第2話.出会い

 

 同じ夢を、何度も見る。 

 時には血まみれの何かに足を掴まれたり、追いかけられ逃げようとするが足が動かなかったり。今朝はその両方の夢にうなされた。夢の中くらい良い思いをしたっていいだろうに。

 俺には、大きな罪がふたつある。

 あの時…命を懸けてくれたあの人に誓ったはずなのに、どうしてまた同じ罪を犯してしまったのか。



 屋上から見下ろすグラウンドはちっぽけで、そこにいる人間もまた群がる蟻のよう。

 この中で俺ひとりいなくなっても世間は何も変わらない。明日からも変わらぬ日々が続いていくだろう。

 だったらどうして俺じゃなかったんだ?

 ここから飛んだら、楽になれるのか…

 陰気な物思いにふけっていたせいで、背後の気配に気づくのが遅れた。

 物音がして振り返ると、なんとなく見覚えのある可愛らしい女子が立っていた。

 「あれ?新入りだよな、陸上部の」

 繕った笑顔を見せると、彼女は驚いたように固まってしまう。

 「俺のこと、よく見てるよね?」

「は、はい。いや、ち、違います!」

 紺のブレザーに1 年生カラーの青ネクタイを上までしっかりと閉めている。

 耳にかけていた黒髪が、風に弄ばれなびく度に顔にかかり、小さくても弾力のありそうな唇にも何本か張り付く。

「好きなの?」

 邪魔そうに髪を気にしながらも、瞬時に頬を赤らめ懸命に否定しようともがく姿が小動物のようで可愛らしかった。

「名前は?」

「…天、です」

「てん?動物の?」

「違います!」

 ム、としたように言った彼女は、人差し指を上へ差す仕草をした。

「あー天か。いい名前だね」

「そうですか?」

「じゃぁ天、付き合おっか。俺たち」

「は?いや、その、」

 明らかに動揺している彼女の腕を掴むと、隙だらけの唇にキスをする。

「え」

「天、どうする?」

 だいたいの反応が、そのまますんなりと受け入れてくれるか、もしくは怒るのどちらか。

 しかし、

「どうして、泣いてるんですか?」

 すべてを見通しているかのように、まっすぐに俺の目を見て彼女は言った。

 必死ですべてを隠して生きてきたのに…

「…黙ってろ」

 ふざけるな、わかってたまるか。そんな気持ちで強く、強く彼女を抱き締めた。

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