恋ベル22
桜井の誕生日になり夜だけしか会えず、家パーティーになった。準備して桜井を待っていると鍵が開く音がし玄関へ行く。
「ただいま。」
「おかえり!!」
嬉しすぎて桜井に飛びつくと勢いで転けそうになり流れるように玄関ドアにもたれる。
「待たせてごめん。」
「ううん。帰ってきてくれたからそれでいい。」
桜井は着替え済ませ用意した料理を見て、そっと頬にキスをし照れくさいままご飯を食べることになった。ケーキを出し、ローソクを立て桜井は恥ずかしそうにロウソクの火を消す。
「おめでとう!三十一歳!」
「ありがとう。なぜかあまり言われたくない歳だ…。」
「何々?私はまだ十代だよ!」
「むかつく。」
ケラケラと笑っていると桜井もつられて笑い、ケーキを切り二人で甘い時間を過ごした。楽しい誕生日もあっという間にあと残り十分になった。片付けをしてお風呂に入り寝室にいた。そっと桜井の首に手編みのマフラーをつける。
「えっ?」
「プレゼント。いいものじゃないけど初めて作った。」
「嬉しい。大事にする。」
桜井は私を抱きしめるとそのままベットに倒れ込み、そのまま私を見つめ桜井はいつもの目じゃなくてなにか真剣な目をしていた。
「絢桜。俺のわがまま言っていい?」
「うん?」
「絢桜を抱きたい。」
何を言われたのかわかるまで時間がかかった。
「けど私…初めてだから絢を困らせるかもしれない。」
「それでも抱きたい。」
「絢。」
桜井は微笑むと額にそっとキスをする。キスから離れ二人で見つめ合い今度は唇にキスをし服に手をかけ腕の傷に触れる。
「葎。」
「えっ?」
「絢桜の体には葎がいる。この傷がそうだ。俺は葎には絢桜を渡したくない。」
桜井は傷を触るがその手は震えていた。私はそっと手を重ねる。
「絢。私の体に絢で埋めてくれますか?」
桜井は愛おしそうに私を見つめ一つ一つ宝石を触るように優しく大事に触れ、互いの気持ちが混ざり私は初めて身を預けた。朝、目が覚め横を見ると桜井と目が合う。
「おはよう。」
恥ずかしくて布団に隠れるが、桜井は布団越しに抱きしめ苦しくなった私は顔だけ出す。
「体大丈夫?」
「うん…昨日は気を失うと思ったけど。」
「叫んでたしな。けど俺とする事で慣れてくると思うから。」
するという言葉に恥ずかしくて顔が赤くなるが桜井は平気で話し、私にはそれ系の話は無理だった。また布団の中に隠れるが桜井はそのまま抱きしめ、顔だけをそっと出すと唇にキスをし微笑む。限りある時間の中で二人で過ごす幸せを少しずつ感じていた。好きという素直な気持ちが一つまた一つ想う度に不安距離が徐々に小さくなり縮んでいくようだった。
クリスマスも近づき、街はイルミネーションで輝いていた。クリスマスはバイトでいつも忙しくしていた。けど今年は!と思い期待してた。
「えっ?」
家のソファに座り桜井が話す事に驚く。
「本当にごめん。葎も申し訳ないって言ってた。」
クリスマスを挟む海外出張が急遽入った。ただショックを受けるだけだった。仕事だからと自分に言い聞かせ桜井に向き合う。
「寂しいけど。うんわかった。」
「ごめん。早くて一週間。今までだと三週間出張だったのが葎と相談して一週間になった。その分猛働きだけど行ってくるよ。それと絢桜。俺が出張に行ってる間、葎にお願いしてある。だから葎の会社にいろ。」
桜井の言葉にただ呆然と聞くだけだった。
「俺が心配なだけだから。一人にさせるのもだけどまだ絢桜は不安だと思って。」
「大丈夫だよ。煜さんも忙しいのに私の世話みたいな事お願いしたら迷惑だろうし。」
「葎は思ってない。というより自分から言ってきたからな。」
桜井は少し不快な顔をする。
「絢はどっちがいい?私は絢に従うよ。」
桜井の肩にそっと頭を乗せると互いの指を絡ませて握る。
「俺はすごく複雑。だけど葎がいると安心できる。腹立つ事に葎も絢桜の事をよく理解してるからな。」
顔を上げて微笑むと桜井にキスをし突然の事で桜井は驚く。
「私は絢だけだから。」
「ありがとう。」
ソファで暫く何も話さずただ傍に寄り添って手を繋いでは握り合う。ときに顔を合わせ微笑み合いそんな柔らかな時を過ごした。
桜井の出張の日。学校が終わり荷物を取りに家に戻り、部屋の戸締りと火元を全て確認し、セキュリティーも桜井に教えてもらった通りにしてそのままバイトへ向かう。バイトに行くと店長が私の荷物に驚く。
「別居?」
「違います。暫く彼が出張で家にいないのでプチ引越しです。」
店長は私と桜井が結婚してる事も知っていて、最初は言うのもためらったけど迷惑かけたりするならと思って報告した。店長は驚くも何も笑顔で喜んでくれた。
「どこに行くの?」
「社長の所。」
「なんか井梅ちゃんが無性に羨ましくなってきた。私独身で彼氏どころか仕事が私から離れてくれない。」
「仕事してる人かっこいいと思います。私も早く自分の将来決めて、仕事に就きたいです。」
店長は呆れた顔を見せる。
「井梅ちゃんは結婚してるんだから先にする仕事あると思うよ。」
バイトの制服を着ながら首を傾げる。
「赤ちゃん!」
「え〜!?イヤイヤそれはなんというかまだまともにできてないのに。」
「何をできてないの?」
店長のにやけた顔にだんだんと恥ずかしくなった。
「店長!仕事ですよ仕事!」
「可愛い!」
店長を更衣室から追い出す。
「ふぅ。赤ちゃんって高校生だよ?けど結婚してるからそうだよね。あ〜今はとりあえずバイトバイト。」
すごく照れくさい気持ちになってバイトも考えないように集中し、いつもの時間に上がると荷物を持って葎成の会社まで行く。近くまで来ると高層ビルを眺める。
「いつも思うけど凄い。私には一生働くことのない会社かもね。絢に電話しなくちゃ。」
電話をかけると受付に声をかけ、上まで上がってくるように言われ緊張しながら受付で名前を言う。来客用のIDカードホルダーを渡され、自動改札口までの案内をされる。自動改札機にカードを通し、エレベーターまで行く。
“本当にいつ来ても凄い。けど煜さんの会社は限られているって絢が言ってたよね。”
エレベーターの前に来るが、エレベーターも四つありキョロキョロしていた。一つのエレベーターの扉が開き中に入る。エレベーターの階案内を確認すると、最上階はすべて(株)twine sun extend と書かれているのを見て私はただただ驚くだけだった。
“確か五十五階だったかな…。”
エレベーターが五十五階に到着しゆっくりと降りる。静かすぎる階にどうしたらいいのかわからず社長室をノックする。
「ハイ。」
返事を確認するとともにドアを開けゆっくりと入る。
「…社長室を何も言わず勝手に入ってくるとはいい度胸のあるやつだな。名前を言え。」
葎成は椅子に座り、窓の方を向いていて何かをしているようだった。私はゆっくりと机に向かっていく。
「どこの部署だ?要件を言え。」
ただじっと聞いてるだけだった。葎成は膝の上でパソコンをいじっていた。
「おい。俺の機嫌を悪化させるつもりか?」
その時椅子をくるんっと回って前に戻ると葎成は私を見ると目を開く。
「えっ?え〜!?」
葎成は立ち上がり咄嗟にパソコンを持つ。
「絢桜!どうした?ってか完全に聞いてたな…今の言葉。」
私は満面な笑顔を向ける。
「今日だったっけ?」
「さっき絢に連絡取ったら五十五階まで来るように言われエレベーター降りたら静かすぎてそれにどうしたらいいのかわからなくなり、けどノックはしましたから。返事も聞いて入りました。」
自信満々に葎成に答える。
「相変わらず繋がり文章だな…ちなみに自信に満ちた顔だけど失格だな。俺は基本会社のマナーになってないやつはすぐ降格するからな。」
「私は降格?」
「だな。キスで昇格してあげるよ。」
葎成の言葉に耳を疑う。
「煜さんって女の人にはいつもそうなのですか?」
「怒った怒った。そうじゃないよ。絢桜だから言いたくなっただけ。けどさぁ。絢の部屋に行っても良かったんじゃない?隣なんだし。」
自分の失態にやっと気づき、葎成は動揺してる私を見て笑う。
「絢、きっと副社長室で待ってると思うけど。まぁいいっか。」
葎成は机にある室内用インターホンのボタンを押す。
「ハイ。」
インターホン越しに桜井の声が聞こえた。
「絢桜、来たよ。」
「えっ?社長室にですか?」
「ああ。」
「わかりました。」
ボタンを切り葎成はにやける。
「だろ?今のは絢桜の選択ミスだな。」
何も言えなかった。葎成は私をソファに座らせると同時に桜井が社長室に入ってくると私を見て微笑む。
「ごめんね。」
桜井に謝ると私の頭を撫ぜる。
「何謝ってる?謝ることないが葎に何かされたら言えよ俺が処分するから。」
「絢。酷くねぇ?けど俺は嬉しかったけどな。一番に俺の部屋に来てくれたから。」
葎成は私の顔を見て嬉しそうな顔をみせる。桜井は悲しそうな顔をするがすぐに立ち上がる。
「葎、頼んだぞ。ただし手出したら本気で怒るからな!」
「ハイハイ。キスはいい?」
ドス!桜井は葎成のみぞおちを軽くど突く。
「あまり痛くないや。絢、向こうで頼むぞ何かあったら連絡くれ。」
葎成は仕事の顔とプライベート顔の切り替えが早くてそういう所はいつも凄い人だって思っていた。
「ああ。絢桜。俺はこれから行ってくる。何かあったら葎に。電話は毎日できたらするようにするが…保証はない。」
「絢桜、保証ないぞ。めちゃめちゃハードスケジュール組んであるから。」
「だっそうだ。だけど終わったら帰ってくるから。」
「うん。いってらっしゃい。煜さんよろしくお願いします。」
「ああ。絢。今から渡す書類持っていってくれ。」
葎成と桜井は仕事の話をしてそのまま桜井は飛行機で旅立った。
その夜、私は勉強をしながら葎成の仕事ぶりをチラリと見ていた。
“本当顔つきが仕事とプライベート全く違う。…二十時かぁ。お腹すいたかも…。”
「絢桜、ご飯行く?今なら行けるかも。」
葎成はパソコンをいじりながら忙しそうにしていた。
“えっ!?心読まれた?”
「忙しそうだから私が何か買ってきましょうか?」
「ダメだ。夜にダチの嫁を一人で歩かせるわけにはいかないからな。」
葎成はパソコンをしながら話すが、そのまま話が途切れてしまった。近くに小さいキッチンがあるのを前来た時見つけていた。そこに行き冷蔵庫を開けると驚く。
「オールミネラルウォーター。」
冷蔵庫閉じて棚に何かないかを探していく。
「何もないぞ。今のうちに行くぞ。」
葎成は急に現れ、私の手を取り社長室を出て行く。エレベーターを乗り五十二階で降りる。
「ここは?」
「Barだ。」
「ご飯行くんじゃ?」
葎成は微笑みながらお店に連れて行く。カランカラン。
「いらっしゃいませ。」
「この子に何か食べ物を用意してやって。俺はいつものでいい。」
「かしこまりました。」
葎成の注文を受けバーテンダーの人は奥に入っていく。キョロキョロとして周りを見るが私と葎成以外に誰もいなかった。
「ここは重役しか利用できない。俺が許可出したものしか入れないBarだ。」
私は圧倒されて葎成をじっと見る。
“本当にこの人は凄いんだ。それしか言葉出てこない。”
「何?俺のこと好きになった?」
「なりません!」
いつもなら突っ込みをいれてくる葎成は前を見ているだけだった。
「お待たせいたしました。本日のプレートです。」
先程葎成が頼んだ料理が出される。目の前に色鮮やかなプレートを置かれ、あまりに綺麗で美味しそうで嬉しくなり満面な顔を見せ葎成は微笑む。
「ザ・グレンリベットです。」
バーテンダーはウイスキーを葎成の前に置くとすぐに立ち去る。
「頂いていいですか?」
「どうぞ。」
葎成はいつもふざけたりするが、今日はなぜか優しかった。ふと葎成見るとお酒だけを飲んでいた。
「煜さんは食べないんですか?」
「俺はいい。眠くなったら仕事できないから今は酒だけでいい。」
「体壊しますよ。」
「その時はその時。」
葎成の適当な言葉に突き刺さるような悲しみを感じ、プレートを葎成の側に置くと私は黙って少し怒った顔を見せる。
「何がその時はその時か知りませんけど煜さんが口にしないなら私も食べません。」
葎成は驚いた顔をする。
「イヤイヤ何もやけになってないし。食べろって!」
「食べません!」
「はぁ?!わかった。じゃぁ絢桜があ〜んしてくれたら食べる。」
「意味がわからない。」
「じゃぁ食べない。」
この人は急に甘えたになったり、クールになったり、まるで子供がわがまま言うみたいに聞こえた。
「わかりました。口開けて。」
「えっ!?マジで?冗談だったのに!」
「自分で言っといて。」
ハンバーグを切りフォークで刺し、口元に近づけると葎成は恥ずかしそうにするがゆっくりと口を開け私はそっと口に入れる。その瞬間に葎成は下を向き顔を隠す。
「恥ずっ。」
私はクスクスと笑う。
「ちなみに絢に言うと煜さん攻撃くらいますよ。」
「まさか…やった事ないとか言わないだろうな?」
本気の目で葎成を見て微笑む。
「マジかよ。お前ら一緒に住んでご飯も一緒に食べてんだろ?」
「ほとんどすれ違いですから、二人の時間も限られてます。」
「それはそうなんだけど。絢桜は寂しくないの?」
「寂しいですけど交換日記がありますから。」
「ああ。あれね。絢から交換日記って聞いた時は、しばらく笑い転げた。絢はな、常に冷静に見えるけど場合によって考えは子供な時もある。仕事はやらせたら必ずしも結果を持ってくる。本当いうと絢が社長になる予定だったんだけどな。」
「えっ!?」
葎成の言葉にただただ驚きと理由を聞きたかった。
「本来はこの会社できたのは、絢が成功した企画が大きかった。俺は絢くらいの実力はない。社長を決める時も絢は俺を指名した。自分には向いていないとか言い出し俺は納得いかなかったけど、絢の言いたい事もわかっていた。俺と絢の性格正反対だからな。肝心な時にあいつは頼りないところがある、それをわかってて俺を指名したと思う。だからせめて会社名はと思って絢の由来で名前を作った。」
「そうだったんだ。会社名は twine sun extend?」
「ああ。会社名はより糸 太陽 伸ばす。意味は常に糸で紡ぐい太陽のような存在でいる。まぁ簡単に言えば積み重なってできた糸に熱を入れるという事だな。」
「難しい…。だけどお二人とも素敵ですね。私みたいな何もない何も出来ないただ傍にいるだけ。なんか自分が虚しくなってきました。」
葎成は私の頭を撫ぜ微笑む。
「俺も絢もだけど、絢桜と古乃実に出会うまで何一つ普通に過ごしていた。けどそれが君たちに出会って一気に大きな扉が開かれた。毎日が楽しくて仕事で上手くいかなくても君たちのお陰で俺は支えられてる。充分だろ?」
「嬉しくて涙が出てきた。」
「あはは。絢桜の泣き顔をだいぶ見たな。けどやっと心開いてくれて嬉しいよ。そろそろ行くぞ。」
「あっ。はい。」
「敬語。」
「うん!」
Barを出てまた社長室に戻ってくるが、その日は帰れないという事で会社で泊まる事になり、私は着替えを済ませソファに寝転び葎成を見ながらそのまま眠りについた。葎成はキリのいいところで両手を上に挙げ伸びをする。ソファに寝ている私を見て寄って来るとその場に座り私の頭を撫ぜる。
「好きだよ。絢桜。」
そう呟くと額を指でなぞりそっと立ち上がりパソコンに向かいまた仕事を始めた。
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