恋ベル20

 季節も過ぎイチョウの葉も黄色一色になり、学校では文化祭の準備に追われていた。クラスの出し物でアンケートを取ると圧倒的に普段できない事をしたい、自分が着たい服を着てカフェという『なりきりカフェ!』に決定した。各自用意するか作るかだったが衣装も沢山揃えられ、当日になりきりたい人にも試着できる事になりクラスは生徒で溢れてた。圧倒的に女子に多かったのはドレスで、特にミニスカドレスがカラフルに披露されていた。


「じゃぁ〜ん!どう?いけてんじゃない!?」

「めちゃ可愛いじゃん!クロCAにしたんだ!ドレスかと思ってたんだけど違った。」


 井下は私が悔しそうな顔をしてるのを見て得意そうな顔をする。


「シザは何着るの?」

「私はいいよ委員長だし、クラスまとめないといけないから。」

「またまたそんな事言って!!行くよ。ほら!」


 井下に無理やり着替え室に連れて行かれ着替えさせられていた。その頃葎成と桜井は文化祭に来ていた。学校では女子達が大騒ぎになっていた。


「俺たちまだいけんじゃね!」

「葎。わかってると思うが相手は高校生。絶対手出し禁止。」

「わかってるって。なんか矛盾してねぇそれ?」

「俺は結婚してるから。」

「はいはい。」


 文化祭の日程を桜井に話していた。話しした時は予定もあり行けないという話だったが、急遽予定がなくなり、葎成は桜井を用事に誘うが断られた為白状させ一緒に文化祭にくる事になった。


「クロ!」


 突然クラスの女子が慌てて井下に向かって走ってくる。井下は教室の前で受付をしていた。


「何々!?忙しいから後後!」

「マジでヤバイってめちゃかっこいい人が来たよ!」

「何そのよくわからない発言?」

「だって本当だって!しかもうちのクラス訪ねてたっていうから!」

「キャ〜キャ〜!」


 井下はあまりの女子の歓声に耳を塞ぐ。


「何の騒ぎ!?……えっ?」


 騒ぎの方を見ると葎成と桜井がこっちに向かって歩いていた。


「古乃実!!」


 葎成は井下を見つけ手を挙げ名前を呼ぶとその瞬間女子は井下の方を一斉に向く。


「え〜!?何で?」

「絢から今日文化祭って聞いたから。来てみた。っていうか似合ってねぇ。」

「…はぁ。煩い。」

「絢桜は?」


 葎成は私を探すが見当たらなかった。井下は企みな顔しニヤリと笑う。


「吉永!来て!」


 井下は教室の中に向かって吉永を呼ぶと吉永は周りに女子を連れて現れる。吉永は葎成と桜井をみて驚く。


「どうも。」


 桜井は吉永に挨拶し、吉永はぺこりと頭を少し下げる。


「吉永。この二人なりきりにしてきて!格好は任せるからハイ!いってらっしゃい!」


 井下が吉永に葎成と桜井を押し付ける。暫くして葎成と桜井は着替えてカーテンから出てくる。


「キャ〜!!」


 歓声とともに井下は教室に入ってくる。


「井下!どうだ !」


 吉永は満足そうな顔でいう。


「吉永最高!!」


 吉永は井下にグッドのサインを送る。吉永によって葎成と桜井は私の高校の制服学ランを着せられていた。葎成は俺流とか言って調子に乗ってだらしない格好に変え、桜井は何もいじらず学ランのボタンだけを外していた。


「本当格好良すぎだわ!けど大人オーラは出まくりだけど二人が高校生で人気があったの納得。」

「今頃?!」


 桜井は学ランを触りながら恥ずかしそうにする。


「それより絢桜は?さっきから見当たらないけど?」


 葎成はキョロキョロと周りを探してると井下はメガホンを持ち葎成と桜井に向け構える。


「じゃぁ。二人にシザを見つけてもらおうかな?シザは委員長してるからあっちこっちウロウロしてる。けど今日は逃げ回ってるかな。見つけられたらシザの秘密を教えてあげる。」


 その言葉に二人は反応し即さま教室から出て行くと井下はその場で爆笑する。


「単純過ぎ!あはは!」


 葎成と桜井は一緒に各教室を回るが私を見つけることができず、それより女子達の歓声と遠巻きで身動き取れてなかった。


「なぁ。絢桜どこにいんだ?」

「絢桜は俺が捜すから葎は違うところ回ってろ。」

「酷!俺も絢桜の秘密を知りたいし。」

「絢桜は俺のだから!」


 葎成と桜井はバトルをしながら二人して目をギラギラとさせる。暫くして屋上の立ち入り禁止プレートを見つけ眺める。


「なんか懐かしくね?」

「ああ。文化祭は屋上でよくサボってたからな。」

「けど今も同じところに到着…一緒だな。」

「ああ。」


 葎成と桜井はプレートを見て立ち去ろうとすると誰かが降りてくるのに気づく。


「何で屋上にゴミがあるのか訳がわからない!後で絶対犯人見つけてやる!」


 私は独り言をいいゴミ袋を持って階段を降りて前を見ると葎成と桜井が制服姿でいた。私は暫し停止する。


「え〜!?」


 三人同時に絶叫し私は二人に指を差す。


「何で?いるの?」

「いやってか。絢桜の格好。」


 なりきり格好を指で差され一気に赤くなる。ミニスカートのセーラ服を着ては眼鏡も外し髪の長いストレート。すべて井下に仕組まれたものだった。


「マジ…?絢桜!俺と付き合って!」


 ドス!桜井は葎成の脛を足で蹴る。


「マジで蹴るなって!」

「絢。どうしたの?今日は来ないって言ってたから。」

「ああ。葎がどうしてもって。」

「俺?!まぁそうかな。けどよかったんじゃねぇ?俺たち文化祭って高校では味わってなかったから俺は結構楽しいかも!」

「まぁな。絢桜…可愛いよ。」

「あっありがとう。」

「なぁ〜三人で写真撮ろうぜ!あっ。君、写真撮ってくれない?」


 通りすがった男子生徒に葎成は携帯電話をカメラに設定して渡す。


「ハイ。いいですけど…。」


 男子生徒は掛け声をかけ、葎成と桜井は私を挟んで写真をとりそのまま三人で教室に戻る。


「見つけられたんだぁ。私もまだまだかなぁ。」

「古乃実。見つけた時は俺の心臓が飛び上がったぞ!」

「でしょでしょ?!シザは元すごく可愛いからいじると男は黙ってないオーラ持ってるしね。こんな時しかできないからやってみた!」

「クロ!恥ずかしいから着替えたいって!それにスカート気になって委員長の仕事できないし!ジャージ履こうかな。」

「何言ってんの!?今日だけ今日だけ!」


 そんなやり取りを見て葎成と桜井は笑い、話をしている途中仕事の電話が入り、会社に戻る事になりスーツに着替え私達は手を振って別れた。私達の教室はすごく賑やかすぎて終わる頃には疲れ切っていた。最後のフィナーレを私は教室で片付けをしていた。そこに井下がやってくる。


「手伝うよ。」

「ありがとう。」

「今日は楽しかったね。彼たちがいたのは予想外だったけど。」

「ねぇびっくりした。絢の高校姿を見れたみたいで私は嬉しかった。けど絢は大人だから冷静で私ばっかでまた不安なってる。」

「不安多くない?まぁけど不安があるからこそその人の事考えて、色々乗り越えていくんもんだと思うしね。そこで諦めちゃったらそれはその人の事がそこまでの気持ちだったってことだと思う。私は彼氏いた事ないけど本当に自分が好きな人と付き合おうって思ってるしね。」

「煜さんは?」

「ないねそれは!」


 運動場でカップルがダンスをしている姿を見ながら笑い合い、今日の文化祭は今までの中で一番心に残る思い出ができた。私は携帯電話を出し先ほど撮った三人の写真をもう一度見ては微笑んだ。


 外の空気も冷たくなり十二月の季節。厚着して井下と一緒に買い物に出かけていた。


「はぁ。本当に思いつかないの?」

「うん。」


 二人してため息をつく。十二月は桜井の誕生日でプレゼント買うのに買い物に来ていたが、全く思いつかず途方に暮れていた。


「手作り感があるのがいいんじゃない?例えばシザがマフラー編んであげるとか。」

「手編みのマフラーも考えたんだけど、高級の揃えられた物を持ってるの見たら何百円のマフラー無理だよ。」

「結構いけるかもよ。温かさが違うから。裁縫屋行ってみるか!」

「う〜ん。」


 井下に引っ張られながら渋々裁縫屋に入っていく。裁縫屋の店に入ると、沢山の編み物が置いてあり色々見て回る。『君のためだけのマフラー。』と書かれたメッセージとマフラーに目が止まる。


「一人の為…。」


 飾られたマフラーを見て小さい声で呟く。


「やっぱこういうのがいいよ。シザ!」


 井下の言葉の通り高い物ではなく、一人の為に想い込めて作ったプレゼントは例え物自体が駄目になった時、きっと大切な物として心の中に留まる。そう思うと真剣に毛糸を選び始め、沢山あって悩んでいたけど桜井の好きな色の紺色と白色の毛糸を選んだ。


「じゃぁ。頑張って!」

「うん!ありがとう!頑張る!」


 井下と別れ家に帰ってくる。休みの日も桜井は仕事で生活も一人暮らし状態。寂しいけど絶対に帰ってきてくれるから安心していた。早速買ってきた毛糸を袋からだし夜遅くまでマフラーを編んでいた。時計を見るといつの間にか夜中の二時だった。慌てて編み物を自分の部屋に持って行き寝室へ向かいベットに入る。寂しくて桜井の枕で目を閉じた。


 朝になり目覚ましで目を覚ますが私は横に違和感を感じる。それはいつも寝ている桜井がいなかった。一瞬心がヒヤリとし時計を見ると六時だった。慌てて起き上がりリビングに行くがソファにも姿がなく、携帯電話を見ても着信もなかった。不安になり桜井に電話をかけ電話が繋がりホッとする。


「はい。」


 電話に出たのは女性だった。私は頭の中が一気に真っ白になると同時に身体が氷のように固まってしまう。


「もしもし?」

「あっあの?……兄は…そこにいますか?」


女の人が電話に出た事で気持ちが焦り咄嗟に嘘を言ってしまった。


「えっと。いてるけど多分起きないと思うけど。」

「…起きないというのは?」

「それ聞くの?ってか絢って妹いたっけ?まぁいいや。昨日酔い潰れてそのまま私の家で一緒にいてた。それ以上は聞かないでよ。」

「そうですか。失礼しました。」


 機械のような言葉で気持ちもないままな会話を終え、そのまま携帯電話を握りしめその場に座り込む。


「誰?今の人?」


 何をどう思うとかの前に暫く動けないでいた。今日は朝からバイトがあったが何も考えたくなくてバイトも延長した。桜井には遅くなる事をメールで連絡入れると返事がすぐ返ってきた。メールの返信内容も朝の事には触れず、余計に携帯電話を握る手が強くなり悲しくなった。


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