20

 テストが終わって次の日の休み時間、オレは自然学習で撮られた写真を眺めていた。オレの他にも、数人の生徒が廊下に貼られた写真を眺め、欲しい写真の番号をメモしていた。


 写真を番号順にずっと追っていくと、オレたちのグループが映った写真がちらほらと見つかりだした。オレが映っている写真で映りがいいものを何枚かピックアップして、欲しい写真の番号をメモしていく。メモしていくうちに、オレはあることに気が付いた。



「オレとくそ女のツーショットが多くないか。」


 自分が映った写真を確認するのが普通だが、オレも同じだった。自分が映っている写真を確認していると、オレが映っている写真には、くそ女が多く映り込んでいた。さらには、オレとくそ女の二人きりで撮られた写真も数枚見つかった。これでは、オレたちがつき合っていると言われてもおかしくない。



「そ、そうだ。えにしの写真はどうだろう。」


 現実から目をそらしたくて、オレは、別府えにしが映っている写真を探すことにした。同じグループだったため、彼女が映っている写真は、オレが映っている写真のすぐ近くで見つかった。オレと一緒に映っている写真もあるが、オレとのツーショットの写真は一枚も見当たらない。彼女が映っている写真を探しているうちに、ある写真を見つけた。


「あれ、この写真って……。」


 オレはある一枚の写真にくぎ付けになった。




「ああ、この写真だけど、別府さんに頼まれたんだよ。僕が一緒に映るなんておこがましいかとは思ったんだけど、彼女からどうしてもと言われてね。結構きれいに映っているね。僕、この写真買おうかな。」


 別府えにしと一緒に写真に映っていた男子が、オレに声をかけてきた。


「えにしがお前に頼み込んだ……。」


「ええと、うん。なんかごめん。付き合っている人の前で、この話はダメだよね。今のなし。僕、この写真買わないよ。だからそんな怖い顔しないで。」


 オレの形相に恐れをなしたのか、オレと自然学習で同じグループだった男子は、慌てて違う写真を探し始めた。しかし、オレは彼にこの写真の真相を詳しく問い詰めることにした。



「いったい、どういうことか説明してもらおうか。」


「説明と言っても、そもそも、僕より、彼女に直接聞いた方がいいと思うよ。だって、君たちは付き合っているんでしょう。」


「いや、まずはお前から話を聞いて、それからえにしにはきいてみる。」


 男子は、最初は嫌そうにオレへの説明を拒否していたが、オレのしつこさに嫌気がさして、説明してくれることになった。




『中里君と福島さんを見て、この二人の間に割り込むことはやっぱりできないことがわかったわ。自然学習で再確認したの。中里君が私を好きになってくれる見込みがないと思ったの。こうたろう君は、私を見ているようで、実は福島さんのことばかり気にしている。見ていればわかるわ。これ以上は見ていられないし、私も限界。せめて、すっきりとあきらめられるように二人きりにしてあげたい。現実を突きつけられれば、自分の気持ちにあきらめがつく。』


 男子が別府えにしの言葉をオレに伝える。


「それから、こうも言っていたよ。」


『二人きりにしてあげるだけでは、私はただのいい人だよね。だから、せめてもの仕返しに、私が男子とツーショットで撮ろうかと思って。こうたろう君がどんな反応するのか楽しむ権利くらい、私にはあるでしょう。』



「そんなことをえにしは言っていたのか。」


「そうだよ。かわいそうだから、僕でいいなら、一緒に映ってあげるよって答えて、この写真を撮ることになった。僕のことを恨むのは違うと思うよ。」


「わかってるよ。」


「それならいいんだけど。」


 オレは、その後、とりあえず欲しい写真だけメモして、教室に戻った。いろいろ彼女に問い詰める必要があった。くそ女とのツーショットの写真は、オレが映っているからと、仕方なくメモすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る