恋ベル9

 洗い物も食洗機に任せて四人でリビングの広々としたソファでカードゲームをしていた。


「やったー!また勝った!」

「クロ、相変わらず強いね。」

「俺もうやりたくない!負けるからやらん!」

「子供。」

「子供…。」

「でかい幼稚園児。」

「お前らー!俺!社長!」

「だから?」

「うわ〜。はぁ〜あ!コーヒー飲みたくなってきた!」


 駄々こねた葎成がソファにもたれながら言うと私は直様立ち上がる。


「私、淹れてきます。座わっててください。」


 キッチンに行きあれこれ棚を開けてコーヒーを探す。そんな姿を見て桜井は微笑む。


「絢桜は高校生なのにすごいな。なんでも出来るんだ。」

「でしょ〜?お嫁にしたいでしょ?」

「楽しそうだしな。」


 葎成は桜井を見ながら答え、桜井は葎成を冷たい目で見る。


「無理してるけどね。」


 井下の言葉に葎成と桜井は井下を見る。


「どういう事?」

「…う〜ん。なんだろ、動く事で自分の気持ちをコントロールしてる。昔からなんだけど自分のワガママを言わないんだ。高校に入って更にアップしたかな…人の事ばかり先に考えてきっとシザ自身が捨てられる事に怯えてる。必死でなんでもできる自分を作って安心してはいけない自分でいようとしている。」

「なんか、難しすぎてわからないんだけど。君達本当高校生?」

「女子高生です!」

「昔、何かあったのですか?」


 桜井は真剣な目で井下に尋ねる。


「…あまり言えないんだけど一年前シザの親離婚してるんだ。シザのお母さんは看護師だから日常生活はバラバラで…仕事だからどうしようもないのに家庭的な事何もしてないって責められて…それでお父さんが家庭的な女性を選んで家を出て行ったみたい。」

「けどそれは男の勝手だろ?」

「そうかもしれないけどシザは自分で捨てられたって思ってる。」

「なんか聞いてるだけど胸のあたりが苦しめられる。」


 葎成はソファ座りながら私がテキパキと動いてる姿を見ては顔を曇らせ、桜井も私を見ては悲しげな表情で見つめる。


 コーヒーをお盆に置き持って行こうとすると手首に痛みを感じる。先週やっと外れたギプス、その痛みに嫌な予感していたその時手からお盆が取り上げられる。


「俺が持っていく。」

「あっ。ありがとうございます。」


 桜井はお盆を持ち私は桜井の後に続いて歩きそれぞれにコーヒーを配る。


「桜井さんはコーヒーフレッシュと角砂糖一つずつですね。葎成さんはミルクのみですね。クロはコーヒーフレッシュが二個と角砂糖一つね。」


 葎成と桜井は私の行動に耳を疑う。


「なんで知ってるの?」

「えっ?以前カフェで入れてたの見てただけです。」

「それだけで?凄いね。」


 私は話しながら角砂糖五個とコーヒーフレッシュ五個をすばやく入れていく。その姿を見ていた葎成はコーヒーを吹き出す。


「ブー。絢桜、何してんの?」


 井下はテーブルを拭きながら笑っては桜井も呆然としていた。


「コーヒー飲んでます。」

「わかってるけど。…もはやコーヒーじゃないと思うけど。」

「私のオリジナルコーヒーですので気にしないでください。」

「わかったわかった。けどさっきから思っていたんだけど敬語なしで。」

「えっ?」


 突然の葎成の敬語なしに私と井下は同時に言葉を発する。


「俺、別に君たちなら敬語なしでも全然いい。その方が打ち解けやすいし。だから今日からなし!わかった?絢もいいだろ?」

「ああ。」


 私と井下は小さく頷く事しかできなかった。


「もう一個聞いていい?君たちの呼び名一体どこからきてるの?シザちゃんは井梅絢桜だし、クロちゃんは井下古乃実だし。」

「それは。全く関係ないんだ。私達は小学校で出会って一瞬で仲良くなったんだ。互いに誕生日を聞き合ってる時に誕生日の花を探す事になってそこで見つけた花の頭文字。」

「そうだったんだ。シザちゃんは?」

「シザンサス。」

「クロちゃんは?」

「クロサンドラ。」

「全くわからない。」

「二つの花言葉は『友情』ですね。」

 

 桜井はコーヒーカップを持ちながら答える。


「絢!わかるのか?」

「まぁ。」

「桜井さん正解です!凄いですね、誰も食いついてこなかったよ。」


 井下は桜井に拍手し私と桜井は目が合い微笑み合う。その後誕生日の話になり花言葉は何になるのかそんな話をし時間が過ぎていった。葎成と桜井はお酒を飲む事になって私達はその間にお風呂に入っていた。


「ねぇ。シザ、桜井さん好き?」


 また前も聞かれた質問に驚き広々としたお風呂にずり落ちそうになった。


「好きだよ。」

「今回は迷わなかったんだ。」

「うん…本当好きってわかるというか。何をされるのもドキドキするし、桜井さんの事しか見てないし、考えてるし。最初はどうかしてるのかと思っていたんだけど好きにたどり着いたんだ…。」

「そっか。けどシザの難関は想い伝える事でしょ?」

「うん…良くないと思うけど先のこと先のこと考えてしまう。相手は大人すぎて余計に悩む。」

「だよね。三十だもんね。私らと十以上違うもん。けど案外永遠ていう言葉もあるように永遠かもしれないよ。」

「永遠…。クロ、私さ正直怖いんだと思う…本当臆病すぎる。好きすぎて時に泣きそうになちゃうし、今も横にいてるだけで気持ちばれないように必死に隠して、伝えた後の自分がどうなるのか…。そんな事ばかり考えてて、ダメだよね。本当また泣きそう…。」

「よしよし。人を好きになるとそうだよねきっと。けどその涙は人の想いの涙だから苦しさに変えないで幸せなままの涙でいるんだよ。」


 お風呂ののぼせの暑さなのかそれとも気持ちの熱さなのかわからなかった。その頃ソファで酒を飲んでいた葎成と桜井も同じ話をしていた。


「絢。絢桜の事どう思ってる?」

「その質問答える義務ある?」

「ある。好きなんだろ?見てわかる。何年付き合いあると思ってる。確かに絢は高校最後の恋から恋をしなかったというか避けていた。今でも引きずっているのか?」


 桜井は葎成の言葉に衝撃的に心を壊す。


「だな。けどあれは絢が悪いわけじゃない。」

「けど俺は同じ事になると思ってしまう。あの時もそうだったんだ。」

「絢はモテるからな。社員でも騒いでる。俺より絢見てる女の方が多い。」

「羨ましいのか?」

「ムカつく。けど俺は思うには互いに色んな経験が根性を作り上げて、脆くないと思うよ絢も絢桜も。」


 葎成は桜井に向かって自分の胸に手をあて軽く叩き微笑む。桜井はどこか悲しげな表情を見せてはお酒を飲む。私達はお風呂をでてリビングに行くと絵になってる二人の姿があった。私達が階段から降りてくると彼達は二人してこちらを見る。


「絢桜。……その格好は?」

「ジャージですが何か?」


 私は中学に着ていたジャージを着ていた。


「本当裏切らないねぇ。」


 葎成と桜井はクスクスと笑いお酒の入ってるコップをテーブルに置く。


「だから言ったじゃんやめときなって。」

「私にはパジャマは存在しないから。」

「パジャマあるから貸しましょうか?」


 葎成が言い、私は首を横に振るが井下は上下に首を振っていた。


「クロが着ているのはパジャマだよ。」

「だって高級パジャマ着たい。」


 小さい声で言うと舌を出す。


「しかし、君たち化粧してなかったんだね。」

「私たち化粧してないよ。周りはしてるけどまだ高校生だしね。スッピンでいれる時にいないと絶対二十歳超えると恐ろしいくらい仮面かぶらないといけないって思ってるから。」


 井下はそっとソファにかけながら話し、私はキッチンへ行き冷蔵庫から飲み物を出しグラスに注ぐ。


「仮面ね。俺らの女子社員全員仮面じゃん!あははは!しばかれそう!」

「クビになるなきっと。」


 桜井のクビという言葉に私はふと思い出し、グラスを手に持ち一つを井下に渡しソファにかける。


「あの。以前私に水をかけた人ってクビになったのですか?」


 葎成と桜井は驚いた顔を見せ二人は顔を合わせる。


「ああ。あれはしていけない行為だから。うん?どこからか聞いたのか?」

「本人から。」


 その言葉に葎成と桜井はまたお互いを見る。


「本人?!どこかで会ったのか?」

「いえ。お店にお客様としてこられていておしゃっていたので。」

「情けねぇ。けどなんで絢桜に話してるの?」

「仕事中にも関わらずナンパされて聞かされました。」


 葎成は私の言ってる意味がわからないのか顔が固まっていた。


「けどあいつ絢桜に水をぶっかけたんだよな。理由しらねぇけど。」

「聞きたいなら話しますが?」

「聞きたい。」


 葎成は顔つきが変わりニヤリと笑みを浮かべる。


「あの日は後で来る私のことを彼女達がなぜか可愛い子と教えていたそうです。昭和スタイルの私に期待を裏切ったということでお酒を出されました。それを無視をしたら水をぶっかけられその後お客様としてこられて接客をしていると名前を聞かれ自分でクビになったって話していました。いかがでしたか?」


 葎成は私が話が終わると下を向いて笑い始める。


「面白こと話してないのですが。」

「絢桜の話し方があまりにも面白くて。けどあいつダメだな。本人って気づかす自分の恥晒はじさらししてる。」

「人のこと嘲笑うと痛い目にあうぞ。」


 桜井は呆れながら言い、葎成はいたずらをするような子供みたいに笑う。


「絢桜、敬語なしって言ったと思うけど。」


 ハッと気づき手で頭を触る。


「ごめんなさい。ごめん?なんて言うの?」


 そんなパニックを急に起こしたことに全員が大爆笑する。夜も遅くなり各自部屋に入り寝ることになった。私はなぜか興奮して眠れなかった。こんなに楽しいことが初めてで胸がワクワクして起きていた。そっと窓から夜空を見ると綺麗に星が輝いていた。コッソリ部屋を出て庭に寝そべり仰向けになると手で星を掴む仕草をしては夜空を見ていた。

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