恋ベル10
夏の夜は少し肌寒く冷たい風が吹いていた。そんな事も気にせず夜空に輝く星を掴みたくて必死に掴んでいた。
「綺麗。綺麗すぎて、届かない存在。掴みたくても絶対手に入らない。私はそんな届かない存在になりたくないって思ったりする。だけど本当は自分の存在を知ってほしいって思ってるのかな。」
心にある恋しい気持ちに彷徨い、両手を上げ星を掴もうと何度も掴む。その時、手を掴まれ私は何が起こったのかわからなかった。起き上がり手の掴まれてる相手を見ると桜井だった。
「驚かせてごめん。必死に掴もうとしてたから俺が掴んだ。」
恥ずかし過ぎて下を向く。夜のため顔の色は見えないけどきっと真っ赤になっていた。桜井は私の座ってる横に寝転ぶ。桜井は微笑むと横に寝るように手で合図する。私は照れながらゆっくりと桜井の横に寝転ぶ。
「綺麗だね。」
「ハイ。」
「敬語。」
「うっ。ごめん。」
風が優しく桜井の香水を私に送る。
「桜井さんって香水つけてる?」
「ああ。少しだけだが嫌だった?」
「ううん。いい香りがするので私がほっとしてしまって…。あっ。ごめんなさい。」
私の心臓が心配なくらい音がドキドキしていた。
「あはは。それはいい方に取ったらいいのかな?」
“えっ?いい方…。”
恥ずかしくて戸惑っていると桜井は嬉しそうに私の頭を撫でる。
「絢桜。俺はどんな時でも絢桜の味方だから。何かあったらすぐ連絡してきていい、何もなくても連絡くれると嬉しいかな。」
「…はい。」
ふと触れた桜井の手に私はビクッとすると包み込むように手をぎゅっと握られ私は一気に心臓の音が上がる。
「ごめん。嫌だったら離す。」
首を振ると桜井は微笑む。
「桜井さんは、どうして私には優しくしてくれるんですか?」
「そうだな。絢桜が気になるからかな。」
“…そんなこと言ったら…期待しちゃうよ。”
私は何も返す事できず夜空をただただ眺めていた。
「俺、前に十年以上は彼女いないって話したこと覚えてる?」
「うん。」
「その話をしていいかな?」
「うん。」
「昔から俺は女に不自由はないんだけど。」
「自慢ですか?」
「あはは。そういう意味じゃなくて……俺、一度その時の彼女を殺しかけたんだ。」
その言葉に身体中から力抜け、握る手に力が入る。桜井もそれに答え強く握る。
「絢桜に話するのもと思ったけど、知ってほしいって思ったから。」
「うん…。」
「…俺は高校の時に初めて彼女ができた。それまで色んな子に告白されていたけど自分が好きな子と付き合うって決めてその子と付き合った。最初は幸せだったけどその幸せも一瞬で壊れた。他の女の子達が彼女に逆上し傷めつけ、彼女は耐えられなくて学校の屋上から飛び降りた。幸い命には関わらなかったけど。俺たちは話し合って離れることになった。その方が元に生活が戻ると思ってた。けど別れた途端彼女は一人になっていて俺は守ることも何もできなかった。その後も彼女は俺から消えるように転校して…。だから…俺…また…」
桜井はそこまで話すともう一つの手を自分の額に置く。その姿はその時の後悔と絶望を思い出しているようだった。
「…二人は悪くない。だけどただ単に互いにその事から逃げただけじゃないですか?本当の幸せなんて自分たちで作らないと意味がない。だけどその意味を重ねて重ねて大きくなっていたものを一瞬で裏切られる気持ち私は知ってます。その時の気持ちと目の前に映る景色も。」
そこまで言うと両親の離婚時を思い出し苦しくなり胸を押さえる。桜井は起き上がり私を起こすと抱きしめる。
「ごめん。…絢桜の言う通りだ。俺はずっと立ち向かおうともせず逃げていた。絢桜と出会った時からずっと守りたいって。だけどまた同じ事が起こると思うと怖くて見守っているだけでもよかった。けど今は本気で絢桜と一緒にいたい。俺はこの出会いを失いたくない。」
突然な告白に私はただ驚くしかなかった。
「…私も…一緒にいたい…です。」
自分で言った言葉に今にも心臓がはちきれそうで息も止まりそうだった。桜井はそっと私を抱きしめる手を弱め私を見つめる。
「絢桜。こんな俺だけど俺の女にならないか?」
桜井はどこか照れながら言うが目が本気だった。私は吸い込まれそうな目から逸らす事できず小さく頷くと桜井は強く抱きしめた。
「ありがと。絢桜。好きだよ。」
一気に心臓の音が溢れ身体中で響いていた。
「クシュン。」
「…えっ?このタイミングで?ふっ。風邪ひくとよくないから部屋に戻ろう。」
桜井は手を差し出すとその手を私は恥ずかしく掴む。そのまま部屋に戻りリビングに行くとカランと音がなった。音がなる方をみると葎成だった。
「よぉ。」
「葎。」
葎成は私と桜井の強く握った手を見る。
「絢桜。絢をよろしくな。」
「葎。恥ずかしいからやめろ。」
「絢、付き合え。」
葎成は片手にお酒の入ったグラスを桜井に向け上げる。
「ああ。」
桜井は私と手を繋いだままソファに座り葎成と桜井はお酒の入ったグラスで乾杯する。私は気持ちの高鳴りも落ち着き、睡魔が襲い自然と桜井にもたれ、桜井は優しく微笑み優しく頭を撫でた。
「こうやって見ると高校生だな。」
「ああ。」
二人の声を眠り歌のように聞こえいつの間にか寝てしまっていた。桜井は私を抱き上げ私の使うベットに寝かし再びリビングに戻って葎成とお酒を飲む。
「しかし、絢が高校生の女とはなぁ。けど絢桜は高校生に見えないほど大人な考えだからな。」
「ああ。俺、絢桜に名刺二枚渡してた。」
「マジ?」
「カフェで出会った時とホテルの帰りとまさか同一人物だと思ってなかった。」
「絢が女に自分から話しかけたので確信したな。けど俺が言いたいことわかるか?」
「ああ。気をつける。」
「ならいい。けどもし絢桜を泣かしたら俺が貰い受けるぞ。」
葎成は桜井を見てニヤリと笑うがその笑いと共に本気の目をしていた。
「そうはさせない。」
「けど、絢は高校生の恋が好きなのか?高校から進んでないぞ。あはは。」
「かもな。」
葎成はグラスを上げ桜井に向け乾杯をする。
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