恋ベル12

 花火大会の日、私はバイトで通行する人達に飲み物を屋台で売っていた。花火も始まり微かに見える花火。いつも見る花火は半分だった。確実な花火が見られる日が来るときは私の隣にも誰かがいたらいいなっと思っていた。バイトは相変わらずな忙しさで花火は鑑賞はできずだった。二十時過ぎた所で店長はキリのいいところであがるよう伝えに来る。服に着替え帽子をかぶり裏口から出るとそこに桜井がいた。私は驚き暫くその場に立ち尽くしていた。桜井は私に気づくと目の前まで近づき手を差し出し微笑む。


「お疲れ様。」

「…はっ…い。」


 あまりの緊張で何を言ったのかも分からずぎこちない手を添える。ドキドキする中、桜井の暖かい手をぎゅっと握り、幸せな気持ちを感じていた。暫く手を繋いだまま葎成の会社に行くとビルの標識にtwine sun extend を見つけた。そこは高層のビルで最上階はほとんど葎成の会社名だった。ビルに入りエレベーターに乗り込む。桜井は五十階のボタンを押し私はその数字を見て目を開く。


「五十階?」

「ああ。俺たちはこのビルで働いてる。五十階は宴会で五十五階は葎と俺が使ってる。」

「会社見た時はビルの高さに驚いた。なんというかもう世界が違うね。」

「そうでもないよ。俺はまぁ絢桜の世界でいたい。」


“えっ?えっと…。どう返したら…。”


 返答に困り顔を上げると優しい顔した桜井がいた。私は恥ずかしくなり下を向くがすぐに嬉しい顔を返し二人で手をぎゅっと握り合う。エレベーターが五十階に到着すると桜井は私の手を離す。


「ごめん。ここから副社長だから手は繋げない。」


“そっか。そうだよね。”


「うん。大丈夫。」

「けど横にいるから。」


 小さく頷くと同時に桜井が勤めている会社を見れる事に私は嬉しく思っていた。一つのドアを開けると解放感に溢れた世界だった。沢山のコンピューターがあり色々な雑貨物があり、デスクも個性あるもので働いている人たちも輝いていて高校生の私には憧れる社会だった。私は感動して突っ立ていると先に歩いていた桜井が戻ってくる。


「どうした?」

「ううん。」

「向こうに皆いるから行こう。」


 ただただ桜井の後ろをついていく。社員達は私をジロジロと見ていた。その目は何かを言われてる気がし少し怖かった。


「おう!絢桜!待ってたぞ!」


 葎成は窓側に半分だけ腰をかけ手を挙げていた。手を挙げたまま顎で何か合図するが私はそれがわからなかった。


「手を挙げてください。」


 桜井は私の耳元で囁き微笑む。ゆっくりと手を挙げると葎成は私に向かい合い手をタッチする。葎成はふっと笑うとお酒をクイっと飲む。


「社長にタッチを求められると特別な存在。だから堂々としてていい。」


 戸惑いながら頷き桜井に案内され井下の所へ行き私達は抱き合う。


「おかえり!」

「ただいま!」


 私は井下を見つけやっと安心した。


「終わっちゃったね。花火見れた?」

半火はんび。」

「あははは。あそこからはそうだよねぇ。帽子取らないの?」

「うん。ここの会社の人よくうちの店に来るから、それにばれたらややこしそうだし。」

「そっか。」

「どうぞ。」


 桜井は私に飲み物持ってくるとそれは別荘で飲んだブラッドオレンジだった。私はグラスを持ちブラッドオレンジを眺め嬉しい顔をする。


「ありがとう!」

「嬉しそう。」


 井下はニヤリとしながら私の顔を覗く。


「ブラッドオレンジがね。」

「…なんだしけた。」


 井下の面白くない顔を見て桜井はクスッと笑う。


「お前ら!各自解散。」

「は〜い!」


 葎成は社員に掛け声をかけ返事をするが誰も帰っていかず、各自でそれぞれ飲み会が始まった。突然電気が消えテーブルに用意されたランプが点灯し部屋の綺麗さに感銘する。井下に肩叩かれ指差す方を見るとそこはビルから見る絶景だった。私は我慢できず涙が溢れ出す。


“きれ〜。すごい。なんていうかもう幸せすぎて怖いかも。”


 窓ガラスに映る自分の姿を見て窓に手を添える。


“…私の姿。この景色と全く…不釣り合い。”


 そう思っていると後ろに桜井の姿が窓に移され、目が合うと二人で微笑み、またその事で涙がいっぱいになり今にも溢れそうだったのを耐えた。外の景色に目を戻しまた眺め、世の中にこれだけの人たちが光輝くくらい幸せなんだってその時思った。


「絢桜と古乃実。」


 葎成は私達に声をかけ携帯電話を出す。


「写真撮ろうぜ!」

「えっ?!それはちょっと。」

「シザ撮ろうよ。」


 戸惑う私を気にせず葎成は携帯電話を桜井に渡し、桜井はカメラマンになっていた。


「井梅さん。帽子を脱いでいただけますか?」


 そっと帽子に手を置くが脱げないでいた。葎成は何かを察したのか。


「絢。」


 葎成は人差し指を上にさすと桜井は頷く。


「じゃぁ。俺は先に帰るなぁ。後は頼んだ。」

「お疲れ様でした!」


 社員が全員礼をし、私と井下は顔を見合わせ首を傾げる。


「君たち、もう遅いから帰りましょう。」


 桜井はそう言うと私と井下を案内し部屋を出て行く。そのままエレベーターを乗るが下ではなく上に上がっていた。私達は互いに首を傾げそして五十五階で止まりエレベーターを降りる。そこには社長室と副社長室のプレートがあった。私達は桜井についていき社長室に入る。そこもまたシンプルで何もない机にパソコンとソファがあるだけだった。暗いまま部屋に入っていくと椅子に葎成が座っていた。


「ようこそ社長室へ。」


 まるでテレビで見る光景だった。葎成は社長の顔をしていた。私はドキッとした。


「さて。さっきの続き撮ろうぜ!写真!」


 そういうと葎成は私の帽子を取り上げ、葎成は微笑む。


「可愛い。」

 

 葎成に見つめられ私の心臓はまた飛び跳ねた。


「あれ〜。初抵抗なし?」


 私は葎成を見るがなぜかいつものやり取りができずドキドキしていた。何かを察した葎成は椅子に座り私と井下を手招きする。近づくと右腕に井下。左腕に私。葎成の膝に座らせられてた。私と井下は二人して赤くなり桜井はデジカメを持っていた。


「撮りますよ。」

「絢。お前も入れって!」

「ああ。」


 桜井はタイマーをセットし社長の座る後ろに立つ。写真を撮り全員で確認し何度か四人で撮りその後葎成がカメラを持つ。


「絢と絢桜並べ。撮るぞ。」


 私と桜井は呆然とする。


「早くしろって。」


 桜井は私の手を引っ張るといつの間にか後ろから抱きしめられ今にもまた心臓が口から出そうだった。カシャ。


「いいねぇ。絢桜の表情。もう一枚撮るぞ。」


 私と桜井は何度か写真を撮られた。しばらく写真を撮ってはおかしなポーズしたり遊びカメラ撮影になっていた。時間が経ち井下はお手洗いのため桜井に案内をお願いし、部屋には葎成と私の二人っきりだった。


「葎成さんはここで仕事されてるんですか?」


 窓からの景色を眺めながら尋ねる。


「敬語。ってかここ俺の部屋だし。仕事してるけど。」

「何もないから気になって。」

「あ〜。基本俺、物あるとダメなんだわ。そこに気が散って集中力が途切れる。だから何もない空間でいてる方が休まるし捗る。」

「そうだったんだぁ。」

「何々俺のこと気になった。」

「不理解。」

「言うねぇ。絢にはそんなこといわねぇくせに。」


 図星を言われ赤くなる。


「あはは。わかりやすい。けどそういう所可愛いね。」

「それ言うの禁止です。」


 葎成は私の後ろに立つと窓に手を当て私を囲む。


「絢桜。本当可愛い。」


 その場から固まりドクドクと心臓が体に響く。


「まだまだダメだな。蹴り飛ばすくらいしないと男本気にしちゃうよ。けど恋愛系の言葉発されると弱いんだ。いいこと覚えた。けど俺に対しての警戒心弱くなったのかもな。」

「私で詮索しないでください!」

「あははは。」


 そこに井下をトイレまで案内してた桜井と井下が帰ってくる。桜井は私が顔を赤くしてる姿を見て瞳が怒りに変わりそのまま葎成に目を送ると葎成は舌を出す。桜井は小さくため息をつく。


「そろそろ送ります。」

「ありがとうございます。」

「葎はどうする?」

「俺は仕事する。」

「送ったら戻ってきます。」

「ああ。待ってる。」


 葎成と別れ私と井下は桜井に家まで送ってもらう事になり、先に井下を下ろし家に着いた私は車から降りると桜井も降りる。


「今日はありがとうございます。すごく楽しかった。」

「俺も絢桜に会えて嬉しかった。いつでも連絡して。」

「うん。」


 私と桜井は見つめ合い微笑み、車に乗り込む桜井に手を振る。少し寂しいと思う気持ちも幸せで溢れる想いも大切にしようとそっと胸に自分の手を置いた。そんな幸せな日を過ごしていた私にこの後とんでもない事件に巻き込まれてしまう。





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