第3話.いつもの空
昔から空を見るのが好きだった。
特に初夏から真夏に見られる空の色が好きで、小学生の時の自由研究を数年続けてテーマにしたくらい。だから1年でこの時期が1番好きだ。
先生に怒られたときも、サッカーで負けたときも、1番でゴールテープを切ったときも…真っ先に見るのは空。
そういえば、親父が出ていったあの日も。
「おい、奏多ー俺たち帰るからなー」
「あー助かったわー」
サボりすぎてついに担任がキレた。説教の後、教室の居残り掃除をさせられることになった俺を、友達数人がずいぶん助けてくれてすぐに片付いた。
友達を見送り、ひとりになった俺はホウキを肩に担ぎベランダに出て空を眺める。
3年になり教室が1階になったせいで空が遠い。反対側の北校舎と中庭が邪魔で余計に狭く遠くに感じるようになってしまった。
やっぱり教室からだと癒しが足りない。屋上にでも行くかな、と考えていると、
「
突然ぬぅと教室の窓から顔を出した人に驚き、ホウキを落としそうになる。
「なんだ
「なんだとは失礼ね。もう部活終わるわよ」
「仕方ないだろ。居残り掃除してたんだから。あーあ、遊んでくれる子かと思ったのにな」
「あら、決まった人ができたと思ったのに」
「は?」
「陸上部の1年生」
「あー天か」
「佑李を探してたみたいよ、彼女」
「別にそんなんじゃねーし」
「そう?」
意味深ににこ、と笑う新奈。
彼女とは幼なじみで同じクラス。陸上部ではマネージャーをしているため一緒にいることが多かった。
「この前、見ちゃったのよね。天ちゃんがあなたを名前で呼んだ時のこと」
「新奈だって俺を名前で呼ぶだろ」
「うん。でも天ちゃんが呼んだらすごく怒ったでしょ」
「そうか?」
「強がっちゃって…昔から好きな子には絶対名前で呼ばせなかったもんね」
「忘れたよ、そんなこと」
ため息混じりに言って、ベランダの手すりに背中を預ける。
「俺のファン多いからな」
「佑李?自分がまわりにどんな風に言われてるか知ってる?」
昔からそういう役割。すぐに突っ走る親友がいて、それに負けずとついていく俺がいて。しっかり者の新奈が注意してくれて、気づかされる。
けれど、もう昔のように元に戻ることはできないから。
「そーいうお前はどうなんだよ。可愛いくせに彼氏もいないなんて。俺の元カノとか言われてるのも聞いたことあるな」
「へー知らなかったわ」
「まだ…
「もちろん。別れて随分たつけど、変わらずに大好きよ」
「そうか。可哀想にな、勝手に憎い奴の元カノにされて」
「佑李を憎んでなんかいないわ」
「強がんなよ。全部俺が悪いんだ…」
「やめてよ。そーいうこと言わないで」
「悠生や新奈のためなら何でもする」
「…それは、本当に?」
本心だった。俺が壊した幸せなのだから、できる限りのことをして償わないと。
「当たり前だろ。…寂しいなら、相手しようか?」
「そう?なら、慰めてくれる?」
けれど、いつも穏やかな新奈の鋭く睨み付けるような目を見た瞬間、妙な後ろめたさを感じた。
「好きでもない女と遊ぶのは慣れてるでしょう?」
す、と差し出された彼女の手を取ろうとゆっくり手を伸ばすと、触れる直前でバシ、と叩かれた。
「言った通りに私を抱けば佑李は満足?私の言いなりになれば気が晴れるの?」
「え?」
「だったら、そうすればいいわ」
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