恋ベル8

 別荘宿泊当日。待ち合わせ場所へ向かっていると井下がトランクタイプのスーツケースともう一つのスーツケースの上に座って手を振っていた。


「おはよう!」

「おはよう…ってクロ中身何入ってるの?引越しみたいだけど?」

「何言ってんのよ!女子は色気たっぷり!おしゃれする為にたくさんの道具必要よ。ってシザ、その何も入ってない丸い鞄。」


 井下に言われ私は鞄を軽々と持ち上げる。


「立派なドラムバックだけど…。中はね、下着と服とジャージと生活用品くらいしか入ってない。」

「水着は?」

「持ってないからない。」


 井下は呆れ顔見せてはその場にしゃがみ込み大きなため息をつく。しゃがみこんだ井下を引き上げようとした時、待ち合わせの場所に一台の車が止まる。私達は車を見ては顔を見合わせる。ゆっくりと車の助手席の窓が下り、サングラスをした葎成が顔を出す。


「よお!何しゃがんでんの?」


 葎成は私達を見てサングラスを下げては尋ね、運転席からは桜井がこそっと顔を出す。路肩に車を停めると二人が車から出て私達の側まで来る。


「荷物積みますね。」


 井下は桜井にスーツケース二つを渡し、何も気にせず簡単にトランクに入れた。


「井梅さんの荷物は何処ですか?」


 桜井が周りを見渡している姿を見た私は肩にかけていたドラムバックを手に持ち替え桜井に向かって差し出す。


「これです。」

 

 桜井と葎成がドラムバックを見てはしばらく黙っているかと思うと。


「ぶっ!あははは!修学旅行行くの?」


 葎成はその場でお腹を抱え爆笑し、私は冷ややかな目で見る。


「必要最小限なものです。…これでも生活できます!」

「そうだな。」


 葎成は先程大笑いしていたのにも関わらず、車のドアに背中を預けると突然表情が変わり優しくにこりと笑いかけた。


「ねぇ。この車何ていうの?初めて見るんだけど。」


 井下は車が気になったのか恐々と見ていた。


「井梅さん荷物入れますので。」


 桜井はそっと荷物を私から引き取るとトランクに入れる。


「これはメルセデス・マイバッハっていう車。」

「わかんないけど高級車だよねぇ多分…。」


 井下は小さい声で言いながら車を覗き込んでいた。葎成は車から背中を外すと後部座席を開ける。


「では、行きましょうかお嬢様達。」


 軽く小さく頭を下げ、ドアを開ける葎成に私と井下は胸を高めた。恐る恐るゆっくりと入るが車内はすごく広くて座ると体にすっぽりヒットし乗り心地は最高だった。


“すごい座席。体が何ていうか後ろから抱きしめられてるような…リラックスすぎる。”


「すごいー!これだけで倒れそう!」


 井下はテンションが上がり車の中で絶叫行動に私は必死に止める。


「クロ!落ち着いて座る!迷惑になるから!」

「!最も。」

「あはは!では向かいますか。」

「うん!」


 やっと井下は落ち着いて座り、車内は癒される香水が私の体に浸透し葎成と桜井をそっと見る。スーツを着こなしていた二人が今日は私服姿でお洒落な格好にかっこよくてドキドキしじっと眺めていた。


「後ろから絢桜に見つめられてる。」


 助手席にもバックミラーが設置されていて葎成は私を見て言う。


「見てないです。凄すぎて言葉が見つからなかっただけです。」

「あははは。相変わらずいいねぇ。素直になりゃいいのに。」


 桜井を見るが真剣に前を向いていて運転する姿に私はまた心臓がどくどくと鳴り始めた。私達は車の中で飲み物を頂いたり桜井抜きでカードゲームし、本当一生分の幸せを使ったように楽しい時間を過ごしていた。暫くして別荘に着き葎成の案内で部屋に入る。そこもまた豪邸というかなんとも言えないくらいの広さに私は立ち尽くしていた。


「どうされました?」


 後ろから桜井は荷物を両手に持ち、立ち尽くしている私の姿が気になり声をかける。


「本当に言葉にならないってこういう事ですね。圧倒されすぎて何も言えないです。」

「あははは。……絢桜。」


“えっ?”


 名前を呼ばれて桜井に振り向く。


「呼んでみました。」


 名前を呼べれあまりにも嬉しくて涙が出そうだった。桜井は少し照れた顔し荷物を中に運び始めるが段差に躓き転けそうになる。


「ぷっ。あははは。」


 私は照れた桜井の行動がおかしくて笑ってしまいそんな姿を井下は見て微笑む。


「あんなに笑うシザ初めて見た。私でも無理だったのに。」

「絢桜って笑わないの?」

「ううん。笑うんだけど本気で笑ってない。何処か寂しさを隠して笑ってる。気づかれてないと思ってるけど私にはわかる。桜井さんは本当シザの事少しずつ心を動かしてる。」


 井下は少し寂しそうに葎成に話しかけると葎成は井下の頭を撫ぜる。


「けど、絢桜は一番に井下さんの事考えてると俺は思うけどな。」

「…ってか疑問なんですけど何故シザの名前呼びなんですか?」

「井下さんも名前で呼んでほしい?」

「いいんですか?…けどやめておきます。調子に乗ってしまう自分が現れそうで。」

「何それ?あはは!」


 葎成はケラケラと笑い車からの残りの荷物を運ぶ。


 荷物を寝る部屋に置き広いソファに葎成と桜井は腰をかけていた。私と井下は部屋の窓ガラスから見える外の景色を眺めては井下は携帯で写真を撮っていた。夕食の時間になったがシェフが急に来れなくなった為、どうしようかと考えていた。


「シザ!いざ出陣!!」


 井下はいきなり立ち上がり私に向かって指令する。


「御意!」

 

 片膝をつき井下に礼をしキッチンへ向かうがその会話に葎成と桜井は大爆笑する。私は冷蔵庫を開けあまりの食材にしばし停止する。


「あの材料適当に使っていいですか?」


 彼達は一瞬で笑いがなくなったと思ったらまた爆笑していた。


「ってか急に冷静になんないで笑いをさらにアップだから。適当に使っていいよ。手伝おうか?」

「ハイハイ!ここはシザ軍に任せて私達はここで遊びましょうね!」

「シザ軍って何?君達おもしろすぎだし!」


 井下は彼達とリビングのソファでトランプや積み木倒しなどでして遊んでいた。その間に私はテキパキと料理を作っていく。あれこれと棚を開けては調味料を捜していたがほとんど使ったことがない物でラベルの表示を見ては料理できるものだけを選んでいた。


「これは多分この素材に合うのかな…。上手にできるか不安になってきたけど取り敢えずやりますか。」


 私はテキパキと料理をし、できる範囲の料理を作っていく。


「食勝利してきた。って出来たよぉ!」


 私の声と共に彼達と井下はダイニングテーブルにやってくる。テーブルにある『なんとなくできました料理』に全員が歓声をあげる。


「さすがシザ軍!!」

「凄いね!これはビックリした。」

「本当すごい。」

「さぁ。冷めないうちに食べましょう。」


 全員が席に着き私と井下は顔を合わせピースをする。葎成は一つに料理に目をやる。


「…絢桜。これ、パイナップル?」


 葎成はパイナップルの料理を指を差す。


「ハイ。缶詰あったので。使っちゃダメでした?」

「あっいや。パイナップルをこれは焼いてるのか?」

「ハイ。パイナップルを焼いて塩を少々あとベーコンを巻いてトマトとコラボ料理です。」

「パイナップル大好きだもんねぇ。面白いのも持ってるしね。」


 井下は私に嬉しそうに言うがその面白いものが何なのか知ってたため言わないでとアピールするけど遅かった。


「何?面白いのって?」

 

 葎成は私と井下に不思議そうな顔して尋ねる。


「えっと。」


“あれはクロとの大事なものだからあまり…。”


 言葉に躓くと井下が立ち上がり私の頭を撫ぜる。


“???”


「社長さんこれ美味しいですよ。」


 井下が話を変え、作った料理を取り葎成のお皿にポンポンと入れていく。


「俺が取るから入れるな!」

「さては好き嫌いあるのですねぇ?」

「あって何が悪いんじゃー!」

「あははは!」

「せっかくのパイナップルコラボ頂くとするか。」

「それではみなさん命に感謝し。いただきます。」


 葎成と桜井は箸を落としかけ、葎成はまたお腹を抱え笑っていた。そんな事も気にせず私と井下はご飯を食べる。


「ご馳走様でした!」

「お粗末様でした。」


 私は全員に返事をし、片付けをするのに食器を炊事場まで運ぶ。私は炊事場に置いた食器を洗おうと蛇口を捻りスポンジを手に取る。


「食洗機お使いください。」

「えっ?食洗機?」


 桜井になんの事かわからないまま聞き返すが桜井も返答に困っていた。


「ぷっ。すいません。食洗機を知らないと思わなかったので。」

「あるのは知ってるのですが実際には使った事ないので。」

「わかりました。教えますね。」


 桜井は食洗機の説明をし、それを私は真剣に聞いてはボタンを押し動き出す食洗機に小さく拍手する。その姿を見てた桜井は顔を隠し笑っていた。


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