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私が転校する頻度はとても多い。早くて半年、遅くても2年ぐらいの頻度である。9月に転校したということは3月の学年が変わる頃には転校の可能性がある。その前に何とか計画を完遂しなければならない。
ちょうど1週間後が2月14日、バレンタインデーだ。告白には絶好のチャンスである。どのようなチョコを作るべきか、どの場所で渡すべきか、告白の言葉はどうするか。考えなければならないことは山ほどある。
考えた末、男のためだけにチョコを作ることはやめた。それではあからさますぎる。それに私がそいつだけに作るのはなんだか腹が立つ。
バレンタイン当日は平日で学校がある日であった。当日はクラス全員分のブラウニーを作って持参した。クラス全員に作っていくことで、クラスの中での私の好感度はさらに上がるだろうという魂胆だ。ブラウニーを何本か焼き、クラスの人数分に切り分けただけだが、これがクラスには大好評だった。
いわゆる友チョコとして渡した。お菓子作りが得意ということをクラス全員に示すことができた。そして、クラス全員に日ごろの感謝を込めて作ったと伝えれば、それはそれは喜んでくれた。
「えにしちゃんはおかし作るの上手なんだね。すごいね。」
「このブラウニーおいしい。作るの大変だったのによくクラス分作ってこれたね。優しい。」
クラスのみんなに褒められ、私の株は急上昇である。例によって女は無言である。ここからが本番である。ちなみに女は調理実習でもわかったことだが、料理はからっきしのようだ。お菓子も当然のことながら、作ってきていないようだ。もしかしたら、男の分だけは作ってきているかもしれないが。
「のぞむ君、ちょっと話があるんだけど、放課後時間あるかな。」
私は男にこっそり尋ねた。もちろん男の他には誰もいない。運よく、私と男は図書委員会で今日は図書当番の日であった。昼休み、図書当番で図書室に二人きり。絶好のチャンスである。
「放課後は無理かな。塾があるし、りんと一緒に帰ることになってるし。」
男は予想通り断ってきた。断ってくるのは想定内なので驚きはしない。
「そうだよね。普通放課後は予定があるよね。忙しいのにごめん。じゃあ今から伝えるね。」
私は男のことが好きだということを伝えた。そして、男の幼馴染の女のりんちゃんのことも男のことを好きだと伝えた。
彼女の気持ちは知っているけれど、のぞむ君のことが好きという気持ちは抑えられない。だから、今日告白をしたという旨を真剣にさも本当のことのように話した。
しかし、男は私の言葉を聞いても表情が変わらなかった。いつも通りの冷静な顔だった。私の告白に驚かなかったどころか、さらには私の告白を断ってきた。まさかの展開である。私が断られることは想定していなかった。
告白したという事実に、じわじわと私の方が恥ずかしくなってしまった。思わず顔を下に向けてうつむいてしまう。
「ごめん。別府さんの告白はうれしいけど、その気持ちには応えられない。僕はりんのことが好き。りんのことを大切に思っている。」
男はそう言って、呆然としている私を置いて図書室から出ていった。男が出ていくと、昼休み終了のチャイムが図書室に無情にも鳴り響いた。すぐに我に返り、仕方がないので私も男の後に続いて図書室を出た。授業をさぼるわけにはいかない。
告白した直後の表情は無表情だったが、その後の男の表情や声のトーンなどに注意していれば、その言葉が心からの言葉かすぐにわかったはずだった。恥ずかしさのあまりに下を向いてうつむいてしまったばかりに、私はそのことに気付くことができなかった。
計画は丸つぶれである。男のことを私は甘く見ていた。まさか私の告白を断ってくるとは思わなかった。さてこれからどうしようか。
教室に戻ってみるが、クラスはいつも通りだった。私が告白したことを男は他のクラスメイトに話さなかったのだろうか。話さなかったのならば、助かる。クラス公認のお似合いカップルの仲を裂こうとして失敗した、身の程知らずな女にならなくて済んだことは不幸中の幸いである。
その日の夜に父が転勤の知らせを持ってきた。転校は3月の修了式後、4月からは新しい転校先へ行かなければならない。これは非常にまずい事態である。
どうしよう。このままでは私は告白して無残にもふられてしまい、ショックで転校したみたいに見えるではないか。転校していくから、クラスとのかかわりはなくなるが、私の心はすっきりしない。そもそもこれでは私の気が晴れない。幼馴染の男と私が両想いになり、女に自分の方が上だと証明して、すっきりした気持ちで転校したかったのに。
転校までのタイムリミットはあと一か月ほど。それまでに何とかして、あのくそみたいな幼馴染バカップルの仲を裂いて、男を私に夢中にさせる。そして、その後転校を伝えてさよならする。
頭の中では最終的な構図が想像されているのにそれにたどりつくための計画が思いつかない。所詮、小学生の頭ではこれくらいが限界ということか。
ふと、どうせ転校するならば、最後に女たちに私のことを決して忘れないような衝撃的な出来事を起こしてやろうと思った。いじめでも何でも構わないが、衝撃的で一生トラウマになるようなことがいい。
どんなことをしたら、一生の思い出に残るものになるだろうか。
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