13

 保健室に向かっていた私は、ふと足を止めた。保健室に行くアイデアはいいと思ったのだが、保健の先生と私は相性が悪い。


 なぜかというと、保健の先生が男子好きだからだ。さらにはかわいい女子も好きだという差別的先生だったからだ。


 かわいい女子や男子といっても、先生が好むのは、いわゆるチャラい系であり、ただのかわいい、格好いい男子には目もくれないという変態教師だ。これがどうして保健の先生をやっているのか皆目見当つかないが、それでもやっているのだから、きっと採用試験を担当した教育委員会か誰かの目が腐っていたのだろう。



 本当に世の中腐った人だらけで嫌になってしまう。そう思っているうちに始業のチャイムが鳴ってしまった。こうなっては保健室に行くより方法はない。保健室にいることがわかれば、先生も具合が悪くなったと解釈して、運が良ければ早退させてくれるだろう。



 保健室の前まで来た私は、それでも入るのをためらった。だって、自分と相性が悪い先生と二人きりになるのは、精神的に苦痛であることはわかりきっている。


 それでも、教室に戻るよりはましだと思い、保健室の扉をノックする。返事がなかったが、特に気にすることもなく、扉を開いた。


「失礼しま……。」




 思い切りドアを閉めて廊下で一息つく。幸い、私が扉を開けたことに、保健室内にいた人間は気づいていないようだった。


 うっかりしていた。そこにはすでに先客がいた。そいつも私が嫌いな体育教師だ。こいつもチャラい系の生徒が好きな変態だ。


 うっかりしていたといえば、私が嫌いな保健の先生と体育教師は付き合っているのだった。10月に結婚を予定されているとのことだ。


 そいつらが保健室で抱き合ってキスをしているところをうっかり目撃してしまったというわけだ。最悪すぎる。嫌いな先生二人のラブシーンなど見せられてはたまったものではない。


 こうなると、私はどこで、気持ちを落ち着かせればいいのだろうか。いっそのこと、家に帰ってしまうのはどうだろうか。いや、それでは負け犬みたいでいやだ。



 廊下で考え込んでいると、ちょうど担任が通りかかった。私のクラスの担任は国語の担当で、私はこの教師は結構気に入っている。


 40過ぎぐらいの女性だが、差別は特になく、みな平等にほめるときはほめる、叱るときはしっかり叱るという具合だ。


 担任は私を見つめると、不思議そうな顔をした。それもそのはず、担任は私がクラスにいないのを不審に思っていたのだろう。それが、保健室の前にいたのだから不思議がるのも当然だ。


「おはようございます。高田さん。こんなところでどうしたのですか。朝のHRにはいなかったみたいで心配していたのですよ。」


「おはようございます。浅利先生。実は……。」


 先生には今朝のことを話してもいいだろうか。話したところでどうにもならないし、先生が、私の気持ちをわかってもらえるとも限らない。


「何か、教室に戻りたくない理由でもあるのでしょう。教室内の雰囲気がおかしかった原因に高田さんが関係していますか。」



 私が話すのを迷っていると、それを察したように浅利先生自ら質問してくれた。こうなったら話してしまってもいいだろうか。意を決して話そうと口を開くが、同時に保健室の扉が開かれた。


「おや、浅利先生ではないですか。おはようございます。高田さんも。」


「おはようございます。磯崎先生に、安田先生。」


 体育教師の磯崎先生と保健の先生の安田先生がタイミング悪く教室から出てきてしまった。



 この二人に話を聞かれるのは嫌なので、開きかけた口を慌てて閉じる。幸い、私たちが何を話していたのかまでは聞かれていないようだ。


 そうして、話をしないまま、かといって、具合が悪いとも言えずに私はしぶしぶ戻りたくない教室に戻る羽目になったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る