恋ベル6

 ピッピッ…。目覚ましの音で起き時刻は朝の七時だった。横見ると店長は爆睡していた。顔を洗うために洗面所にいき髪を上げると手首の色が違う事に気づき、手首をよく見ると紫になっていて腫れあがっていた。驚いて焦り店長を起こしに行く。


「店長!店長!」

「う〜ん。どうしたの?」

「手首の色が紫になってる!」

 

 店長は私の手首を見て一気に目を覚ます。


「えっ!?痛みはある!?」

 

 店長は手首をそっと触ろうとする。


「触るの怖い…病院!病院行こう!」

「痛くはそこまでないんだけど…店長お店あるので私一人でも病院行けるので一旦帰って行きます。」

「一緒に行くよ!」

「大丈夫ですよ。まだ下に社長さん達いらっしゃると対応もあると思うので。」


 店長は少し申し訳ない顔をして念のためといって治療費を渡してくれた。帰る用意をしてすぐ家に戻り母には店長から連絡してくれる事になり、保険証を持って診療時間と共に病院に行く。病院に行くと結果、橈骨骨折だった。ギプスをされ左手が使えなくなってしまった。バイトもあるのに少し悲しくなりながら家に帰りベットに転がりゴロゴロとしていたら家の電話がなった。


「ハイ。」

「井梅ちゃん?どうだった?」


 店長は心配して電話をかけてきて、病院で言われたことを話すとバイトは治るまで休んでいいという事だった。けど私はそれを拒んだ。


「井梅ちゃんバイトしたいのはわかるけど。……困ったね…じゃぁ、そうね。レジお願いするね。レジは最も重要な役目だからね、間違いあったらそれなりの対処あるからね。」

「ハイ。心承知です!」

「本当頼もしいね。他の社員に聞かせたいわ。じゃぁ明後日だね。お願いね。」

「ハイ。ありがとうございます。」


 バイト行けないと思っていた為すごく嬉しかった。電話を切りホッとしていると続けて電話が鳴る。


「ハイ。井梅です。」

「シザ!遊ぼう!」

「クロ…。家電だから名乗ってください。」

「あはは。けどシザしか出ないじゃん。」

「確かに…じゃなくて。それより骨折しちゃって。けど荷物なしなら大丈夫だから行く。」

「骨折!?何あったの?」

「前の怪我が悪化したみたい。どこ行く?」

「大丈夫なの?無理だったらいいよ。」

「行くよ。」

「本当に!ではではランチしようよ。もちろんワンコインでいつもの店十一時半。」

「いつもの所ね了解。」


 電話を切り時計を見ると十一時だった。急いで出掛ける用意をし待ち合わせの場所までいくと井下は私を見つけると手を振っていた。


「ごめん。待った?」

「ううん。…本当だぁギプスが…。」


 井下は痛々しさが伝わったのか触ろうとする手が戸惑っていた。


「大丈夫だよ。クロ並ばないの?」

「それが…なんかお店満席っぽくて一時間待ちだって違うところ行く。ちょっとワンコインでは無理かもしれないけど。」

「そっか。たまにはいいんじゃない。贅沢ランチ行こう。」


 一度行ってみたいなっと思っていた所のお店に入る。おしゃれで社会人が仕事の間にランチをしている姿がたくさんあった。私達も席に案内され座り二人で微笑み合う。メニューを出され二人でテンションが上がり二人で違うの頼んで分けっこの話になり注文する。


「お待たせいたしました。ワンプレートAのお客様。」

「ハイ。」


 井下は喜びながら手を挙げる。


「こちらはワンプレートBなります。ごゆっくりお召し上がりください。」


 私達は二人で頂きますポーズをとる。


「あれっ?シザちゃんじゃない?」


 私と井下は声をする方を向くと葎成と桜井だった。私は固まり井下はハートの目になっていた。


「どっどうしたんですか?」


 井下は飛びつくように話しかける。


「社長、あちらに行きますよ。」


 桜井は葎成に言うが私の横が空いてる席に腰をかける。


「社長!」

「絢。うるさい。いいじゃん別に。」


“…うっ、ダメだ。この二人の香り。”


 二人のつける香水に心が動かされていた。その頃桜井は呆れ顔をしていたが社長は手を挙げるとウエイトレスが席に来る。


「いつもの二つ。」

「かしこまりました。」

「社長、勝手に私の分も頼まないでください。申し訳ございません。」


 桜井は私達に頭を下げ、私は首を振る。


「ご一緒させていただいてよろしいですか?」

「座ってください!」

 

 井下が手で座るように言うと桜井は会釈して空いてる席に座る。


「どうせこの店では一緒だろ?ところで今日は二人で何してたの?高校生がリッチじゃない?」

「今日はいつもの所がいっぱいで急遽贅沢日に変えたんです。」


 井下は葎成を見つめながら話す。そんな姿をみて私はそっと微笑み、そのまま桜井を見ると目が合い咄嗟に逸らし食事をする。


「社長さんは今日も仕事ですか?」

「まぁな。いちよう。昨日打ち上げで飲みすぎてやっと目覚めてご飯を食べに来たという。」

「飲み過ぎとかなんか大人な世界だなぁ。ねぇシザ。」


 急に振られてビクリとする。


「…そうだね。」


 事情を知ってるからなのか話すのが億劫だった。


「何処で打ち上げだったんですか?」


 井下はまた聞いて欲しくない質問をし私は背中に冷たいものが流れる。


「REDORAUだったかな?」

「えっ?」


 井下の返事は私が思っていた返事だった。井下はそっと私を見ては私は軽く首を振る。


「どうしたの?」

「あっ?なんでもないです。そうなんですねぇ。」


 井下もマズイと思ったのか食事を始める。


「なんか急に静かになった。あのお店に可愛い子いるよな。絢とよく話してた子名前なんだっけ?」


 葎成は考えるポーズをとりながら桜井に話を持ちかける。


「よく話してたというのは?」

「あの子だよ。え〜っと井梅さんだっけ?」


 その瞬間に井下はファークを落とす。


 ガシャーン!


「あっ。ごめんなさい。」

「大丈夫?」

「あっ。ハイ。」


 井下は私を見ては何かを訴えてるようだった。私も井下の目を見て首を軽く振る。


「何々見つめあって。」


 葎成はわざとらしいやり方で何かを探ってるようだった。


「お待たせしました。本日のプレミアムセットです。」


 ウエイトレスが運んできた料理に私達は目を開く。


「すご!」

「食べる?」

「いいえ!めっそうもない!」

「あははは。楽しいね君たちは。」


 桜井は葎成が食べるまでただじっとしているだけだった。葎成が食べ始めると桜井も食べ始め、桜井をじっと見て大人な世界と感心してしまった。


「何か?」


 桜井は私の視線に気づき尋ねる。


「えっ?あっごめんなさい。」

「ところでシザちゃんの手それ骨折?それって前の怪我?」


 桜井は私の手をじっと見ていた。私は咄嵯に骨折した手をテーブルの下に隠す。


「隠さなくても。」

「ちょっと酷くなってしまって、暫くは安静らしいです。」

「そうなんだ。けど何もできないんじゃない?」

「大丈夫です。学校とバイトだけなので。」


“あっ。しまった…。”


「へぇ。バイトしてるんだ。って前も言ってたね。何処で?」

「言う必要ありますか?」


 私の言葉に全員が食事の手を止める。


「いいね。そのギャップ。ゾクゾクする。」

「意味がわからないですが?」

「葎。ほどほどに。」


 桜井は冷静な口調で葎成に向かって発する。


「葎って?」

「俺のあだ名。苗字だけどね。あっ名刺いる?いるなら渡すけど。」

「いります!」


 井下は輝く目で欲しがり葎成は胸ポケットから名刺入れを出すと姿勢を正し丁寧に名刺を井下に渡す。


「シザちゃんは?」

「結構です。」

「うわー。俺断られたの初、しかも高校生に。けど一応ね、ハイ。」


 葎成は私の鞄に入れる。


「えっ?ちょっと。困ります。」


 葎成はウインクすると携帯電話を出す。


「番号教えてよ。」

「葎、それ以上は俺は黙ってないぞ。」


“桜井さん俺とか言うんだ。ちょっとドキッとしちゃった…ダメダメ。”


「これでおしまいだから。」

「いいんですか?」

「もちろん。」


 井下と葎成は携帯番号交換し、葎成は私に向けて携帯を出す。


「携帯ないので番号もありません。」


 返事を聞いた瞬間に葎成は大爆笑する。


「本当シザちゃんって期待裏切らないね。最高!まぁクロちゃんだっけ?連絡取れるからいいや。」


 その時井下に電話がかかってくる。井下はそっと私に渡し口パクで母と伝え、私は頷き井下から携帯を預かり席を外す。


「何々?」

「シザのお母さん。」

「なんで井下さんにかかってくるの?」

「シザが外にいる時は連絡取れないから。それでいつも一緒にいてる私の携帯に何かあったらかけるようになってるんだ。」

「そうなんだ。けど今時携帯持ってない高校生って珍しくない?」

「シザは別格だからね。」

「別格?何それ?」

「社長さん。シザと話ししてて何も感じないですか?」

「えっ?特に。」

「彼女は男性恐怖症ですか?」


 桜井は突然話に入ってくる。


「えっ?あ〜恐怖症ではなくて、ただ信じられないだけだと思います。だから誰が相手だろうと刃向かおうとする。特に男の人には…前みたいに見ててヒヤヒヤする時もあるんだぁ。」

「そうなんだ。だから俺に対しても冷たいんだな。」


 そんな話をしてる所に私は戻ってくると席に着き井下に携帯を渡す。


「ありがとうね。」

「大丈夫だった?」

「うん。」

「シザちゃんって好きなタイプってどんな人?」


 葎成は突然質問をし、私は井下を見ると驚いた目をする。


「…何を聞いたのか知りませんが私のタイプを聞いてどうするんですか?」

「ぷっ。あははは。もっともだね。気に入ったよ。」

「私は気に入ってませんけど。」

「あははは。今日は楽しい食事だ。」


 葎成は笑いながら食事を進め桜井は黙々と食べていた。食事が終わりドリンクが運ばれてくるがその後店のスタッフが二人掛かりで色鮮やかなケーキを運ばれてくる。


「えっ?!」

「お姫様達どうぞ。」


 井下は嬉しそうに喜び食べようとする所を私は阻止する。井下は思わず止まり私を見る。葎成と桜井も不思議な顔をする。


「何か企んでおられますか?」


 葎成は豆鉄砲食らったような顔し、そして笑う。


「何も企んでないから食べて俺からの差し入れだから。」

「わかりました。ありがとうございます。」


 好きな物を選び取っては井下は嬉しそうに食べるが私は手をつけずに食べないでいた。


「食べないんですか?」

 

 桜井は不思議そうに尋ねる。


「いえ。ミルフィーユをどう食べたらいいのか考えていて。」

「ぷっ。あははは!」


 椅子の背もたれから離れると葎成はお腹を抱え爆笑する。


「適当でいいよ。本当シザちゃんといると楽しい。なっ絢!」


 葎成は何か言いたげな顔をし桜井に微笑むが決まりの悪い顔をする。


「今日はごちそうさまでした。」


 私達は葎成と桜井にお礼をいい、昼食もデザートも全て支払いを済まされて私は断ったけど折れてくれず負けてしまった。


「いつでも呼んで。ご飯くらい一緒にするよ!」

「本当ですか?」


 井下はその場でジャンプして喜び私はそれを止める。周りから見るとすごく恥ずかしいくらい飛び跳ね、また葎成はお腹抱えて大笑いする。その後すぐに桜井の携帯電話に会社から連絡があり、彼達とお店で分かれ私と井下は買い物しようとモールに向かい井下の買い物に付き合う。


「あ〜いっぱい買っちゃった。お昼も浮いたしねぇ。」

「クロ!」


 私達は買い物を終え話しながら帰る。


「ごめんごめん。けどあの社長さんシザに優しいように見える。」

「面白がってるようにしか見えないけど。」

「そういう反応だからきっと気に入ったんだろうね。」

「クロ。社長さん好きとか言う?」


 井下はニンマリと笑う。


「ないねぇ。私には格が高すぎて無理だわ。あのテンションがどこまで正気か理解できないし。好きなっても苦しめられそうだと思うと何も心に響かない。」


 私はクスクスと笑い、井下は態度で上機嫌で好意を持ってそうに思うけど色々考えてしっかり者で少し見習う事もあるくらいだった。


「そうだね。けど桜井さんは違う気がするよ。」


 井下は私の発言にあまりの驚きで口が開いていた。


「クロ。口空いてる。」


 慌てて井下は口を閉じる。


「シザ。やっぱ桜井さん好きなの?」


 井下の言葉に正直に赤面する。


「え〜!!!!」


 叫んでいると思えば井下は泣いていた。


「なんで泣いてるの?」

「嬉しくて。シザが好きな人いるってなんか奇跡みたいで。」

「大げさな。」

「けどよほどな進歩じゃない?さて私も知らない所で色々あったな白状しやがれ!!」


 井下は私の肩に自分の肩を軽くつかりながらおちょくり出す。今まであったことと私が想っていることを話す。


「そっか。そんな事が。」

「けど私の片想いっていうのかな、向こうは何も思ってないよ、しかも高校生だし。」

「バイトの事はばれてないんでしょ?」

「まあね。けど時間の問題かもね。」


“社長さんはきっと気づいている気が…。”


「シザが本気なら協力するよ。」

「あははは。」


 初めて自分が好きという気持ちの話をした。今まではいつも相談や話を聴く側だったけど少し恥ずかしいというか自分の中にこんなにも桜井の事を考えてると思うと照れくさかった。その後彼達とも会うこともなく、いつの間にか一学期も終わりかけていた。


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