12
部活を休んだ別府えにしだったが、次の日は普通に学校に来ていた。教室に入ると、教室が妙に騒がしいことに気付いた。いったいどうしたのだろうと思っていると、教室の中心にまたもや人が集まっていた。よくもまあ、毎日のように集まりたがるものである。
「おはよう、いったい朝から何があったの。」
いつものように近くにいたクラスメイトに話しかけると、興奮した様子で返事が返ってきた。
「あやな、おはよう。だってこれが興奮しないでいられる。今回の学年1位と2位がまさかこのクラスにいるなんて。」
「1位がこのクラスにいるの。」
私が学年2位だったということは、私以外の誰かが1位を取ったということになる。そんなに頭がいい人がクラスにいただろうか。一回目のテストではいなかったように思ったのだが。
「驚いてる、あやなも驚きだよね。それがまさかあの別府えにしときたら。驚きと嫉妬で気が狂っても仕方ないよ。」
「えっ。」
クラスメイトの言葉に一瞬、誰のことか考えてしまった。しかし、別府えにしという珍しい名前は一人しかいない。
「べ、別府えにしって。」
「そうだよ。彼女が今回の1位だったんだって。でもさあ、すごいのは5教科すべて満点だったことだよ。1位もすごいけど、満点取るのもすごいよね。さらに驚きなのは、あのとしやを教えながらも、その順位と点数を達成できたことだよね。」
「……。」
私だって、テスト勉強は万全ではなかったが、それでも自分の時間はたくさんあった。しかし、別府えにしにはそんな自分の時間があったのだろうか。どこまであのイケメンバカに真剣に勉強を教えていたのかはわからない。
わからないけれど、相当な時間をかけていたことだけは、イケメンバカの今回の順位を見れば明らかだ。どのような方法を使ったのかは皆目見当つかないが、教え方がよほど良かったのか、はたまたテストの出る問題を的確に予想できたのか。
そんなことはどうでもいい。ただ私が一番ショックを受けたのは、自分の時間が十分に取れなかった、テスト勉強をそこまでできなかったと思われる相手に負けてしまったことだ。
加えて、周りの反応が嫌だった。ただえさえ、イケメンバカが私というものがありながら、別府えにしと付き合っている、浮気しているといううわさが流れているのだ。
そこに私が別府えにしにテストで負けたと加われれば、もっと面倒なうわさが流れるに決まっている。
「あやな、別府えにしに負けたんだってさ。やっぱり、平気そうにふるまっているけど、としや君に振られてショックなんだね。」
「勉強も勝てないようじゃあ、別府えにしに勝てるはずもないよな。あいつのいいところって勉強だけだもんな。」
「別府えにしってすごいよな。かわいいし、頭もいいし、優しいし。あんな女子と俺もつき合いたいな。」
様々な妄想が私の頭の仲を駆け巡る。そうは言っても、終わってしまことを悩んでいても意味がないことくらい、私はわかっている。
教室で中心にいるのは、おそらく別府えにしだ。朝から何を騒いでいるのかがわかったところで、私は自分の席に着く。
「おっはあ。おまえ、えにしより自分の勉強時間あったくせに、あいつに順位負けたとかうけるわ。」
自分の席に着くなり、別府えにし並みに面倒な奴がやってきた。すべてこいつのせいである。こいつがいなければ、別府えにしとの変な三角関係のうわさが流れることもなかったし、テスト勉強にも集中することができた。
恨みがましい目で見ていたことに気付いたのだろう。顔をしかめて私のことを見つめてくる。
「なんだよ。俺のせいで勉強ができなかったと言いたいのか。それは違うぜ。今回、俺はお前の手は一切借りていないし、何なら迷惑すらかけていない。」
「そ、それはそうだけど。でも、あんたが……。」
「としや君をそんなに責めてはいけないわ。」
私のイライラの元凶がやってきた。そもそも、こいつが私たちに絡んでこなければこんなことにはならなかったのだ。どうしてくれようか。
「としや君とはただテスト勉強をしただけであって、それ以外のことはしていないわ。だから、高田さんが心配することは何もないわ。」
でも、と申し訳なさそうに言葉を続ける別府えにしは、私から見ればさながら悪魔のようだった。私にはそれが演技だと気づいていた。だって、顔を隠していてもオーラがおかしい。どう見ても、申し訳なさそうに思っていない雰囲気だ。大方、私にテストで勝ったことをひけらかしたいだけだ。
それに気づいているのは私くらいだ。いつの間にか私の周りにはたくさんのクラスメイトが集まってきた。別府えにしを囲っていたやつらが彼女の移動によってついてきた結果だろう。
人気者はつらい、いつどんなことをしていようと公衆の目が光っているのだから。下手な発言をすると、すぐにうわさとして広まってしまう。それを消すのは至難のわざだ。
「高田さんが勉強に集中できなかったのは、私のせいだわ。だって、としや君は高田さんと付き合っているって知っていながら、一緒にテスト勉強をしていたのだから。責められても文句は言えないわ。でも、責めるなら私だけにして。としや君は何も悪くない。私が一緒に勉強したいと言い出したから。」
それを聞いたイケメンバカは馬鹿らしく、別府えにしを擁護する。
「そうだぞ。えにしを責めるなよ。もとはといえば、お前が俺に勉強を教えないと言い出したのが悪いんだぞ。だから、それを可哀想に思った彼女が親切に声をかけてくれたんだ。逆恨みもいいところだ。昔からいお前はそうだよな。すぐ怒ったり、イライラしたり……。」
「もういい。」
私も我慢の限界である。クラスメイトが集まっている公衆の面前であるにも関わらず、大声で思ったことをこれまた馬鹿正直に叫んでしまった。正気ではなかった。
「いい加減にしろよ。私とこのイケメンバカがいつから付き合っていたんだって。ああん、バカかてめえら。目が腐ってんじゃねえか。私がいつ、こいつと付き合っているって言ったんだよ。」
「だって、あんたたち、いつも一緒にいるじゃない。それによく二人でいるのも見かけるし。」
「そんなん、こいつの親に面倒みろと言われてるからに決まってんだろ。それに私の好みは、こんなチャラいイケメンじゃなくて、頭のいいカッコいいイケメンだわ。人類が私とこいつだけになっても。絶対選ばないわ。そんなことがあったら、とっとと死んでやらあ。」
ここで一息ついて、さらに一気にまくしたてる。すでに思ったことを口にしているのだ。いまさら何を言おうが知ったことではない。
「とにかく、私はこいつがだ、い、き、ら、いだ。ついでにこいつの面倒を親切心で見てやっているお前も嫌いだ。」
はっきりと別府えにしを指さして、言ってやった。言われた本人は驚いて言葉を失っている。
言い切ってから、しまったと思ったがもう遅い。やばいと思った私は、朝だというのに教室から飛び出した。飛び出した後のことは考えていないが、とりあえず保健室に向かうことにした。
「なにあれ。サイテー。あやなって、あんな嫌な奴だったっけ。」
「別府さん、大丈夫。顔色が悪いけど。」
「気にしないで、あれは全部あやなが悪いんだから。」
クラスメイトが別府えにしに声をかけていることを私は聞くことはなかった。さらにはその気遣いに丁寧に受け答えをしている彼女ももちろん知ることはなかった。
イケメンバカは私の突然の啖呵に驚いて固まっていた。
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