恋ベル18

 桜井の仕事も忙しく交換日記での会話だけになり会えるのも限られていた。互いに寝てる顔しか見てない。ある日、朝起きると体がだるくて少し気分が悪かった。足も痛身がありジャージのズボンをまくると赤くなっていて膿んでいるようだった。桜井は横に寝ていたが大丈夫と思い朝食を作り辛い体を引きずりながら学校へいく。


「おはよう!!どうしたの?」

「うん。ちょっと気分が悪くて。」

「大丈夫?桜井さんには?」

「ううん。寝てたから何も言わず出てきた。」

「ダメじゃん。もし無理そうだったら言ってね。」


 結局三十八度の熱が出て学校を早退した。保健の先生には親は仕事で迎えに来れないと伝え、フラフラしながらマンションに帰る。震える手で鍵を開け玄関に入るがそのまま鍵も閉めず倒れこむ。


「…絢。助…けて…。」


 倒れたままそのまま玄関で眠ってしまう。放課後、井下は私の事が心配になり携帯電話に連絡するが繋がらず、私の家に行こうとするが住所が分からず葎成の会社に来ていた。受付で社長に会わしてもらうように頼むがアポを取ってないからと断られ。それでも何度もお願いするが断られていた。井下は私の母親に電話をし母が住所を教え、井下は携帯で地図を見ながら急いで向かう。


 暫くして葎成と桜井がエレベーターから降りてくると受付は葎成を見ると慌てて立ち上がる。葎成は受付の様子がおかしい事に気付き受け付けへ向かう。


「俺の顔に何かついてる?」

「社長。何をナンパしてるんですか?」

「だってこの子たち俺を見て焦りだしたから何かあるのかなって思って。」


 その頃マンションに着いた井下は言われた部屋番号を押すが誰も反応なく、マンションの住民が入ると同時に入る。玄関のインターホンを鳴らすが反応ない為ドアノブを持つと空いていた。そっと開けると玄関に私が倒れている姿を見て、井下はすぐに駆けつけ私の名前を呼んで揺さぶる。私はあまりの揺れに気づく。


「シザ!?大丈夫?!」

「ク…ロ?」


 意識朦朧となりながら名前を呼ぶがそのまま寝てしまい、井下は私を必死で呼ぶ。井下はとりあえず額を触り熱がある事で部屋に上がり製氷機から氷と鞄に入ってたハンドタオルを用意する。その頃受付では葎成がしつこく受付の女性に話してた。


「社長。そろそろ行きますよ。」

「俺だって夜八時まで時間暇だもん!ってか何を隠している答えろ!?」


 葎成は急に顔がこわばり受付は動揺し桜井も葎成の言葉に受付に尋ねる。


「何かあったのですか?」

「…えっと、先ほどアポ無しでこられた方がいらっしゃいまして約束されてないとお会いできないと伝えたのですがその子の行動が気になって。」

「その子?」

「高校生の制服を着ていたので女子高生だと思います。」

「おい。どんな髪型だ?」

「髪が短い子です。」

「絢!絢桜に電話しろ!」


 桜井は携帯電話を出し、すぐに私に電話するが応答なしだった。葎成も井下に連絡し何度もかけるが応答はなかった。


「何かあったらただじゃすませねぇぞ。行くぞ絢!」

 

 その時、井下は私の鞄から携帯電話のバイブ音が鳴ってる事に気付き携帯電話を探す。携帯電話を取り出し桜井の表示を見て直様電話に出る。


「桜井さん!早く家に帰ってきて早く!!」


 桜井はその声とともに葎成と桜井は会社から出ると直ぐにタクシーに乗る。


「何があったんですか?」

「シザがシザがうっうっ。シザしっかりしてよぉ!!」

「井下さん落ち着いてください状況教えてください。」

「シザ!シザ!お願いだから目覚ましてよぉ!!」

「井下さん?!」

「おい!変われ!どうした?!」


 葎成は桜井の電話を取り上げ、井下に声かけるが井下はパニック起こしていて冷静に聞ける状態じゃなかった。


「古乃実!取り敢えず落ち着け!」

「無理だよ何度起こしても起きないもん。熱いし震えてるしどうしたらいいのかわからない。シザ嫌だよぉ!」

「熱い?震えてる?絢!昨日の様子は?」

「…特に何も気付かなかった。」

「気付かなかったじゃないだろ?」

「古乃実!今そっち向かってる、もうすぐ着くから俺は救急車呼んでおくから絢桜の側にいろ。」

「うん。」


 電話を切り、直様救急に電話をし住所を言いきてもらうように伝える。葎成は桜井の胸ぐらを掴む。


「絢。お前は絢桜の何を見ていた?ただ一緒に住むのが夫婦じゃねぇぞ。さっき古乃実の行動からだと相当だろ、きっと何処かで様子がおかしかったはずだ。」


 桜井は葎成の言葉に何も言えないでいた。マンションに着き桜井と葎成は玄関を開けると、そこには倒れてる私と必死で名前を呼んでる井下がいた。井下はボロボロな姿で葎成と桜井を見る。


「どうだ!?」

「ダメ…名前呼んでも反応しないし、震えも増して熱も半端なく高くて。どうしよう大丈夫っていう言葉に安心しなければこんな事にならなかった。」

「古乃実のせいではない取り敢えず、絢!バスタオル用意しろ!」


 桜井は放心状態だった。


「絢!!」


 桜井は葎成の声に身体をビクッとさせる。


「け…ん?」


 葎成の声が耳に入り桜井を呼ぶ。


「絢桜!わかるか!?」

「ひ…か…るさ…ん?」

「ああ!そうだ!」

「助…け…て…。苦…。」


 その言葉に誰もが言葉を失う。


「もうすぐ救急車来るから!俺たちいるから頑張れ!」


 私は小さく微笑みそのまま眠ってしまう。


「おい!絢桜!寝るな!!」


 救急隊員がインターホンを鳴らし、葎成がドアロックを開け隊員が部屋に入ってくる。私の症状を診て病院に連絡を取る。


「何かここあたりありますか?」


 誰もが首を振る。


「取り敢えず運びます。誰かついてきてください。」

「絢。行け、俺らは後ろからついていく。」

「ああ。」


 救急車に乗り込み、桜井は苦しむ私をただ見ているだけだった。病院に着き救急治療室へ運ばれる。待合で桜井は両手を組み、その横に後から来た葎成が座り井下も座る。


「絢。絢桜の様子がおかしかった事に本当に気付かなかったのか?」

「ああ。効果日記はしてた一日一日あった事書いていた……。」



 桜井は突然鞄から交換日記を出し、ノートを捲っていく。


「これだ!」

「どうした?」

「この日、犬に噛まれて足が赤くなっているって。次の日も痛くないけど引かない。ってまさか昨日ノート。身体がだるい気持ち悪い熱もある感じ。俺、何も書かず気にもしてなかった。最低だ。ごめん絢桜。」

「絢。一発殴らせろ!」


 バン!葎成は桜井を殴り井下は泣いていた。


「絢。いいか。俺はそんないい加減な気持ちで保証人になったわけじゃないぞ。中途半端な幸せなら今すぐ別れろ!」

「それはダメだ!」

「だったらきちんと絢桜を守れ!次同じ事あったら俺は絢から絢桜を奪う。わかったな?!」


 処置を終えたDrがやってくる。


「桜井さんいらっしゃいますか?」


 桜井は直様立ち上がりDrに向かい合う。


「脚に負傷を負っておりそこから化膿し、痙攣は熱の高さからでしょう。暫くは安静にしていれば大丈夫ですよ。」

「犬に噛まれたと。」

「そうですね。その予防もしてます。症状からそういった事は出てないので大丈夫です。二、三日は入院してそれで大丈夫かと思います。」

「ありがとうございます。」


 桜井は椅子に気が抜けたように座り込み。


「怖かった。」

「だろうな。帰ってきてあんな姿見るとは思ってなかったからな。けどよかったな。古乃実も悪かった。会社の受付が断ったみたいで。」

「私も途中で何言ってるのか、わからなかったから怪しいものだと思われていたかも。」

「けど俺さ。古乃実に携番交換したと思うが?」


 井下はふと気づく。携帯電話をいじり葎成の番号を見せて井下は苦笑いする。


「貴様!!」

「だって本当パニックで。」

「だろうな。けど安心だな。ってか今何時だ?」

「あっ!葎忘れてた!」

「だろうな。連絡は入れといた。会議は延期にした。こっちが緊急だったからな。」

「ごめん。」

「今日は頼りない絢だな。まぁ昔から変わらないな。しっかりしてそうに見えて全くだ。目の前の事は遣り抜くのに、代わりに周りが見えなくなる。仕事ではいいもの持ってるのにな。」


 病室に連れて行かれ点滴をし眠っていた。桜井は私の手を握り私を見ていた。葎成は井下を送っていきそのまま会社に戻っていった。

 

 カーテンから入る日差しで私はゆっくりと目を覚ます。右手に何か握られてる感覚があった。桜井が私の手を両手で握って寝ていた。私は嬉しくて微笑む。


「絢?」


 桜井の名前を呼ぶとゆっくりと目を開け私が起きてる事に飛び起きる。


「絢桜!」


 声とともに手を強く握る。


「ごめんごめん。」


 そっと桜井に顔を向け首を振り仕事終えた葎成が病室に戻ってくる。私と桜井の声に気付き病室の前のドアに背中を預けながら話を聞く。


「心配かけてごめんね。」


 桜井はそっと手を離すと私の頬を優しく触る。


「俺。絢桜の事もっとしっかり考えるべきだった。一緒に住んでるだけで満足して、大事な事に気づかずもう少しで絢桜を苦しめるところだった。」

「絢。私は無事だったんだし、それに会話出来なくても傍にいるって思うと幸せだから。私こそ言わなくてごめんね。退院したらまた私たちの家に一緒に帰ろうね。」

「ああ。」


 桜井は私の言葉を聞いて下を向き泣いていた。桜井の頭を撫ぜているとノックと共に葎成が病室に入ってくる。桜井は驚いて顔を上げる。


「よぉ!生き返ったみたいだな。けど病院好きだな。あはは。絢はすげぇ顔してるけど。ハイ!お見舞い!」


 葎成は目の前にパイナップル一つを置き椅子に座る。私は嬉しくて笑顔になる。


「パイナップルだ!ありがとう!」

「元気取り戻したみたいだな。けど本当好きだなパイナップル。そのまま俺のこと好きになってくれないかな…。」


 葎成に言いようのない不快な顔で見る。


「絢と別れたら俺の女な!」

「不愉快千万。」


 私の言葉に桜井と葎成の顔は驚きの色を合わす。


「……。なんで俺だけ冷たい扱いなわけ?」

「言葉が軽いから。」


 桜井が葎成に冷ややかな目をして言う。


「絢は違うのかよ?俺の方がレベル上だろ?」


 私は桜井を見ると桜井は微笑み私は顔を赤くする。


「何その違いよう。絢。性格教えろ今すぐ絢の性格吸収してやる!」


 葎成は両手を広げ口角の形をし桜井を頭の上でまさに嚙みつきかける。


「やめろって!」


 桜井は葎成の手を払い除け二人して軽く遊びだす。


「まぁ。絢も吸収しないといけない事あるだろ?ほら!」


 葎成は小さな紙袋を桜井に渡し、そっと受け取り中身を見る。


「サ…ンキュ…。」

「すごくいい匂いが…。」


 ボソッと言うと桜井は紙袋を私の膝に置く。


「えっ?これは煜さんが桜井さんにだから…。」


 葎成は私の膝から紙袋を取り上げまた桜井に渡す。


「絢桜にはまた買ってやる。だから今は絢がこれを食べろ。」


 桜井は葎成から受け取る。


「煜さん、それなんですか?」

「これはトマレタカリカリチーズだ。」


 スラッと言われ食べ物だとわかったがさっぱり理解できなかった。


「いつも会社の前に平日だけケータリングカーでホットサンドの販売をしている。でっそれがこれ!今日はたまたま見かけて購入。絢はいつもこれを食べているからそれを買ってきたという事だ。」

「食べたい…。」

「絢桜好きそうだしな。けど平日の朝から昼間だけだから絢桜にとってプレミアムかもな。」

「うっ。悲しいことをさらっと言いました?」

「敬語ちゃん!あっ拗ねたぞ!」


 桜井は可笑しかったのか急に笑い出し、私と葎成も笑いあった。学校も運良く休みの日で月曜日には行けるようになった。心配してた母に連絡すると話さなかった私が悪いと説教され反省をしそのあと体調も戻りいつもの日々を送っていた。



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