恋ベル14

 腕の傷口も徐々に塞がり精神的な事も今の自分が幸せであまり深く考える事はなかった。暫くして桜井から家に電話があり、桜井とデートをする事になったがまだ安静と言われドライブをしていた。助手席に座っていたが緊張で手汗なまま鞄を抱える。


「絢桜。腕痛むか?」


 桜井は運転しながら心配そうな口調で尋ねる。


「ううん。もうだいぶ良くなってるから大丈夫。」

「そっか…。他に悩んでる事あったら遠慮なく言ってきてほしい。」


 きっと桜井は怖い思いした私に少しでも安心できるところを作ってくれてるんだと思うと嬉しくて鞄をまた強く握る。


「優しいですね。」

「急に敬語?」

「…本当はね。すごく怖い。また何処かで会うんだろうなぁと思ったり、知らない人に近付かれたりすると体が震えるんだ。すごく迷ったんだ。事件性にするか示談にするか、けど私も責任あったりするのかなと思ったりして色々考えてたら涙しか出てこなくて。勿論許されない事かもしれないけど許そうって思ったんだ。」


 話をしている途中で涙が流れ体も少し震えだした。桜井は車を駐車させるとそっと私を抱きしめた。


「…暖かい。」

「絢桜…守れなくてごめん。」


 悲しげに言う桜井に私は強く抱き締め返す。


「痛い…。」


 パッと体を離すと二人でクスクスと笑う。


「ありがとう。」


 笑顔で桜井に言うと桜井は私の頭をクシャクシャと撫ぜた。久しぶりに短い時間だけどゆっくりと色々話して楽しい時間を過ごした。家の近くのいつもの場所で車から降りるが家まで送ると言い桜井も車から降りる。


「絢桜?」


 声がする方を見ると仕事帰りの母だった。桜井は私の横に立つと直ぐに頭を下げる。


「先日は驚かせてごめんなさいね。」

「いいえ。こちらこそ娘さんに大変怖い思いさせてしまい申し訳ございません。」

「いいえ。もう解決してますので。…桜井さん今時間ありますか?ボロいですけど家に上がりませんか?話がありまして。」


 母がいつもと様子が違っていた。桜井は私を見るがよくわからない私は首を傾げ、家に着き桜井と共に入る。母が座布団を引くと座るように伝え、桜井は正座をし緊張気味に座り私は桜井の横に座る。


「狭くてごめんなさいねぇ。」

「いいえ。それより話というのは?」


 先ほどの柔らかい口調の桜井ではなく仕事の口調で母に尋ねる。


「桜井さんは絢桜の事どう思われてますか?」

「お母さん?」


 桜井は今にも立とうとする私を阻止する。


「絢桜さんの事はとても私にとって大切な存在です。まだ付き合って短い期間ですけど、これから一つずつ幸せな日々を作っていきたいと思ってます。歳も離れてますが私は関係なく絢桜さんと一緒にいたいと思ってます。私が好きで堪らないんですけど。」


 桜井の話す言葉があまりにも嬉しくて泣きそうになり母は私に微笑む。


「実を言うとね。お母さん、仕事の関係で転勤になったの。場所も遠くてこの街から離れないといけなくなっちゃって。」

「嘘でしょ?ねぇ?お母さん?!」


 衝撃な事に私は声を上げる。


「絢桜。落ち着きなさい。前の事もあって絢桜が心配だから連れて行きたいけど、絢桜はきっとここ離れたくないと思うの……桜井さん。無理なの承知ですが、絢桜と一緒になっていただけませんか?」


母は頭を下げ、私は母の側に行き腕を掴む。


「お母さん。私はここで一人で住むよ!」

「それはダメ。危ないしこのアパートはセキュリティもないから。だからここに住みたいなら桜井さんと一緒になること。それならお母さんは安心して仕事に行けるから。」

「それ…一緒に住むってことだよね?」

「そうだよ。絢桜。今、絢桜の心の中にいる人は誰?もうお母さんじゃないでしょ?自分を信じなさい。」

「だけど……。」


 母は私に満面な笑顔で答えるが私はどこか寂しくて涙が溢れる。


「お母さん。私は、絢桜さんと一緒になる事は嬉しく思っております。」


 桜井は膝に置いてる自分の拳を強く握る。


「桜井さん。絢桜に何かあっても、私は直ぐに来れません。桜井さんに絢桜を託していいですか?」


 桜井は何かを決心したような顔つきになり座布団を横によけ姿勢を正す。


「お母さん。絢桜さんと結婚させてください。」


 桜井は母に向かって頭を下げ、私は桜井の言葉にただ驚く事しか出来なかった。


「よろしくお願いします。ほら絢桜。」

「えっ。結婚って高校生だけど。」

「絢桜、結婚できる歳だから。ただし二つ約束していいですか?」

「ハイ。」

「絢桜が決めた事はさせてあげてください。結婚したらなんでもありですけど、絢桜が決断した時に夫婦の営みを。」

「お母さん!!!」

「ハイ。わかりました。」

「桜井さんもわからないでくださいそこは!はぁ。」


 母は笑い桜井は真剣な顔で私を見ていた。


「よかったね。」


 桜井はお母さんに抱きつく私の姿を見て微笑み、私と桜井が一緒に暮らす事と結婚する事が決まり、深く礼をし帰る桜井を見送った。


 仕事の休みの日を合わせて婚姻届を役所へ貰いに行きお母さんの前で二人の名前を記入し母が保証人に名前を書く。


「よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

「絢桜、しっかりね。お母さん、安心して仕事に行けるよ。」

「お母さんある意味強引だよね。大事にしてた娘を結婚にもっていくなんて。」

「そうかしらそれもありだと思うよ。特に桜井さん大人だしね。お母さんもちゃんと見極めてるよ。」


 桜井に聞きえるか聞こえないかの声で話す。


「後は荷物だね。絢桜は先に引っ越ししなさい。お母さんは後で引っ越しするから。」

「引っ越しの前の日にくるからね。」

「うん。」


 私と桜井は婚姻届を書くために近くの個室があるカフェに入る。


「なんか…急展開で私はまだついていけないんだけど大丈夫なのかなぁ?」

「あはは。俺は絢桜がいれば大丈夫。ただ俺の保証人がいなくて。」

「桜井さんの両親は?」

「うん?お母さんから聞いてない?」

「えっ?え〜!?お母さん!聞いてません。」


“そんな大事なことを…。”


「あはは。俺の親はね。二十歳の時に交通事故であの世。」

「そうだったんだ。ごめんなさい。どうするの?」

「いるのはいるんだけど。まぁ報告も同時にできるからいいか。」


 桜井は誰かを考えていたのか微笑みながら話していた。婚姻届は桜井が預かり、私も井下に報告しないと思っていたがどう伝えようか言葉が見つからなかった。


 夏休みも終わり今日は始業式。放課後話があるという事で井下と学校の屋上で話す。


「シザ。どうしたの?話って。」

「クロ。…私…結婚しちゃった。」

「へぇ。結婚ねぇ。……えっ!?誰と?!結婚したの?!初恋結婚!?」


 井下は私の肩を両手で持ち強く遊佐ぐる。


「痛い痛い。」


 井下は肩から手を離す。


「ごめん。おっおめでとうという前にまさか…。」

「桜井さん。」

「何その展開。何かあったの?」


 私は井下に母の事を話した。


「けどお母さんの気持ちわかるかも。けどよかったんじゃない?私はシザが決めた事と幸せなら全然オッケイだから。」


 井下は満面な笑顔で答えてくれる。


「大好き!!」


 私は嬉しくて井下に飛びつく。


「私も好き!シザが奥さんなんだぁ〜けど学校のみんなには内緒だね。そっか奥さんなっちゃうんだね。」

「だね。あはは。」


 井下と笑い合い涙しながら嬉しさを分け合っていた。その頃桜井は葎成の社長室の前にいた。心決めノックをし部屋に入っていく。


「…絢。ってなんだ?忙しい。」

「今休憩してるしか見えないけど。」

「チェッ。」


葎成はパソコンから手を離し、椅子の背もたれにもたれる。


「葎にサインしてほしい書類があって持ってきた。」

「どれだ?」


 桜井は葎成の机に婚姻届を広げ、その書類を見ると葎成は立ち上がり桜井を見る。


「…正気か?」

「ああ。絢桜の母親とも話ついてる。」


 葎成は気が抜けたように椅子に座る。


「詳しく教えろ。」


 桜井は私と母の話をし葎成は納得しない顔をしていたが暫くしてサインする。


「でっ。式とかは?」

「それはまだまだだ。絢桜が社会出るまでの約束だから。」

「そっか。なら会社ではお前達が結婚式挙げるまで報告なしだ。いいか?」

「ああ。」

「はぁ。ほんと絢桜と出会って俺の心臓を何度えぐるんだ。まぁその方が俺は楽しくて飽きないけどな。」

「人の嫁で遊ばないでください。」

「まだここに書類あるうちは違います!」


 桜井は書類を取り上げると、あっさりと社長室を出て行く。


「絢が結婚ねぇ。大丈夫なのか…?」


 葎成は桜井の後ろ姿を見て微笑むがどこか不安な顔で眺める。書類もサインができたという事でちょうど付き合って二ヶ月の日だった為二人で手を繋ぎ役所に提出し夫婦となった。

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