る。
新奈と悠生も別れ、俺も悠生とどう接したらいいか、どう償ったらいいかわからずに疎遠になった。
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