恋ベル19

 交換日記も二冊目になり一冊目は大切に宝箱に直していた。宝箱には婚約指輪とペアリングを入れていた。婚約指輪を取り出し眺めては指にはめてみる。


「綺麗。」


 小さく輝く宝石を見る。


「こんなに小さいのに光の加減で石の輝き方が変わるんだよね。まるで人の心みたい。その時その時で光放っていたり放ってなかったり。けど今更だけど指輪がピッタリなのはなんでだろ?私自身も知らないのに…。」


 婚約指輪を見ながら独りで喋りしばらく眺め元に戻しペアリングを次に出し見つめる。


「ペアリングしたいけど学校ダメだからね。ネックレスしてる子いるけどネックレスに指輪を通そうかな。このペアリング、シンプルだけど何か意味あるのかな?内側にはイニシャルは彫ってあるけど。クラスの子してるの結構可愛い感じが多かったように思うんだけど。今度聞いてみよう。」


 休みの日。井下にお願いしてペアリングを通すネックレスを一緒に探しに行ってもらう事になった。


「ネックレスって言ってもいろいろあると思うけど指輪を通すんだよね。すぐ外れないのを選ばないと。」


 ネックレスのお店に入り、高校生の私達が入るような店ではないけど、いいものを選ばないということで高そうなジュエリー店に緊張気味に入る。値段を見ると万超えばかりで私と井下は息を飲む。


「やっぱ予想通り。…どうする?けどこれは普通のネックレスだよ。チェーンなら違うんじゃない?聞いてみよう。」


 井下は店員を呼びチェーンネックレスを探していることを伝える。店員は私に向かってくる。


「お客様。指輪をネックレスとして持ちたいということお聞きしたのですが指輪はお持ちですか?」

「あっ。ハイ!」


 指輪ケースごと店員に渡すが店員は開けて驚く。


「これはペアリングですか?」

「はい。そうですが?」

「失礼いたしました。少々驚きまして…ペアリングで高級な指輪でしたので。」


 店員はガラスケースの上に指輪ケースを置くと、手袋をして指輪に触れ指輪を見ていた。


「お客様。大変いい指輪なのでリング用ペンダントお勧めいたします。少し値段が高くなりますが見られますか?」

「どうする?」

「う〜ん…見るだけ見てみる。お願いします。」


 店員は奥の方に入っていくと暫くして箱いっぱい持って出てくる。明らかに高そうな感じだった。


「今あるのはこの限りです。お取り合わせもできます。パンフレットもご用意しておきますね。」


 私と井下は顔を見合わせ値段が書かれてないという光景に嫌な汗が流れ出す。一つ一つ開けていき説明をさせるが全くわからなかった。


「クロ。どうしたらいい?」

「さすがに返答しずらい。」


 店員は指輪をリング用ペンダントについて説明をするが私達の頭の中はお金に羽がついて飛び回っていた。その頃葎成と桜井は仕事で近くを歩いていた。


「絢。次は何時だ?」

「次は十四時です。」

「まだ昼前だし時間あるから久しぶりにゆっくりとご飯食べるとす…絢。あれ絢桜と古乃実じゃねぇ?」


 足を止め指をさす先に高級ジュエリー店にいる私と井下を葎成と桜井は見つける。


「あいつらあんな高い店で何してるんだ?ちょっこら行ってみよう。」


 葎成と桜井は私達のいるジュエリー店に向かう。


「クロ…どうしよう引き返せないパターン?」

「うん…マズイねこれは。」


 私と井下は聞こえないようにコソコソと話す。お店の来店音楽が鳴り、葎成と桜井が入ってくる。


「いらっしゃいませ。」


 葎成は店の人に手を挙げ、私達の後ろから何をしているのかを眺める。私達に説明をしていた店員が急に固まりだした。


「葎成様。」


 店員は頭を下げその言葉に私と井下は振り返る。


「よぉ!!」

「うわー!」


 あまりにも突然の登場で井下は声を上げ私に抱きついていた。


「なんだよその反応は。」

「びっ!びっくりしたから!」

「何してたのこんな所で。」


 葎成はガラスケースの上にあるリング用ペンダントをみる。


「はっはぁん。なるほどね。俺が選んであげよう。」


 葎成はガラスケースの上にある中でリング用ペンダントを探す。ところが気に入らないようで店員にもっといいものを出すように伝えると店員はオーナーと一緒に奥へ入っていく。


「葎?何を言った?」


 桜井は葎成の行動を疑う。


「えっ?だって絢桜がリング用ペンダント探してるっぽかったからもっといいもの出すように言っただけ。」


 桜井は私を見てガラスケースの上をみるとペアリングが置かれているのを見つける。


「葎。俺が買うから買うなよ。」

「ハイハイ。古乃実は何がいい?ネックレス?どのネックレスがいい?気に入ったの買ってやるよ!」


 井下の答えを聞かず葎成はあれこれ合わせていく。


「滅相も無い私はワンコインで十分。ネックレスがかわいそうだから!」


 葎成は井下の言葉に大爆笑する。


「いいから選べって男のプレゼント断るなよ。」


 井下は困った顔して私をみるが私は笑顔で返す。井下は葎成と一緒にネックレスを選び始める。店員とオーナーが一緒に箱を持ってくる。それを開けると留め具部分に沢山の宝石がついたリング用ペンダントだった。


「気に入ったのあるか?」

「っていうよりちょっとなんていうか。」


“どれも綺麗って思うんだけどなぁ値段が…。”


 桜井は私の考えてることわかったのか、かすかに微笑み宝石がついたリング用ペンダントを指をさす。店員はそこにペアリングを私の首元につけ合わせる。用意された鏡の前までペンダントをつけたまま移動し、不安になった私は顔を上げ桜井は頷く。鏡の前に立ち、首元をみるとシンプルな指輪なのに宝石沢山のリング用ペンダントによって輝かされていた。ペンダントをつけただけなのに心臓がドキドキとしていた。


「気に入ったようだね。」


 桜井は私を見て微笑み、本当幸せ過ぎていつか罰が当たるんじゃないかそんな不安がした。そんな事を考えてると桜井はいつの間にかネックレスを購入していた。私は一旦ネックレスを店員に外してもらう。


「彼氏さんですか?」


 恥ずかしくて顔を赤くする。


「二人を見ていると幸せを感じます。」


 店員は私に微笑み私はさらに顔を赤くする。


「今日購入されたリング用ペンダントですがお取り寄せの為、後日出来次第連絡させていただきます。」

「はい。ありがとうございます。」


 私達と彼達はお店を出て、一緒にお昼を取ることになった。お昼もワンコイン行くつもりだった私達は彼達によって高級に跳ね上がった。お店に着きまた葎成のいつもので注文をする。


「葎成さんって本当顔しれてますね。」

「俺は、まぁ会社関係で色んな店には顔出しているからな。ってか絢〜桜?」

「あっ煜さんでした。」

「細かい事気にしてたら嫌われるよ。」


 井下はわざと葎成に聞こえるように言い、葎成はジロリと睨む。


「…。はーあ。」


 葎成はテーブルに肘をつきながらため息を漏らすがその時井下の首に光るネックレスを見つける。


「クロ。それ煜さんから買ってもらったネックレス?」

「うん。」

「もっといいのあったのに、全く低価格ばっかり見て俺の希望も無視だぞ。」

「無理だって。彼氏でもないし。それに高すぎだし。」

「じゃぁ。俺の女なる?」

「断じてお断りです!」

「お前ら本当俺にはキツイよな。何が不満じゃ?!」


 葎成は私と井下に向かって必死に言い、桜井はただ笑ってるだけだった。


「不満とかではないよ。寧ろその逆。良過ぎて頼れない存在になる。なんでも解決してしまうし、確かにそれだけの地位とお金があるからで。でもその反対に私達は高校生。親のお金で、しかも生活もお世話になってるそれを忘れたくないだけだから。」


 井下は葎成に向かって真剣に話し私は頷く。


「本当年齢誤魔化してねぇ?そういねぇぞそこまで考えてる奴って。やっぱ二人とも俺の女になって!」


 桜井は葎成を軽くど突く。


「痛い。絢はなんで結婚してんだよ。」


 葎成の拗ねて言う姿を見て全員が大爆笑をする。料理が運ばれてきて、またもや豪華で遠慮しながら私と井下はいただく。その後別れ葎成と桜井は仕事のため社に戻っていく。私達もそのまま別れ家に着きソファに座りしばらく指輪を眺めていた。


「綺麗…。」


 そのままソファに寝転んで指に指輪をつけ眺めていた。もう片方の手で指輪をそっと触れ横にいない桜井を思いながら目を瞑り眠りについた。


 ある日、私は家の掃除をしていた。


「絢。今日も遅いのかな?けど夜に会えるからいいや。バイトも結婚して減らすようになったし。掃除機でもしよう。掃除機…。」


 以前掃除機を桜井から手渡されたときコンパクトなのにどこにゴミが溜まるのかと思うような掃除機に感動し、しかも吸引力も強力で感動していると大笑いされたことがある。


「凄いよね。この掃除機…さてやりますか!」


掃除機を終え、窓から外をみると雲行きが怪しくなっている事に気づき桜井が傘を持っていない事を思い出す。


「後で電話してみようっと。ないと困るだろうし。」


 夕食の準備をしてテーブルに並べておく。ソファに座り傘を持っているか聞くため桜井に電話をするが出なかった。


「忙しいのかな?会社まで持っていっても大丈夫かな?うん。いざ出陣!」


 傘を二本持ち桜井の会社の入り口の近くを歩いていた。入り口近くでもう一度携帯に電話をするが出なかった。そこにタクシーから降りてくる桜井を見つける。駆け寄ろうとすると後から女性が降りてくる。見つからないようにそっと陰に隠れて様子を伺う。


 ズキッ!と胸の嫌な音を感じていると女性は桜井に抱きつく。苦しくなって胸を手で押さえる。桜井はそっと体を離すがまた女性は抱きつく。見ていられず陰に身を隠すが、その後一人で桜井が何もなかったように平然として会社に入っていく姿を見る。私はわかってたつもりだった。会社には女性もいて、大人の女性だってこの世には沢山いる事。頭の中ではわかっていたけど実際目にしてみると急に怖くなった。受付に桜井に傘を渡すように伝え、街をぼんやりとしながら歩いていた。


 雨もポツポツ降り始め雨にも気付かず歩き続けていた。そのままいつの間にか前の住んでいたアパートの階段に座っていた。


「うっ…う…っっ。」


 小さく泣き声をあげ階段で体を丸くして座る。もう誰も住んでいない暗くて寂しいボロアパート、まるで今の私みたいだった。


 その頃の桜井は葎成と会社を出ようとエレベーターを乗る。携帯電話を手に取ると着信がある事に気づきすぐ掛け直すが応答なしだった。


「絢桜か?」

「ああ。けど出ない。」


 一階に着きエレベーターを降りる。


「副社長。」


 受付が桜井を呼び止め、桜井は受付に行くと傘を差し出される。


「これは?」

「女の子が渡しといてほしいと言われたので預かっておきました。ちょっと様子がおかしかったのが気になったのですがそのまま走って帰って行かれたので。」

「ありがとう。」


 桜井は再度私に電話をかけるが私は出なかった。


「何かあったのか?」

「絢桜が会社に来てたらしい。」

「はぁ?!けど受付には言っといたはずだが。」

「傘を持ってきたみたいだが、様子がおかしかったらしい。」

「でっ。電話は出たのか?」

「いや出ない。葎…。」

「ああ。何かあったら連絡しろよ!」


 桜井は葎成に手を挙げ帰っていく。マンションにつき、玄関に入るが部屋は暗く誰もいない事に顔を顰める。靴もなく全ての部屋も確認するが、私の姿がない事に外へ探しに行く為マンションから出る。何度も携帯電話にかけるが出ない。


「絢桜どこだ?」


 桜井は携帯電話を強く握り何度もかけ直す。私はひたすらなる電話に出ようとするが、なんて話せばいいのかわからず勇気も出なかった。その時メールが届く。


『絢桜どこにいる?迎えに行くから教えてほしい。心配だから連絡ほしい。お願いだから。もし教えたくなくても俺は絢桜を見つけ出すから。』


 メールを読み、涙が溢れ携帯電話を抱きしめる。何かを期待し結局場所を教えなかった。携帯を握りしめたまま階段に座っていた。その時誰かが階段を上がってくる音が聞こえてくる。


「見つけた。」


 私は顔上げるとホッとした笑顔を見せる桜井がいた。私は泣きながら桜井に飛びついた。抱きついた勢いで傘が階段から落ち桜井は私を抱きしめる。


「どうした?」

「ごめんなさい。」

「うん。何があった?」

「怖かった。」

「怖かった?何に対して?」

「絢がどこかにいっちゃうんじゃないかって。」

「えっ?…それでここに戻ってきたんだ。」


 今までよりも強く強く桜井を抱きしめていた。桜井は優しく微笑むと私の頭を撫ぜる。


「取り敢えず家に帰ろう。それから先にお風呂だな。」


 頷き傘を拾うと桜井に手を引っ張られ、何も話さないまま家に帰りそのまま先にお風呂に入る。私がお風呂から出てくると桜井も続けて入り、ソファに三角座りをして暫く待っていた。


「絢桜。あったかい飲み物飲む?」


 お風呂から出てきた桜井は優しく問いかける。 顔を上げ頷くと桜井はココアとコーヒーを持ちどっちにするか尋ね、私は首で返事をし頼んだココアと桜井が飲むコーヒーを机に置く。


「絢桜。落ち着いた?」


 ココアが入ったコップに口つけ静かに頷く。


「話してくれる?」

「…うん。…雨降りそうだったから傘を持って行こうか迷っていて、とりあえず電話をしたんだけど出なかったから会社に行った…。」

「うん。それで。」


 その先の言葉に詰まり桜井を見るが泣きそうになる。桜井はそっと肩越しに抱きしめる。


「…見たのか?」

「えっ?…うん。」

「そうか。あれは取引先の相手で葎に気に入られようと必死にすがってくる人。俺が今回断りを伝えていた。どうしてもって俺に抱きつかれ阻止できなかった俺も悪かったと思う。けど見られてると思わなかった。ごめん嫌な思いさせた。」

「私こそごめんなさい。仕事なのに私の勝手なヤキモチでした。」

「俺は嬉しいけどね。」

「…どうして?」

「絢桜がそんなに俺の事想ってくれてるって思うとな。俺も絢桜に対しては葎でも嫉妬する。」

「えっ?けど煜さんはそんな気がないってか…冗談ばかりで。」

「わかってない。葎は会社でも気に入らなかったらすぐ切り捨てる。気に入ったものは何してでも手に入れるそういうやつだ。だから葎には容赦ない。」

「そういう風に見えないけど。」

「だから気に入られてるから余計に心配なる。」

「私は絢だけだよ。」


 桜井は少し恥ずかしそうにして自分の髪を触る。


「…。…絢桜。一つお願いがある。電話を無視するのはやめてくれマジで心配になる。けどそういう行動がまだ子供だね。」


 桜井の言葉に恥ずかしくなると同時に横から顔を覗き込まれる。


「恋愛未経験だから。」


 少し口を尖らせながら答え、桜井は笑い私もつられて笑う。


「早く絢と一緒に並びたいなぁ。」

「一緒に並んでるけど?」

「そういう意味じゃなくて大人な気持ち。」

「大人な気持ち?」


 桜井は不思議な顔して尋ねる。


「なんて言うか余裕というか、そういう場面とか勘違いとか知ったとしても冷静な判断ができるのかなとか色々考えて。」

「人それぞれだと思うよ。まぁ大人は自分の限界まで我慢すると思うけどそこから逆襲したり酒にいったりとか色々だと思うよ。」

「絢はどうする?」

「俺は絢桜の事になると冷静じゃ無くなると思うからきっと子供な大人かな。」

「子供な大人?」


 桜井は私の頭の上に自分の頭を乗せ、優しく頭を撫ぜる。暫くして落ち着いた時桜井は体を起こすとテーブルの下から箱を出し私に渡す。


「何?」

「開けてみて。」


 箱を開けると以前買ってもらったリング用ペンダントだった。そっと箱の中からペンダントを取り眺める。


「綺麗。」

「指輪つけるんだろう?」

「うん!取ってくる。」


 急いで指輪を部屋から持ってきてペンダントに通す。それを桜井はそっと取り上げると私の首元にペンダントをつける。


「似合ってるよ。」


 桜井はそっと微笑み私は嬉しくて飛びつき抱きしめる。桜井の胸に顔をあて心臓の音を聞き目を瞑る。


「ありがとう。」

「ああ。」


 ペンダントをつけ一緒にベットで抱き合って眠りについた。一つ一つの不安が襲うそんな不安を愛しい人の言葉で私は日々癒され強くいられるような気がしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る