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質問するだけのつもりだったが、彼女本人を目の前にして怒りがふつふつと湧いてきたので、質問だけでは済まなくなってしまった。
「いちいち私たちの話を邪魔しないでくれますか。そんなに「のぞむ君」と話してほしくないなら、わざわざ私と二人きりにしなければいいではないですか。それなら私も男に話しかけないので。話の邪魔をされると、いくら私が温厚だからといってさすがに怒りますよ。もしかして、私が怒らせて私の悪いところをクラス中にばらまくつもりですか。あいにくそんなことをしても私は傷つきませんから。もっと時間を有効に使ったらどうですか。小学生といっても高学年になってくると、勉強が難しくなってくるでしょう。そういえば、りんさんは、勉強しなくていいんですか。確か、この前のテスト、ひどすぎて担任に怒られていましたよね。とはいえ、あのくそ担任は本気で怒っていなかったようですが。いいですよね、担任に好かれると頭が悪くても見逃してもらえそうですからね。」
怒りに任せて思っていたことを一気に吐き出した。もうこの際だから言いたいことは全て吐き出してしまおう。この時の私は正気ではなかった。今後のことを考えたら、今そんなことを言うべきではなかった。
「そういえば、うすうす感じていましたが、れいさんは私のことが嫌いですよね。それなのにどうして私のお別れ会を率先して仕切っているのでしょう。嫌いならそんなことはしなくていいですよ。なんなら、今からでもお別れ会の開催を辞めてくれても構いませんよ。別に嫌われている人から別れを惜しまれてもうれしくありませんから。無駄なことに時間を使う必要はありません。大好きな「のぞむ君」といちゃついていればいいではないですか。私と仲良くしているのが気に入らないのでしょう。」
言い終わると、妙な達成感が湧いてきた。同時に冷静になり、これはまずいことをしたと思い始める。何も思ったことをすべていう必要はなかった。
「このくそおんなあ。」
私が冷静に自分の発した言葉に反省していると、パンっという乾いた音が図書室に響き渡る。二人きりの図書室にその音はやけに大きな音を響かせた。
顔が急に熱くなる。どうやら私は女に左の頬をはたかれたようだ。相当強くはたいてきたのだろう。頬がじくじくと痛みを訴えている。これは確実に跡が残ってしまう。不思議と怒りは湧いてこなかった。
ただ、この女はバカなことをしたなくらいにしか思わなかった。私が彼女に殴られたと一言両親に言えば、それで今回のことは終わるだろう。何しろ私の親はモンスターペアレント。かわいい娘がクラスメイトに殴られたと知れば、間違いなく殴った本人と担任、それと殴った子供の親を呼びだすだろう。そして、父親は容赦なく、ガンガン彼女たちを責めるはずだ。母親は逆にねちねちとしつこく責めていく。
おそらく両親の攻撃に加害者は値を上げて私に真剣に謝ってくるだろう。それはそれは見物であるに違いない。
ここまでの流れを想像すると、面白くて笑いがこみ上げる。最初からこの方法をとればよかったのかもしれない。自分で何とかしようと思っていたが、これはこれでよいかもしれない。
私が急に笑い出したのを気味悪く思ったのだろう。それに加えて、自分がかっとなり相手をはたいてしまったのを思い出したのか、逃げるように図書室から出て行ってしまった。
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