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「では、自然学習のメンバーを決めていきたいと思います。」


 夏休み明けに「自然学習」という、二泊三日の体験学習がある。夏休み終わってすぐということで、一学期の内に自然学習で活動をともにするグループを決めることになった。


 自然学習では、海でいかだを作ったり、夜に星を見たり、肝試しをしたりする。オレたちが住んでいる場所は、海が近いということもあり、海の近くの宿泊場に泊まることになっていた。その時に一緒に行動するメンバーを今から決めていくというわけだ。


 ちなみに、今日決めたグループのメンバーと、自然学習ではともに行動することになるので、ここで嫌いなクラスメイトや能力が低いクラスメイトと一緒になると、楽しさが半減してしまう。非常に大事なグループのメンバー決めが行われようとしていた。




「皆さんが楽しく自然学習を行えるようにしたい。だからこそ、先生は君たちの自主性を重んじることにします。」


 担任は、メンバー決めを生徒に一任した。生徒の自主性とはよく言ったものだ。ただ単に面倒くさくなっただけだろう。オレのクラスの担任は若い男で、女子には甘く、男子には厳しい、いわゆる差別が激しい先生だった。


 そして、セクハラ一歩手前ともとれる行動をよくしている。女子にスキンシップと称して、よく肩に手をかけて話しかけている。顔は、男のオレから見ても、まあまあイケメンの部類に入ると思うが、どうにも好きになれないタイプだった。


 イケメンだから許されているのか、女子生徒は特に慣れた様子であしらっている。見ていて気持ちが悪いのだが、本人たちが気にしていないようだから、オレも何も言わないことにしている。最近は、かわいい系の男子にも手を出し始めている。中学生になっても、あまり背が伸びない男子もいて、そいつらにべたべたと接触している。根がロリコン気質なのだろう。近い将来、セクハラで訴えられて先生を辞める未来が見えるような気がした。


 担任は、オレのことはタイプではないらしい。話しかけられることはあっても、肩に手をかけられることもないし、ねっとりと絡みつくような視線を感じることもなかった。そんなことがあったら、すぐに親に言って何とかしてもらおうと思うが、今のところ、そんなことにはなっていない。


 別府えにしは、もろに担任のタイプだと思うのだが、なぜか、担任は別府えにしに対して、腫れものを扱うような態度をとっていた。よくわからないが、手を出されていないようなので、安心である。




「では、自然学習で一緒に行動したい人同士で集まってください。」


 担任が好きにしていいといったので、クラスメイトがざわざわとグループを作り始める。オレも一緒に行動したい奴らのところに足を運ぶ。


 一つのグループの人数は五~六人。クラスの人数は三十三人だから、全部で五人グループが三つ、六人グループが三つほどできる計算だ。


 オレは、普段一緒にいることが多い男子二人のもとへ向かった。



「男子と女子混合でグループを作ってくださいね。ああ、それとこのグループは自然学習の体験学習でのグループになります。寝るときのグループはまた別に決めますからね。グループができたところはその場に固まって座ってください。それから班長を決めて、班長は先生のところに来てください。」


担任の言う通りに男女混合のグループを作るとなると、まずは男子、女子がそれぞれ二~三人集まり、それから男女合流した方がグループを作りやすい。オレたちは、友達同士や同じ部活の仲間同士で集まりながら、徐々にグループを作っていく。


 時間が経つにつれて、どんどんグループが決まっていく。つまり、クラスメイトは次々とグループ決めを終えて床に座っていく。オレたちもどこかの女子と合流しなければならない。



「やべえな。このままだと俺たち、やばそうな女子と組むしかなくなるぞ。」


「どうするんだよ。こうたろう。」


 クラスを見渡すと、男子たちの言う通り、決まっていないグループは残りわずかである。わずかというより、まだグループが決まらず、立ったまま残っているのは、オレたちともう一つの男子グループ、それから女子の二つのグループだけだった。


 その中に別府えにしがいないかと探したが、彼女の姿は見えなかった。すでに他の男子たちと組むことにしたのだろう。オレたちは、もたもたしている間に乗り遅れてしまった。

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