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 調理実習が終わり、男は私のことが気になるようで、ちらちら視線を向けてくるようになった。女の言うこともあり、私に直接話しかけてはこなかったが、明らかに好意を含んだまなざしだった。


 料理一つでこんなに変わるなんて、料理で男を落とすのは本当にできるのだと感心したものだ。男の中では、私のはかない感じの性格の演技と、料理が上手なことが合わさったことで、家庭的な女という印象がついたのだろう。女と正反対な性格が功を奏したのかもしれない。それに、私のクラスにははかない感じの女子はいない。今までにいないタイプの女が現れて、興味がわいたのかもしれない。


 

 男に無視されて以降の私は、無視されても積極的に男に話しかけはするが、あくまで声を荒げず、自然体を保ちつつ、無視されると悲しそうにうつむく。


「のぞむくん、話があるのだけど。」


「……。」


 男は私に名前を呼ばれると、話したそうに口を開くが、女の視線に気づくとさっと私から目をそらし、その場を去っていく。私のことを完全に無視できなくなるのも時間の問題である。


 

 女と違うことといえば、性格以外にも男の呼び方がある。この学校では男子は基本的に名前を呼び捨てしている。女も例外ではない。だからこそ、私は呼び捨てにしていない。これも女との差別化を図るためである。はかない演技をするうえで大事なことでもある。今のところ、呼び捨てしていないのは私くらいなので、特別な呼ばれ方をしていると、向こうも意識するだろう。


 加えて、あの班のメンバーで席替えをしたいということなく、普通に学校に来ていることもポイントを稼げるだろう。嫌な席でもけなげに我慢していると勘違いしているようだ。どうやら、男も今回の席替えがおかしいことに気づいたようだ。


 

 女がいないときにこっそりと男が話しかけてきた。


「もし、あの席が嫌なら、先生に伝えた方がいいよ。」


 調理実習も終わってすぐのことだった。笑えることこの上ない。私は笑いをこらえながら、首をふって答えた。


「席替えに不満が出るのは当たり前のことだから。私が不満を言って変えてもらったら、それは差別になるでしょう。それに席替えは何回も行われるから、大丈夫だよ。それに私は今の席が気に入っているの。優しいんだね。のぞむ君は。」


 私が渾身のはかない笑顔を振りまくと、男は顔を赤くした。本当にちょろいものである。こんな男を一時でも好きになった私は本当に見る目がない。




 調理実習の他にも、運動会や学芸会などの行事があるたびに私は男に女子力をアピールし続けた。そのため、すでに男は女のことなど眼中にないようで、さらに私ばかりを見つめてくるようになった。


 これはそろそろ最終段階に移る頃合いだ。私は男に告白することに決めた。ちょうど今はバレンタインの季節。私が転校してきたのは確か夏休み明けの9月だった。


 私がこの学校に転校して、半年が経過したことになる。

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